真夜中の超高層マンションを下から見上げると、光を纏いながら天にそびえたつ塔のように見える。まるで、バベルの塔だ。天まで届く塔を造ろうとした人間は、神様の裁きを受ける。僕はまだ、神様に赦されていなかった。マンションのエレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押す。機械仕掛けの箱は、一度も止まらずに天上に辿り着く。角の一室の鍵を開けると、僕を待つ人の声がした。「アスカ、おかえり」「ただいま」ユウはPLASTIC HEAVENをいつもより少し早めに閉めて帰ってきていた。僕を迎えるために。4日間の契約を終えてきた僕を見つめるユウの視線を感じながら、バスルームへ向かう。「シャワー、浴びてくる」抱かれた余韻を、残らず洗い流したかった。バスルームを出て薄暗いリビングに入ると、ユウがグラスを片手にソファに座っていた。間接照明に照らされたその姿が、闇から仄かに浮かび上がる。僕はゆっくりとユウに歩み寄る。「僕、あの人のことが好きだったよ」僕の言葉にユウの瞳が揺らぐ。「サキに似てたんだ。声が……」――アスカ……愛してるよ。嘘だ、サキ。僕のことなんて愛してなかったじゃないか。「泣くなよ、アスカ」ユウが僕の頬を親指で拭う。僕を映すその瞳は、サキと同じきれいな鳶色。僕たちは、触れるだけの優しい口づけを交わす。ユウが僕にくれるキスは、なぜかどこか無機質な味がした。「何でもしてやるから」ユウ、無理だよ。僕の本当の望みは、誰にも叶えられない。「サキに、会いたい……」天上の夜。僕はユウの腕に抱かれ、小さな子どものようにうずくまり眠る。"Honey Kiss" end - 10 - bookmarkprev next ▼back