沖田総司に飼われてみた




外が薄暗くなって来た
時計を見るともうそこそこの時間で、そろそろ総司が帰ってくる筈だ
そう思っていると、少し離れた所から聞こえてくる音に気づいた
俺専用に用意されているソファーから降りて玄関に向かう

きっとこの足音は総司だ

玄関に座って冷たい扉を真っ直ぐに見つめていると、ギィと音を立てて扉が開いた



「あ、ただいま一君、お出迎えありがと」

お帰り総司、疲れただろう



グシャグシャと俺の頭を撫でて部屋に入っていく総司の後ろをついて行く
今日はこんな事があった、あんな目にあったと、学校やバイト先の愚痴を言う

俺には理解出来ない事も多いが、総司がこうして俺に話す事でまた明日も頑張れるならと、黙って聞いた

リビングに入るとシャツを抜いでジーパン一枚になるのがお決まりだ
投げられたシャツを持って洗濯物の籠に入れて戻る
俺が総司のもとに戻ると、フッと笑って褒めてくれた



「あ、そう言えばさ、今日同級生に告白されたんだけど、一君どう思う?」

は?どう…とは

「いい子みたいだし、そこそこ顔も良いし、付き合ってみようかなって思うんだけどさ」

付き合う?女かっ、女だよなっ



ソファーに腰掛けている総司にのし掛かって問い詰める
確かに総司はいい男だし、優しいし、まだ少し残るあどけなさが女心を擽るのだろうが…
ズキズキと痛む胸が、総司を奪われたくないと言っていた

総司だっていずれは結婚する
好いた女との間に子供が出来て、長い人生を共に過ごすだろう
総司との時間がずれている俺には出来ない事だ
だからこそまだ取られたくなかった
もう少しだけでいい、俺だけの総司でいて欲しい

そう思って真っ直ぐ見つめると、総司は辛そうに眉を寄せて俺の体を支えて居た



「っ、は、一君、おもい、重いっ!」

え、あ…すまん、つい

「君さ、自分が大型犬だって自覚して無いでしょ」

世間一般に言われる大型よりも大分小さいと思うのだが…

「確かに普通の大型犬よりは小さいけどさ、君、大型犬だから、かわいくてたまに小型犬に見えちゃう事もあるけど、大型犬だから」

…小型犬に見える時もあるのか

「のし掛かられたら僕潰れちゃう、と言うか、今も普段使わない筋肉が悲鳴をあげてるんですけど、この体制色々マズイから」



プルプルと小さく震える総司に仕方なくソファーから降りる
ハァと息を吐く姿を見つめて居ると俺の視線に気づいたらしい総司は小さく笑って俺を優しく抱きしめてくれた



「ふふっ、一君、ヤキモチ、妬いてくれた?」

…うるさい

「冗談だよっ、告白は断わるから。今は一君と二人で居たいと思うから」

本当か?

「それに一君居れば彼女とか奥さんとか必要無いかもね、可愛いし優しいし、お見送りお出迎えは勿論、新聞とか洗濯物運んでくれるし」


でも料理は出来ん、アンタを抱きしめる事も、人の言葉を喋る事だって、俺には出来ない

「ねぇ、一君、僕をひとりにしないでね、まだまだ一緒に居て、長生きしてね」

…善処する



総司に伝わって居るか分からないが、俺は言葉に出来ない分体を使って最大限に表現をした
パタパタと揺れる尻尾が目に入ったらしい総司は嬉しそうに笑っていた



「そうだ一君、今年は海に行こうかっ、一君は暑いの苦手だろうけど、きっと海は涼しいよっ」

終わった後アンタがきちんと風呂にいれて、ブラッシングして
くれるなら構わん



俺の言葉なんか理解してい
ないらしい総司は、さっそくバタバタと部屋を漁り始めた
もう学校も夏休みだからな、明日にでも行くつもりか

もし本当に行くのなら帰ってきたら総司にのし掛かって風呂に入れろとせがむか


楽しそうな総司の横顏


俺には出来ない事ばかりだ
きっとそんなに長い間、総司と居る事は出来ない
だけど隣に居る間はずっと総司の笑顔だけは守りたい

そう思いながら荷物を用意する総司の姿を見つめた




真夏日が続く暑い日の出来事






......

(えーと、あと必要なモノは…)

((総司、そんな事は後でで良いだろう、腹が減ったんだが))

(あ、バスタオルもう一枚ないと一君拭けないよねっ)

((…))


沖田総司に飼われてみた

(アンタがこうだから俺がしっかりせねばならんのだ)

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