3日間の帰省を経て、佳月は再び月へと帰って行った。
飛び立つ船をディスプレイ越しに見送ってから咲耶を起こしにいけば、彼はベッドで安らかに横たわっていた。
本当に眠っているみたいに見える。
こうしてまじまじと見つめると、佳月によく似ていると思う。
よく似ているどころじゃない。佳月そのものだ。
「咲耶、起きて」
肩を掴んで揺すれば、ゆっくりと瞼が開いた。
「うん……おはよう」
身体を起こして寝癖を手ぐしで整える姿は、人間と寸分違わない。
「佳月は元気だった?」
「うん、とてもね」
安心したように笑う咲耶は、僕の顔を見て少し不思議そうに尋ねてくる。
「朝陽、何かいいことあった?」
「え?」
「いつも佳月がいなくなると淋しそうにしているのに、そうじゃないから」
なんて敏感なんだろう。咲耶の洞察力の高さに舌を巻きながら、佳月が来春には帰ってくることを伝えようとして ─── ふと思いとどまる。
それは、確信にも似た予感だった。
咲耶は、佳月が戻ってきたらここからいなくなるんじゃないか?
「……そうかな。そんなことないよ」
僕の笑顔に咲耶は少しだけ不審そうな顔をする。それをなんとかごまかそうと、僕はその腕をそっと引いた。
「ほら、早く起きて。咲耶の淹れてくれるジャスミンティが飲みたい」
どくんどくんどくんどくん。鼓動は大きく鳴り響いて、止まらない。
この手に触れているのは、さっきまで僕を抱きしめてくれていた腕じゃないんだろうか。
「仰せのままに」
からかうようにそう笑って、咲耶は立ち上がる。僕は混乱する自分の気持ちに蓋をして、その後に続いて歩き出した。
「ねえ、咲耶。見せたいものがあるんだけど、あとでちょっといい?」
「わかった。ジャスミンティを淹れてからね」
振り返りもせずそう答える咲耶の後ろ姿は、もう佳月にしか見えない。
この3日間、何度も2人で見たアースライズの映像を、僕は思い浮かべる。
ねえ、佳月。
確かめるだけなんだ。
僕は、誰が好きなんだろう。
ぽっかりと浮かぶ青い地球が、大気を纏い美しく輝く。
見つめ合えばその眼差しから流れ込むのは、愛情に似た何か。
夜の世界で重なる唇は、禁断の果実と同じ味がした。
"EARTHRISE" end
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