眠れない。ザンザスに今日褒められたことが嬉しくて布団に入っても思い出してニヤニヤしてしう。ザンザスは滅多に褒めない。というか褒められたのは初めて。なので嬉しくて嬉しくてしょうがないのだ。眠れないのはしょうがないので、屋敷をうろうろとして夜風にあたることにした。しばらく歩き、ザンザスの部屋が近くなるとザンザスの部屋のドアが開き、そこから電気の明かりが見えたので気になって近くの柱からそっと様子を覗く。(夜遅いから怖いし)




「……あ、おにいさま………と、女の子?おにいさまと同い年くらいかな?なにしてるんだろ…?」




興味津々で2人の様子を観察する。なんせ、ここには自分と近い歳の人はなかなか来ないしザンザスに客人?しかも夜中にはかなり気になった。




「……なに話してるんだろう?………えっ!?」




声が出てしまった。いけないいけない、聞こえるところだった。それよりも、女の子がザンザスに抱きついて、キスをした。ザンザスは抵抗なし。幼い私にはこれでも刺激が強い。何がなんだか分からない。でも、小さい頃(今でも充分小さいが)お父様がキス、口付けとは好きな人同士が愛を証明するためにするものって言っていたのを思い出して考える。




「(おにいさまは、あのこのことが好きなのかな?でも、キスをしたってことはそうだよね?やだな……わたしだっておにいさま好きだし。わたしたくないなー)」




そう、すでに私はザンザスへの気持ちに気付いていた。月に1度、両親と弟が様子を見にこちらにくる。その時に、自分の変化を不思議に思って聞いたところ、それは恋だよと教えてくれた。それから恋について聞いて後日考えてみると言われた通りになったのでこれが恋なんだと知った。知ってからはたまに大好きなどを言うようにはなったのだが、ザンザスには兄としてとしかとらわれておらず(私が恋を知ってるなんて思ってない)今の兄妹のままというわけ。




「(とりあえず、まだまだそれだけじゃ分からない……またあの人がきたらたしかめよう!)」




それから、私のザンザス密着計画が始まった。




「んーおかしい……」




あれから数字経ったが最初に現れた女性は来ない。だが、毎晩のように女性は来ていた。しかも毎回女性の方からキスをして帰っていく。このことが疑問で悩んでいた。家族が来たのはつい最近なのでまだしばらく時間があって聞けない。なので、屋敷にで入る人達に聞こうと思い聞いてみるも、子供。しかも10歳をこえてすらいないのに教えれる内容ではないのでやんわりと断られた。こうなったら盗み聞きだ!と思いザンザスの事を話している人達を探し始めたらすぐに見つかった。




「聞いた?あの話」


「聞いた聞いた!ザンザス様のあの話でしょ?」


「(あの話?なんだろう?)」


「ザンザス様、女の子を部屋に招き入れてるんでしょ?ふしだらなこともしてるって」




ふしだらなんて言葉を当時の私が知っているわけもなく、疑問でハテナを浮かべている。一体なんのことかも想像できない。




「たしかにザンザス様は思春期でいらっしゃるから分かるけど、フィロメーナ様が可哀想だわ……」


「本当よね。好きでもない子とキスしてるなんて知ったらショックを受けてしまうに違いないわ…」


「そうよね……恋人でもないのにそういう事を平気でするなんて知ったら……」


「フィロメーナ様にはバレないように隠さないとね!」


「ええ、そうね!まだ小さいのにそんな思いをさせたくないものね!」




2人は去っていく。どうやら、こちらの存在には気付かなかったようだ。私はその場から離れずにいた。まだ、2人が言ったことを上手く理解できていなかったからだ。2人が話していた内容を脳内でリピートしてゆっくりと考えてみる。けども考えても考えても、頭がややこしくなるだけだった。というわけなので、考えるより先に行動!と発端であるザンザスに聞くことにした。幼い私は人生経験というのが短いので知識が浅い。特に恋愛。おませになる年頃なのでそういう話は気になってしょうがない。しかも大好きなザンザスだ。誰にも渡したくない。その思いがあったから、ザンザス本人に直接聞きに行くことにした。




「おーにーさーまー!聞きたいことがあるの!」


「……なんだ」


「やしきのひとたちの間でわだいになってることは本当?」


「…話題?」


「えっと、毎日ちがうじょせいとふしだら?なことしてるとか、あそんでるとか、とっかえひっかえとか!」


「……意味分かってねえだろ」




まさか私からそんな言葉が出てくるなんて思ってもみなかったようで、ザンザスの顔が分かりにくいけども動いていた。




「まったく!きいてもおしえてくれなかった」


「…だろうな」


「だから、おにいさまにききにきたの!……そ、それに………えっと、おにいさまが、まいばん………き、キスされ、てるの…………みたから」


「…ちっいたのか……だからなんだ」


「えっ?」


「てめえには関係ねえだろ」




その言葉がグサッと心に刺さる。でも負けずに自分が思っていることを素直に吐き出す。




「あるもん!おにいさま、きづいてくれなかったけど、好きだもん!おにいさまのこと、おとこのことして好きだもん!だから、好きな人が女の子とキスしてるのいやだもん!それに、わたしの名前はてめえじゃないもん!フィロメーナだもん!ぜんぜん名前でよんでくれない!」




言い切った。達成感。今まで言えなかったこと全部やっと言えた。嬉しい。でも、ザンザスからの返答はない。ずっとピクリとも動かずに黙ってるだけ。それが、だんだん気持ちが不安になってくる。




