after Honey Kiss side A[1/1]


真夜中の超高層マンションを下から見上げると、光を纏いながら天にそびえたつ塔のように見える。
まるで、バベルの塔だ。
天まで届く塔を造ろうとした人間は、神様の裁きを受ける。
僕はまだ、神様に赦されていなかった。

マンションのエレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押す。機械仕掛けの箱は、一度も止まらずに天上に辿り着く。
角の一室の鍵を開けると、僕を待つ人の声がした。

「アスカ、おかえり」

「ただいま」

ユウはPLASTIC HEAVENをいつもより少し早めに閉めて帰ってきていた。僕を迎えるために。
4日間の契約を終えてきた僕を見つめるユウの視線を感じながら、バスルームへ向かう。

「シャワー、浴びてくる」

抱かれた余韻を、残らず洗い流したかった。




バスルームを出て薄暗いリビングに入ると、ユウがグラスを片手にソファに座っていた。
間接照明に照らされたその姿が、闇から仄かに浮かび上がる。
僕はゆっくりとユウに歩み寄る。

「僕、あの人のことが好きだったよ」

僕の言葉にユウの瞳が揺らぐ。

「サキに似てたんだ。声が……」

――アスカ……愛してるよ。

嘘だ、サキ。僕のことなんて愛してなかったじゃないか。

「泣くなよ、アスカ」

ユウが僕の頬を親指で拭う。僕を映すその瞳は、サキと同じきれいな鳶色。
僕たちは、触れるだけの優しい口づけを交わす。ユウが僕にくれるキスは、なぜかどこか無機質な味がした。

「何でもしてやるから」

ユウ、無理だよ。僕の本当の望みは、誰にも叶えられない。

「サキに、会いたい……」




天上の夜。
僕はユウの腕に抱かれ、小さな子どものようにうずくまり眠る。






"Honey Kiss" end




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