五日目A
「――っふ、うぅ――んんっ」
頼りない電灯の明かりに照らされながら、田中が俺の胸を優しく揉み、そして舐めて吸っていた。
いつも着ているつなぎ服は腰のところまで下ろされ、肌着もブラジャーも捲り上げられている。
戦車の床の冷たさが、背中に移ってきて少し寒い。仰向けに寝かされた俺は、田中のされるがままになっていた。
揉むだけだと言った筈なのに、いつの間にか雰囲気に流されて、こんなことになってしまった。
しかも悔しいことに案外悪くない。とても気持ち良いのである。
気持ち良過ぎて、さっきから変な声が出そうになっている。一応押し殺してはいるのだが、吐息だけは漏れてしまう始末。
恥ずかしくて死にそうだが、田中はそんな俺に興奮しているようで、ちらちらと俺のことを雄の顔で見てくる。恥ずかしい。
「――左右田」
はああ――と甘ったるい息を吐きながら、田中が俺の乳首に齧り付いた。それがまた絶妙な力加減で噛むものだから、腰の辺りが疼いて仕方がない。
これが所謂「女の発情」というやつなのだろうか。刺激がもっと欲しくて、でも怖くて切ない気持ちになってくる。
男の時は「支配したい」「刺激を与えてやりたい」という能動的な思考だったが、今は「支配されたい」「刺激を与えて貰いたい」という、受動的な思考になっている気がする。これが女というものなのだろうか。
嵌ってしまいそうで恐ろしい。
「左右田。此処に――触れても、良いか?」
すっと、触れるか触れないかのところで指先を止め、田中が俺の――俺の陰部に触れて良いかと尋ねてきた。
流石にそれは拙い気がする。いや拙い。拙いと判っているのだが――腰が疼いて仕方がない。
触って欲しい、滅茶苦茶にされたい。他の誰でもない、田中にされたいと――俺の中の女が五月蠅いくらいに喚いているのだ。
嗚呼――もしかして俺、田中に惚れてしまったのだろうか。いつ惚れたのかは判らないが、惚れてしまっていたのだろうか。だからこんなことを、田中に――。
「――良いぜ。お前になら、触らせてやっても」
俺はゆっくりと、つなぎ服に手を掛けた。
――――
田中と色々やらかした後、まるでタイミングを見計らったかのように、俺の身体は男のそれに戻った。
俺は急いでコテージに戻り、女性用下着を脱ぎ捨てた。男に戻った以上、女装紛いのことはしたくなかったからである。
――ん? 田中と何を色々やらかしたか?
そんなこと言える筈ないだろう。
馬鹿か。莫迦なのか。
何故そのような己の醜態を晒す行為をせねばならんのだ、馬鹿か。
意地でも言わんぞ、書かんぞ。
でもまあ、一つだけ言えることといえば――誠に遺憾ながら、俺は田中と恋人的な関係に成り下がってしまった――ということくらいだろう。
女になったり、男と恋仲になったり。現実というものは、何が起こるか判らない複雑怪奇なものなのだなあ――と、俺はまた一つ賢くなったのであった。
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