別れと約束
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「イザベル」
「……ラビ」
「…隣いいか?」
無言でこくんとだけ頷くとラビが隣にくる。私は今窓から海の様子と例の改造アクマを眺めていた。その改造アクマは、ちょだっだだだだぁああ――――!!!と可愛くパワフルに船を押していた。可愛いんだけど、ちょっと今はそれを笑って見られない。気まずさを感じる。リナリーが目覚めてくれて嬉しくて忘れてたけど、ラビとちょっとした喧嘩中だった。
「……さっきは悪い……ついカッとなった」
「ん……私もミランダもクロウリーもリナリーだってラビの事仲間だって思ってるからもうあんなこと言わないでね」
「……」
私の言葉に返事をせずに無言になり俯くラビ。ラビはラビなりに考えている事はあるんだろうけど、そんな事は関係ない。今私達と一緒にいるのは始まりはブックマン後継者だとしてかもしれないけど今はエクソシストとしてでしょ?仲間じゃなかったらアレンがいなくなった時あんなにリナリーに対して怒ったりしない。今までも…だから私達は後継者としてじゃなくてラビとして見てる。ラビはとっくに分かってると思ってたけど、やっぱり複雑なのかな?でも、ここにいる限りは仲間でしょ?それでも駄目かなぁ。でも、諦めたくないからラビの隣から離れてラビの背中と自分の背中を合わせて寄りかかり体重をかける。
「ちょちょ!イザベルさん重いんですけど!?」
「は?なんか言った?」
「怖っ!分かった分かったから!気をつけます!」
「……何を?」
「…仲間を悲しませない事を」
ラビの言葉に私は満足するとラビの上から離れる。はー死ぬかと思ったとさり気なく失礼な事を言ったのでムカッとして今度はラビの背中に抱きついて背中を頭でグリグリとする。痛い痛いと言ってくるラビに対して自業自得と返しグリグリは止めない。諦めたのかラビははぁとため息を吐いて何も言わなくなった。いや、ため息つきたいのこっち。でもまあ、仲直りできたからいっか。
「ちょだっだだだだぁああ――――!!!ちょちょちょちょちょ――――――!!!」
「おおーぅ速っえぇさ――!すげェなアクマはっ!! でもこんなスッ飛ばして体力もつんかちょめ助?」
「「ちょめ助」!? オイラ「ちょめ助」になっちょっちょ!?でもカワイイっ 時間が無いっちょ!少しでも江戸に近づかなっちょ!!」
「時間て…お前なんか慌ててんさ?」
「………オイラの都合だっちょ!ちょちょちょ――――――!!!」
そういえばクロスが言っていたような気がする…改造アクマは確かに伯爵の命令を聞かなくてもいいようにとかはされてるけど殺戮衝動は完全に抑えられない。だから、殺戮衝動が起きたら自爆するよう設定されるっていうこと。つまり、時間がないって事だよね。可愛いし面白いからもう少し一緒にいたかったんだけど…悲しいな。
「でもこっちも早く江戸に着けた方が助かるよ。 ミランダの疲労が激しいの。アクマの攻撃で受けたダメージがすべて刻盤に流れ込んでるんだもの。体力もだいぶ消耗するわ」
ラビから離れて後ろにいるミランダとリナリーの方へと振り向く。ミランダはリナリーの肩に頭を置き目元にタオルをし荒く息を吐いている。見るからに体調はよろしく無くて心配になってミランダの隣に座り背中を優しくさする。
「ミランダ…」
「大丈夫かミランダ?ご、ごめんなちゃんと守ってやれんくて…」
「いいえ…ごめんな…さい。ごめんなさい。私…江戸までもたないと思う…」
「気にすんなさ」
「ちがうの…………ごめんなさ…それだけじゃなくて…私は…私は、これから…」
ミランダが言おうとしてること……それはきっとみんなとの別れ。巻き戻しの街でのようにミランダのイノセンスの発動が解かれて私達の怪我が元に戻ったようにこの船での戦闘の傷が元に戻る。つまり、アクマのウイルスに感染した人の死。ミランダを守ってくれた人達の死を意味する。きっと私達の想像を超えるくらい辛い思いをしてるんだろうね。
