華一輪




こんな事を言ったら笑われてしまうかもしれないけど、
僕は運命の赤い糸を信じている
誰の小指にもその糸はついていて、反対端は他の誰かと繋がっている
そう思っている

ずっと昔、まだ徳川幕府が日本を統治していた頃
僕には想い人が居た
彼の右側は僕の特等席だと主張する様に、一緒に居るときは必ず右側に居た
でも時代が時代で、それ以前に僕達は男同士だったから
この想いを告げる事は出来なかったけど、きっとこの先僕が恋に落ちるのは彼だけだと信じていた



「テメー等、席に着きやがれ」
「あっれー、土方先生どうしたんですか?眉間のシワ、いつも以上に酷いですよ?」
「うるせぇよ総司っ、静かにしてろっ。転入生を紹介する」
「はいはいっ、土方先生!それ女の子なのっ?」
「平助、ついこの間共学になったばかりなんだから女の子な訳ないじゃない」
「んなもん分かんねぇじゃんかよー」
「女の子だとしても余程の男好きじゃないそれ」
「はぁ…おいっ、入ってこい」



僕達の会話に深い溜め息をついてから転入生に声をかける
いつも以上に疲れている様に見えるのは気のせいだろうか
いつもなら僕達のおふざけには、これでもかって位突っ込んでくるんだけど
何かがおかしい
そう考えていると教室のドアがガラッと音をたてて開けられた
入ってきたその子の纏う制服は僕達のモノとは少し違っていて、膝の上でヒラヒラと布が揺れる

本当に女の子…なんだ
その子は小走りで土方先生の側に寄ってコクリと頷いた



「はいっ、土方さんっ」
「…さんじゃなくて先生だって言ってんだろうが」
「すっ、すみません、土方、先生」



ポンと土方先生に軽く肩を叩かれて促された女の子は、こちらを向いて少し口角をあげた
心臓がドクンと大きく脈打った気がして、大袈裟に視線を逸らす
そんないちクラスメイトに彼女が気付く訳もなく、真っ直ぐに前を見据え、しっかりとした声で自己紹介をした



「斎藤一です。宜しくお願いします」



斎藤…一?
僕が昔、片想いをしていた相手と同じ名前だ
視線をゆっくりと彼女に戻し、唇を動かそうとした時だった
隣の席に座った平助がガタンと大きな音を立てて立ち上がる
そして、彼女を指差して、大きな声で



「はっ…一君っ!!一君だよな!?」
「…あっ」



平助の大きな声に驚いたらしい彼女は一瞬体を震わせた
でも、しばらく考える様に平助を見つめると小さく声をもらし、嬉しそうに頬を緩ませる
そうして、教卓の傍からこちら側に駆けてくる背中に、聞きなれた、でもいつもより優しげな声がかかった



「斎藤っ!」
「はっ、はい、土方さ…先生っ」
「お前の席はそこだ」
「承知しました」



僕の後ろで、平助の斜め後ろ
コクンと頷いて返事をした彼女はパタパタと急ぎ足で席に向かい、
すれ違い際に平助に微笑み掛けていた






そして、あっという間にお昼休み
こんな可愛い転校生が来たんだ
生徒達がほうっておく筈がない
その上うちの高校唯一の女の子
噂はあっという間に広がって、廊下まで騒がしい
僕の後ろの席はあっという間にクラスメイト達に囲まれていて、彼女の姿は埋もれて見えなくなっていた
平助は今日、遅刻した件について土方先生に怒られに行ってるし、助けてはくれない
彼女と顔を合わせるのはなんだかドキドキする
だから、あまり彼女とは関わりたくない
だけどこんな状態の子を放っておくのも…
そう思いながら後ろの人だかりに視線を向けると、むさ苦しい男達の中から白い腕が僕の方に伸びて
小さな声が聞こえた



「たっ…たすけっ…」
「っ…一君っ」



人だかりを退けて伸ばされたその腕を引く
彼女は僕の顔を見て目を見開いていた
でもそんな事に構っていられなくて、その手を引いたまま教室を抜け出す
彼女が転校してきた事を聞き付けて来た生徒達の波を割るように走った
戸惑った様な声が聞こえてくる
それを無視して屋上へと続く階段を駆けあがり、無機質な扉を開け外へと出た
空が青くてまだ冷たい風がふいている屋上
彼女が出たのを確認して扉を閉めると、ペタンと崩れ落ちる小さな体



「大丈夫?」
「…平、気だ。ありが、とう…総司」
「え…」



僕を見上げた彼女は、肩で息をしながら微笑んだ
彼女の手を引っ張った時、とっさに『一君』と呼んでしまった
平助がまるであの『三番組組長、斎藤一』を呼ぶみたいに読んだから…
僕はまだ自己紹介をしていない
なのに彼女は僕の事を名前出たのを呼んだ
昔、そうしていた様に



「総司…であろう?一番組の」
「本当に…一君、なの?」
「あぁっ…ずっと逢いたかった、総司っ」
「っ…」



大きく頷いて返事をする一君
僕が『沖田総司』だと認めると、嬉しそうに笑って抱きついてきた
見下ろしたその姿は、僕が知っている『一君』じゃない
確かにサラサラした長い髪
前髪で片方隠れてはいるけれど、その瞳はとても澄んでいる
白くて柔らかそうな肌も変わらない
だけど…



「…色々間違ってない?」
「なにがだ?」
「だ…だって…」



不思議そうに僕を見上げながらパチパチと瞬きをするその瞳は、
僕が知っているモノより真ん丸くなっているし、
胸だって…体に当たっている
どっからどう見ても、いくら考えても…


Back




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -