特別な存在




「問題です、今日は何の日でしょうっ?」
「…突然何を言っている」


午前中の授業も終了しいつものように総司と2人、屋上で昼食をとっている時のこと
購買で買ってきたらしいメロンパンを頬張りながらまた訳のわからない事を言い出した恋人
いつもなら多少は脈絡があるのだが今日はそれも皆無
食べかけのメロンパンを袋に戻し俺の答えを期待しているかのように子供のような笑顔で俺を見つめていた
何を期待しているのか否、どのような答えを望んでいるのかサッパリ見当がつかない


「だから、今日は何の日でしょうって言ってるんだけど」
「知らん」
「知らないの?最近テレビCMでもよくやってるじゃない」

「知らんものは知らん。大体アンタはテレビなど見ている暇があるのなら古典の宿題をしたりきちんと弁当を作れ。毎度毎度そうして購買のパンばかりではきちんと栄養が摂れん。そもそも…」

「はいはい、分かりました。一君は僕と楽しい事なんかしたくなくて土方さんの古典の宿題とかお弁当の方が大事なんだって事はよーく分かりましたよー」

「…そうは言ってないだろう」
「言ってる」


昼飯時の俺の説教が嫌だったのか、はたまた問に対して考えもし無かった事が気に入らなかったのか
無邪気な表情はムスくれたモノに一変し視線も外されてしまった
俺は素より口は上手くない
己の言葉がいつの間にか己の気持ちと反したモノに変わり噂の様にひとり歩きしてしまう事も多々ある
だが総司は違った
俺の言葉を俺の気持ちのまま形を変えることなく汲み取り、俺の気持ちに答えてくれた
相手が総司だからこそ今の俺達の関係が成り立っているのだ
これが他の人間ならすぐに喧嘩になって別れているに違いない

だからこそ分からない
総司なら先程の俺の言葉が総司の健康、土方先生との関係を案じている事位手に取るように分かっている筈だ
分かっているにも関わらず何故分からないと、あえて意味を違えているのかが理解出来なかった


「総司、きちんと言ってくれねば分からん」
「…僕はただ、」
「…」
「ただ一君と…、イベントを一緒に楽しみたかっただけで」


別に喧嘩なんかしたくなかったし、ホンノちょっとでも興味をもって欲しかっただけ

そう呟きながらしょぼくれる俺よりも背の高い恋人がいつよもり可愛らしく愛しく思えて仕方がなかった
ただ、いくら考えても総司の言うイベントとやらの見当がつかないのは事実
付き合い始めた記念日とは違う筈だ
家ではテレビなどニュース以外は殆ど見ないゆえ、CMにヒントがあるなどと言われても全く分からない

いつの間にか俺の眉間にシワが寄っていたらしく、総司は柔らかな笑顔を浮かべながら俺のそこを人差し指で優しく延ばす
そして緑色の小さな四角い箱を俺に差し出して笑った


「ねぇ、一君一緒に食べない?プリッツ」
「菓子などよりきちんとした食事を…っ」


いや、そうじゃないんだったな
総司は俺と共にイベントを楽しみたいのだ
そのイベントとやらが何なのかは分からないが総司が楽しいのならかまわないか
手にしていた弁当を置いて総司に向き合うと満足そうな顔をしながら菓子の箱を開ける


「11月11日はね、ポッキー&プリッツの日なんだよ」
「何故そのような日に…」
「ほら、全部1でしょう?縦棒1本が揃ってるじゃない」
「何の謎掛けだ」
「こういう何の日って決めてるのは大体謎掛けみたいなモノじゃない」

「…」
「ポッキーにしなかったのは僕の優しさなんだけど?」
「なに?」
「だって一君、なんか甘い物苦手そうなイメージあるし…」
「別に苦手ではないがあまり食べんな」
「でしょ?だからプリッツにしたんだ」


ペリッとパッケージを開けて1本取り出すと徐ろに俺の口にプリッツを差し込んだ
口に入れられたそれを食べようとすると総司は首を左右に振る


「まだ、ダメ…だよ?」
「…?」
「ただ食べるだけじゃイベントじゃないでしょ?」
「…」


確かに総司の言う通りだ
ただこうして菓子を食べるだけじゃいつもとなんら変わらない
口に咥えている菓子のせいで声を出せないためコクリと頷いて変えると総司は人差し指を立て得意気に話し出す


「だからね、ポッキーゲームっていうのをするの。僕等の場合はプリッツだからプリッツゲームかな?」
「…」
「僕がやって見せるから一君はそのまま放さないでね?あ、勿論僕の真似してくれても良いんだけどさ」


フフッと笑みを浮かべる姿に善処するという意味を込めて頷いて見せる
すると総司は俺の太腿に手を添えズイと顔を近づけるとゆっくりと俺の口の先に出ているプリッツを咥えた
カリッカリッと音を立てながらゆっくりと食べ進める総司
次第に近づく愛しい者の顔に己の顔が思わず赤くなるのを感じた

残り僅かな距離になりそっと瞼を閉じる総司
そのほんのり頬を染める姿が可愛らしい


「んっ、んー…」
「っ、……っもう無理だっ!」

「あ…」


残り数センチ、あとほんの一口で唇が重なる所で限界をむかえた俺は思わず声を上げ、唇と同じく近づいていた総司の肩を腕で突っぱねた

パキッと音を立て折れてしまった残りのそれを総司はモグモグと食べてヘラッと笑って見せる


「ふふっ、楽しかったでしょ?」
「たっ、楽しくなどない!」
「えー、一君顔真っ赤だよ?」
「こ、これは…違うっ!俺は断じてそのような不埒な事はっ」
「…ふーんっ、僕はただイベントを楽しんでただけなのに一君はそういう事考えてたんだ?」
「っ…」


しまった、口が滑った
何故俺は困難すると己を見失い言いたくもない本当の事を口走ってしまうのか
思わず頭を抱える俺に総司は全てお見通しと言ったような顔つきで改めて近づき、俺を魅惑する様な顔で色っぽく耳元で囁くのだった




「ねぇ、一君失敗しちゃったしもう一度やろうか?」



......
(今度は一君から食べてね、僕も手伝うからさ)

(し…承知、した)





特別な存在

(アンタには敵わん)

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