「ミランダ…ひとりで背負っちゃダメだよ?エクソシストはあなただけじゃない。みんな一緒だからね私達は…一緒に踏む道だからね」
「リナリーの言う通りだよ…あなたの心の痛み私達にも背負わせて?」
涙を流しながら何度も謝るミランダ。ミランダは悪くないむしろミランダがいなければきっと船はボロボロで江戸に行けなかったし人手も足りなくて生き残っていた船員さん達の負担も大きいだろう。だからミランダが謝ることなんて一つもないのに会ったときからミランダは自分を下に見すぎている。そんな事ないのに。それからずっとミランダの側を離れずにいたらマホジャさんが甲板に集まるようにとアニタさんからの伝言を伝えに来てくれたので私達はそれに従い移動した。お別れの時間はもうすぐだ。
「あの…船員方の姿が全然見えないであるぞ?」
「あっホントだ」
「まさか…っ」
「ごめんなさい。船員らには見送りは不要と伝えました。今は船内で宴会して騒いでます。 どうかお許しください。最期の時を各々の思うように過ごさせてやりたかったのです」
「生き残ったのは…あなた方だけなんですか…!?」
リナリーが一筋の涙を流しながら言い、ミランダは責任を感じでいるのだろう、涙が溢れ出て俯いている。エクソシストが6人いてこれだけの人しか助けられなかった悔しさで私は違う涙が溢れでて拳を強く握って俯く。自分が不甲斐なくてしょうがない…何がアクマから人間を守るだよ…全然守れてないじゃん。
「良いのです。私達は皆アクマに家族を殺されサポーターになった。復讐の中でしか生きられなくなった人間なのですから我ら同志の誰ひとり後悔はしていません」
「江戸へ進むと我らがつくった道をひき返さないとあなた方は言ってくださった。それがとても嬉しいです」
ミランダの肩に手を置いて話すアニタさん。そしてマホジャさんにそんなことを言われてしまったら自分を責めにくい。もしかしたら私達が自分を責めているかもしれないから配慮して言ってくれたのかもしれない。けど、被害者であるマホジャさんたちにそう言われて救われないはずがなかった。救うのは私達だったのに救うどころか救われて守れなかったのに優しい人達だ。
「「勝ってくださいエクソシスト様!!!我らの分まで!!進んでいってください!!!先へ!」」
「拡声器から………!?」
「「我らの命を未来へつなげてください!!!」」
「船員さん達だわ…っ」
別れに悲しみにくれる中、宴会の最中であるはずの船員さん達の叫びが拡声器を通して私達の耳に響く。生き残った我らの仲間を守ってください、生きて欲しいです!!平和な未来で我らの同志が少しでも生きて欲しい勝ってくださいエクソシスト様!!!と拡声器からの叫びは続く。私達はこの人達の命を背負って生きていかなくちゃいけない……強くならなくちゃ。絶対生きてホームに帰る。私は強く決意して用意してくれた小さな船へと移動した。
「江戸までまだ距離があらとりあえず近い伊豆へオイラが連れてってやるっちょ」
「さ、アニタさん」
「マホジャさんも」
ラビ命名のちょめ助が小さな船を持ち上げてくれてアニタさんの船の甲板から先に私達が飛び乗り他の生き残った船員さん達を船へ乗せて今度はマホジャさんとアニタさんの番。リナリーと私は2人に手を伸ばすけどアニタさんの手はリナリーの横髪に触れマホジャさんの手が私の頭に乗った。
「髪…また伸ばしてね。とても綺麗な黒髪なんだもの戦争なんかに負けちゃダメよ? イザベルちゃん……クロス様をお願いね」
「!」
「さようなら」
現実を受けきれないまま、どんどんアニタさんとマホジャさんから遠のいていく私達。伸ばした腕が掴まれることなくさ迷い完全に見えなくなるまで伸ばし続けた。リナリーと私は声を出して大泣きし他のみんなは俯き静かに泣いていた。ミランダが涙でぐちゃぐちゃで震えながらもイノセンスを解除した。船は光を放ち、見る見るうちに本来の姿へと戻り海底へと沈んでいく。
「…必ず。必ず勝ちます」
「「必ず…!!」」
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