今日は何の日?





「…なに、言ってるの?」



目の前には真面目な顔をした一君
大好きな人はいつもと変わらない表情のままその言葉を告げた



「だから、俺達別れないかと…」









うちの高校では屋上は立ち入り禁止になっている
真面目な生徒が多いからか皆律儀にその決まりを守っていて、屋上は穴場スポットだ

登校そうそう一君に話しかけられたかと思ったら、『別れないか』と告げられた
その場に居続ける事が出来なくなった僕は、こうして屋上へと逃げてきたんだけど…



「『別れないか』って事は『別れたい』って事…だよね」



校舎に寄り掛かりながら体育座りをして、ポツリと呟く
僕は一君を怒らせる何かをしてしまっただろうか
嫌われる、愛想をつかされる事をしただろうか

考え無くても分かる
答えはイエスだ
毎日毎日、一君に迷惑をかけてばかり
一君はどんな事でも苦笑いをしてから許してくれる

そんな優しさに甘え過ぎていたのは確かなんだ

あとは



「好きな子が…出来た、とか?」



無くはない話だ
一君は淡白そうに見えて、優しさや愛情を欲しているんだと思う
僕に愛情が無い訳では無い
ただ、きっと一君には足りなかったんだ

ギュッと唇を噛み締めて、他の子に微笑み掛ける一君を想像する
これ以上無いくらい締め付けられる胸が、一君の事が好きだって訴えて居た



「…もう、本当に駄目なのかな」



一君は優しいし、自分の思っている事をあまり言ってこない
辛さも抱え込んじゃうんだ
その一君が言ってきたということはもう駄目なんだろう
気持ちを飲み込んで無理矢理納得する事にした

俯いていた顔を上げると目の前には一君が立っていて、
僕を真っ直ぐに見つめている
その瞳は何だか困った様な色が滲んでいて

もう、解放してあげなくちゃいけないんだ…



「…」
「一君」
「実はなっ…」
「…だっ」
「総司?」

「嫌だっ…別れるなんて、言わないでよ」



決めた筈だった
一君の幸せの為に、別れてあげるつもりだった
だけど、僕の口は勝手に動いて…



「お願いだからっ…」



頬を伝う雫が熱い
また一君を困らせてしまってる
また嫌われちゃう
堪えようと思っても、溢れてきて、止まらなくて
すると、一君は辛そうに眉を寄せて



「すまん」
「…」



そうだよね
すがりつくなんて、みっともないよね
やっぱり、僕から離してあげなくちゃ
一度深呼吸をしてから、一君を見つめ返した時だった



「すまなかった」
「え…?」



頭を下げて謝る一君
まさかこんな姿を見るなんて思わなかった僕は、つい間抜けな声を上げてしまった
そんなに必死に謝らなくていいのに
だって、気持ちが離れてしまう事も
他に好きな人が出来る事も、悪い事ではないし、
あり得る事なんだ
僕に引き止められるだけの魅力が無かっただけだから

だから頭を上げるように促しても、一君は微動だにしなかった



「嘘…なんだ」
「は?」
「今日…何日か覚えているか?」
「え、今日?四月一日だけど」
「…」
「別に特別な記念日なんか…」



ん、四月一日?
嘘?

もしかして…



「エイプリルフール…ネタってこと?」
「…うむ」



…うわっ、恥ずかしっ!
完全に騙されてたっ!!
てか、『別れてくれ』ってシャレにならない冗談やめてよ!
ってか、あんな真顔で言われたんじゃ誰でも信じるでしょ!



「今日総司に逢う前、俺も平助に騙されてだな、『一君も総司辺りにやってみろよっ』と言われ…」



犯人はアレか
僕の一君にいらない事吹き込んで…
後できつく言っておかなきゃ
申し訳無さそうに眉を下げる一君に、怒りも失せてくる



「まさか、ここまで信じてしまうとは…」
「…うるさいな」
「…すまん。怒って…いるよな?」

「…自分にあきれてるだけ」



まさかこの僕が一君に騙されるなんて
まだ腑に落ちない事はあるけど、とりあえず『別れたい』って話が嘘で良かった

ホッとして肩の力を抜く
一君は僕の体をそっと抱き締めて、耳元で愛を囁いてくれた


エイプリルフール
来年のリベンジ、今から考えておかなくちゃ








今日は何の日?

(今日は嘘言えそうもない)

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