「フィロメーナ」


「!?」




引き寄せられて重なるザンザスの唇。大好きなザンザスの顔が近くに見えるし、獣を思わせる鋭い目と視線があって目が離せない。でも、すぐに離れて、されたことを思い出して顔に熱がのぼる。なんせ、ファーストキスだし相手が自分が大好きでやまない人だから余計。




「え、え、え、おにいさま!?」


「ガキが調子のんじゃねえ」


「いひゃい!いひゃいよ!おにいひゃま!」


「てめえが悪いんだろうが」


「なんひぇー!」




やっと解放されたけど、思いっきり両頬をつねられて痛い。容赦ない。そしていつも以上に機嫌が悪い。なぜこんなに機嫌が悪いのか、私には分からない。




「なんでそんなにきげんがわるいの?」


「……てめえのせいだろうが」


「……なんで?」


「……るせえ」




また、塞がれる唇。なにがなんだか分からない。なぜザンザスは私にキスするのか。私も遊ばれているのか。あの人たちと一緒はやだなあ。そうじゃないといいなと思っていたら急にザンザスが立ち上がり私を引っ張って歩き出す。




「どこいくの、おにいさま?」


「……じじいのところだ」


「?どうして?」


「…黙ってついてこい」


「……はーい」




私はザンザスに連れられて9代目のところに向かっていた。理由は教えてくれなかったので疑問に思いながらついていく。しばらく移動し、9代目の執務室に着くとザンザスはノックなしに入っていく。そうするのは分かっていたので私は一礼してから入室すると、お母様がいた。




「お母様っ!」


「久しぶりね…少し大きくなったわね。ザンザスも久しぶり」


「ちょうどいい所に来たね、2人とも。2人に私達から話があるんだ。その様子だとザンザスと同じものかもしれないね」


「!」


「おにいさまと同じ?」




ザンザスと同じ内容ということに首を傾げる。ザンザスが言いたいことは9代目の超直感で分かったんだろうけど、いったいどんなものか。そのことで頭がいっぱいだ。




「フィロメーナちゃん、突然なんだけどザンザスとの兄妹関係も今日で終わりにしたいと思う」


「え……どうして、ですか……」


「相変わらず泣き虫なんだから。フィロメーナ、9代目の話を最後まで聞きなさい」


「はい……」


「今日から君はザンザスの婚約者になって欲しいんだ」


「…ちっ」


「え!こんやくしゃってあの…?」


「そうよ。ザンザスが大人になったら結婚する相手にフィロメーナがなるってこと」




婚約者の意味はもちろん知っていた。親同士が決めた婚約者なんて当たり前にいる世の中だ。自分も例外はない。いつか来るとは思っていたがまさか自分が大好きな人となんて夢にも思っていなかった。




「わたしで、いいんですか?」


「もちろんさ。ザンザスもフィロメーナちゃんの事を気に入っているし、彼も似たような事を言いにここに来たんだろう?」


「ちっ…ああ」


「じゃあ、おにいさま…まいばんつれてくる女の人は…?」


「あら?」


「ははっ直球だね」


「……ちっ余計なことを」


「ザンザス。そんな事をする人にうちの可愛い娘をあげるわけにはいかないわ。やめるわよね?その遊び」


「…当たり前だ」


「ほう…」


「あら…意外と素直」




珍しいものを見る目で9代目とお母様がザンザスを見ていたので居心地が悪くなったのか舌打ちをする。




「いくぞ」


「わ、え、おにいさま!」


「フィロメーナ。後でね。幸護も待っているわよ」


「わかりました!」




来た時と同じように引っ張られて部屋から離れていく。だけど、来た時より乱暴。そして、背中から発するオーラを見る限り怒ってらっしゃる。ザンザスの部屋へと戻るとベッドへと投げ飛ばされて、ザンザスが上から覆いかぶさってきて、押し倒される状況になる。展開が突然すぎて思考停止だ。




「えっと、おにいさま?」


「…その呼び方、やめろ。俺はもうてめえの兄じゃねえ」


「じゃあ、なんてよべばいいの?」


「呼び捨てにしろ」


「なら、そっちもちゃんと名前でいって!いってもぜんぜんなおしてくれてないもん!じゃなきゃいわない!」


「……フィロメーナ…これでいいだろ…」


「うん!ザンザス!えへへ」


「はっ安っぽいやつだな」


「いいもん!あの、どうしてわたしをこんやくしゃにしたの?」


「……まだ分からねえのか」




分かりません。ザンザスはいつも言葉が少なすぎるので分かりません。はっきりいってくれないと困ります。なんて言えるはずもなく、ザンザスの次の言葉を待つ。




「てめえが好きだって言ってんだ、フィロメーナ」


「……ぇ」


「じゃなきゃ、んなガキにキスしねえ」


「ぇ、ぇ……いつ、から?」


「……さあな?」


「じゃあ、どうして女の人と…?」


「まだ早え……」


「?」


「……覚悟しとけ、でかくなったら」


「?え?」




この意味を知るのは、まだまだ先の話。その後解放された私は両親と弟に会いに行き、お父様にはザンザスとの事で泣かれ、幸護も意味は分かってはいないものの、なかなか会えないうえに、さらに私が(心の距離が)遠のいた気がしたのか泣き始めて、お母様はお父様を、私は幸護を泣き止ませるのに苦労したのは別の話。


大人の話


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