epilogue[1/1]

「よう。イケメン。元気ないじゃん。もう死期が近いのかもな」

同僚の高城が、開口一番にそう言う。

「……ペットが家出したんだよ」

かわいそうな子を見る目はやめてくれ。

「お前どうせ早死にするんだから、とりあえず楽しく生きろよ」

高城が俺を適当に慰める。

「そうだな。すぐ立ち直るから、また合コンのセッティングよろしく」

俺の言葉に高城がニヤリと笑う。

「了解。それまで生きてろよ」





アスカはあれ以来、俺の前から姿を消していた。
追加料金の請求も来ない。アスカの言い方を借りれば、あのセックスは料金に含まれていたのだろう。
俺はアスカを抱いてから、憑き物が落ちたように美希への未練を失くしていた。大切にしていた美希との思い出を、アスカで二度塗りしたからかもしれない。

アスカとの契約がなぜ4日間だけなのか。俺にはなんとなくわかる気がした。
あれ以上一緒にいれば、俺はアスカを本気で愛してしまっていただろう。アスカを手離すことができる限界の期間。それが4日間なのかもしれなかった。

PLASTIC HEAVENに行けば、マスターはいつも通りイケすかないぐらいクールに振る舞う。俺にアスカを紹介したことなど忘れてしまったかのように。
俺はアスカのことを何も訊かない。マスターも勿論何も言わない。
アスカと過ごした4日間は、幻だったのかもしれない。




そんな折、携帯に非通知で電話が入った。

『……ハルくん』

誰かと思えば、美希だった。

『そろそろ、連絡しても大丈夫かなと思って……』

今更何だよ、とは言えなかった。俺はやっぱり美希のことが気になっていた。

『ハルくん、ごめんなさい。私、ハルくんのことが大好きだったよ。でも、ハルくんは私が一緒にいても淋しかったでしょう。それじゃダメだって、ずっと思ってた。ハルくんの運命の人は私じゃない。一緒にいたらダメだって、気づいてた。でも、説明しても多分ハルくんはわかってくれないと思った。だからあんな形で……』

美希の言うことは、今ならなんとなくわかる気がした。

「悪かったよ。美希、今までありがとう」

いっぱい我慢させたし、悲しい思いをさせた。
俺には美希がいないと駄目だと思ってた。でも、多分それは違った。結局のところ、俺は美希でも駄目だったんだ。

『あの神社で会ったきれいな男の子。ハルくんのこと、好きなんだね』

美希が急にアスカのことに触れる。そうだ、美希もアスカに会ってたんだ。
アスカはやっぱり存在したんだなと、俺は妙に安心する。

「ああ、あれは違うんだ」

『私にはわかるよ。あの子、ハルくんのことが大好きな目をしてたもん』

本当に違うんだけどな。ま、いいか。

『私、遠くから祈ってるよ。ハルくんが、一人で立つことができますように。いつかハルくんに、本当に大切な人が現われますように。ハルくんに、幸せになってほしいから』

美希の祈りは、神様には届かないかもしれない。でも、俺にはちゃんと届いてる。

「おう、任せとけよ」

『心配だよ』

安請け合いすれば、美希の笑い声がした。




そして俺は、アスカの甘い匂いを想い出しながら神様に祈る。
きれいで、魅惑的で、誰よりも淋しがりやのアスカ。
いつか、アスカが淋しがらずにいられる日が来るように。








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