Out of Zero[2/11]

時折、同じ夢を見るんだ。

陽の光を浴びながら、果てしなく続くレンガ敷きの道を歩く夢だ。

そしてなぜか僕は、誰かと一緒にいる。

どこへ向かっているのだろう。

行くあてなどあるはずもないのに。







月明かりが皓皓と降り注ぐ、気持ちのいい夜だ。


足下に広がるガラクタをひとつひとつ丁寧に掻き分けながら、単調な作業に僕は小さく息を吐いた。口元を覆う布に、もやりと温かな空気が広がって冷めていく。

夜明けまでに、何かいい物が見つかるだろうか。

境界に位置するためにあちこちの大きな地区から様々な無機物のゴミが運び込まれるこの広大なスクラップ場は、僕にとっては宝の山だ。数日に1度はこうして人目を忍んでやって来て、物になりそうな何かを持ち帰る。

一見してゴミの山だけれど、この中にはあらゆる無線を傍受できる受信機だとか、旧文明時代の通信機や針の付いた時計なんかが埋れていることがある。もちろん全部壊れてるわけで、そういうものを修理して売りさばくのが僕の生業だった。

ガラクタの積み上げられた小高い丘に登り、隙間に腕を突っ込んでスチールの机をずらしてみる。

むにゅりとした何かが、手に触れた。

手袋越しに感じる有機物の感触に慌てて手を引っ込める。


まさか。


後ろに下がり、脚の折れた机に手を掛けて持ち上げる。それを脇に置いてから、下に埋もれるタイヤや金属板などを取り除いていけば、やがてそれは姿を現わした。


──── 死体だ。


赤ん坊のように身体を丸めたその人は、僕より幾分か年上の男のようだ。

着ている服は汚れてはいるけれど上質の絹でできていて、この辺りに住む者でないことには違いなかった。

僕は琥珀色のスコープを額まで上げて、まじまじと彼を見つめる。

整ったきれいな顔をしている。まるで眠っているかのように見えるものの、呼吸をしていないことは明らかだった。
煤の付いた頬に、恐る恐る触れてみた。柔らかな弾力に、鼓動が速くなる。


本当に、死んでいるんだろうか。
いや、もしかすると。


屈み込んで両腕を伸ばし、彼の着ているシャツのボタンを上から外していく。ひとつ、ふたつ。みっつめを外したところで目当てのものは露わになる。
けれどそれは、僕の思っていた形状ではなかった。

左胸に細く走る、黒くただれた痕。

焼きごてを押し付けられたようなそのラインの最後にかろうじて残された数字を、目を凝らして読み取る。


『■■■■■■■■■■■■■■■ 0 』


はだけた胸元から、恐る恐る視線を移していく。

煤けた頬はそれでも艶やかな質感で、今にも長い睫毛が震えて瞼が開きそうだ。

その瞳の色を、見てみたいと思った。

僕はかつてなく興奮していた。
こんな廃れた地区ではけっして出逢うことのない、最高級のアンドロイドを前にして。

そっと彼の腕を取り、肩を抱える。僕に連れて帰れるだろうか。心配しながら力を込めて持ち上げてみれば、想像していたよりも重みが足りず、バランスの悪さに思わずよろめいた。


ごろりと転がる2本の脚。


瓦礫の中に置き去りになったそれを屈み込みよく観察して、その太腿の中心部がきれいなことに安堵する。この構造なら僕でも容易く嵌められるだろう。
脚が外れているのはむしろ都合がよかった。半身の重さで何とか家まで持ち帰れそうなぐらいだから、脚が付いていれば無理だったかもしれない。2往復するぐらいがちょうどいい。

上半身を対面に抱え、足下に注意しながらゆっくりとガラクタの山を下っていく。
メインストリートを通らなければ、人に出くわす可能性は低い。
ずしりと冷たい重さが、なぜか心地よかった。


月夜の下、僕はキラキラと光る宝石を拾ったんだ。



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