優しさで温めて




「わりぃ、待った?」
「今きたとこだから平気だよっ」
「手、冷たくなってんじゃん。ほら、行こうぜっ」
「うんっ」



ガヤガヤと賑わう夜の街中
イルミネーションが彩るその道を歩く人影は、寄り添う様に重なって居た
本当は僕だって、こんな筈じゃ無かったんだ
寒くても、楽しくて、幸せな時間になる筈だった
どうして僕だけがこんな事になっているんだろう

皆キライ
幸せそうな横顔も、はしゃぐ様に弾む声も
それを助長させる様な町中の音楽も
何がクリスマスだ
馬鹿馬鹿しい



「…寒い」



風が冷たい
冷えて悴んだ手は思う様に動かなくなっていた
此処で待った居ても誰も来ない
僕自身、その理由をこの目で見たのに
それでも動けないのは、独りの夜が淋しいから?
それともまだ期待しているんだろうか
きっと来てくれる筈だって



「こんな事ならあっちに参加すれば良かったかな」



仕事仲間達は、ある同僚の家でクリスマスパーティーをしている
僕も誘われては居たけど、彼氏と過ごすからと、断ってしまった
それなのに、こうして独りで居る自分が惨めでしょうがない

イルミネーションを見て歩いて
オシャレなお店でディナーを楽しんで
明日の朝まで一緒にって、約束したのに…

瞳に写る楽しげな街の景色が、揺れる
こらえ切れそうになくて、思わず俯いた
頭を離れない彼の姿がズキズキと胸を締め付ける
もう全部忘れよう
彼の事は無かった事にすれば良いんだ
そう言い聞かせても、なかなか踏ん切りが付かない自分にため溜息をついた時だった



「アンタ…大丈夫か?」
「…え?」



心配そうな声が空から降ってくる
僕に声を掛けてくれる人なんて居る訳がないのに
ビックリしながら顔を上げると、そこには知らないお兄さんが居た
お兄さんと言ってもビジュアル的に僕と同じ位の歳だから24、5といったところか
黒のダッフルコートに白いマフラー
濃いブルージーンを履いて居て
落ち着きのあるお兄さんが心配そうに僕を見つめて居た



「え…いえ、別に」
「体調が優れない訳では無いのだな」
「あ、はい…」



まさか知らない人に心配されるとは思わなかった
僕、そんなに酷い顔してたのかな?
とりあえず、心配してくれたお礼を言わなくちゃ
突然声を掛けられて、思わず俯いてしまった顔を上げて言葉を口にしようとすると
もうそこにお兄さんは居なかった



「あ…」



それもそうだ
あのお兄さん、凄くカッコ良かったし
きっとこの近くで彼女と待ち合わせをしていて、
たまたま見かけた僕が声を掛けたくなる位酷い顔をして居たんだろう
そう考えるとまた少し寂しくなった
誰もそばに居ない事実が僕の体を冷やしていくようで、耐え切れなくなって立ち上がると



「…帰るのか?」
「へ?」



声の方を振り向くとあのお兄さんが立って居て手には飲み物
間抜けな声を上げてしまった自分の口を両手で塞いで、首を左右に降って答えると、お兄さんは綺麗な弧を描いた唇を少しだけ上げて、手飲み物をこちらに差し出した



「そのままでは体が冷えるであろう?」





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