それはまるで




最近めっきり秋らしくなってきた京の山々はまだポツリポツリではあるが少しずつ赤みが増えてきていて
茹だる様な暑さがなくなった代わりに朝晩は冷え込む様になってきた
が、日中は何とも過ごしやすくこうして縁側で茶を飲みながら庭先を眺めるのも何とも心地がいい

久しぶりに非番になったのだが別段する事も無く副長に何か手伝える事は無いかと伺っても
『お前は今日非番だろうが、休める時にゃしっかり休みやがれ』
と一掃されてしまい途方に暮れていた所に雪村が気をきかせてお茶を煎れて来てくれ、今に至る

確か総司も俺と同じく非番だった筈だ
だが姿が見えない所を見ると出かけているか子供達と遊んで居るのだろう

茶を飲みながら只ぼんやりと庭先を眺めているとやはり過ごしやすい気候からか思わずウトウトとし始める
こんな所で寝てしまってはいかんと分かってはいるのだがポカポカとしたその場所から離れたくない

…ほんの少しなら、構わないか




「…っ、ん」

ほんの少しなのかは分からないがやはり温かな日差しの下で眠ってしまっていたらしい
ふと何か違和感を感じて瞳を開いた
と、目の前には先程まで屯所内に居なかった筈の総司がニコニコとこちらを見つめていた

「…アンタ、何をしている」
「んー、一君観察?」
「…意味がわからん」
「結構ぐっすりだったね」

縁側にゴロンと横になり俺の顔を覗き込みながらそう言った総司は何となく土の香りがしてやはり子供達と遊んでいたのだと安易に想像出来た

「珍しいね、一君が縁側でお昼寝なんて」
「そうか?」
「うん、僕には風邪ひくとか、通行の邪魔だとか言うじゃない」
「アンタの場合は縁側で堂々と横になるからだろ」
「えー、あんま今の君と変わらないよ」
「俺は寝るために此処に居たんじゃない、此処に居たら寝てしまったんだ」

「じゃあなんのために縁側に居たの?」
「…」

確かに俺は寝るために此処に来た訳ではない
する事が無くウロウロとしていたらいつの間にか此処にたどり着いて、茶を飲んで、いつの間にか…
だから断じて総司とは違うのだ
違うのだが何をしに此処に来たのかと問われてしまうと答えられない
理由などないのだから

思わず考え込んでしまったんだ俺に総司は不思議そうに小首を傾げてからクスクスと小さく笑って

「答えられないんだからやっぱり僕と一緒だよ」
「…違う」
「もう、頑固だなぁ」
「違うものを違うと言って何が悪い」
「でもまぁ、要は暇なんでしょ?」
「…副長に休んでいろと言われてしまった」

そう一言言っただけで総司は俺が何をしようとしたかを分かったらしく今度は苦笑いを浮かべながらゴロンと俺の脚に頭を乗せて横になった
まるで我が物顔の猫の様に

「一君はさー、ホントに物好きだよね、休みの日にも仕事探すなんてさ」
「頭を乗せるな」
「暇なんでしょ?僕がその暇な時間潰してあげるよ」
「何?」
「暫く僕の枕ね」
「何故俺が」
「一君だからだよ」
「俺だから?」
「僕の枕する人間なんて一君以外有り得ないじゃない」
「俺とて好きでしている訳では…」
「もう、分かんない人だなぁ、僕が君じゃないと嫌なの」
「…何故」
「そこを聞くのは野暮ってものでしょ」

『本当、そういう所君らしいよね』とやはり良く分からない事を言われ何度退けと伝えても退く気配を微塵も見せない総司はまた猫の様な仕草で俺の脚にスリスリと擦り寄ってきた
動く気は全くないらしいその仕草に思わずため息が漏れる
でも何かと仕事の邪魔をしたり俺を振り回す総司だが何故か憎めない
脚に散らばる栗色の柔らかな髪を掬いあげ頭を軽く撫でてやると今度は子供の様な無邪気な笑顔が見えた

あぁ、きっとこれだ総司を憎めないのは

アンタがそうやって時折本当に嬉しそうな、楽しそうな顔で俺を見るから
俺はアンタを無下に出来ないんだ
きっとこの関係はずっと続いていくのだろうと考えるといつ死ぬか分からないこの緊迫した世に生きているのにあまりにも緩い関係に思わず笑ってしまった

総司はそんな俺を見て新しい玩具を見つけた子供の様に笑うと腕を伸ばして俺の頬に触れた


「ね、一君今日はずっと一緒に居れるね」


......

(…ずっとこうしているのか?)

(え、駄目?)

(…)




それはまるで

(猫の様な子供の様なアンタ)

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