春になりましたよ♀




「一君っ!早くっ、遅刻しちゃう!!」
「アンタがいつまで経っても起きてこないからだろうっ!」


まだ寒々しい桜の並木道
先を駆けていく少女を追いかけながら思わず声を上げた
あと少しで高校二年になると言うのに総司の寝起きの悪さはいつまで経っても治らない
毎朝家まで迎えに行っても総司のお母さんから聞く言葉は決まって『まだあの子寝てるのよ』だ

先に行っていてくれとは言われるものの幼馴染として、そして風紀委員として総司をほうっておく訳にはいかない
今となっては繰り返される日常の一つになってしまっているのだが
今回ばかりはマズイ
右腕にある時計はもう8時10分を過ぎている
ホームルームは30分から始まってしまうし、何より20分までに校門をくぐらなければ遅刻扱いだ
そして風紀委員の俺が遅刻する訳にはいかない



「一君っ、置いってちゃうよーっ!」
「分かっているっ!」



何か良いてはないか
最早遅刻になっても免除される様な言い訳を考えてしまいながらもこれは総司の方が得意ではないかと思い顔を上げると目に入った看板

これだ



「総司っ、こっちだ!」
「えっ、でもそっち通学路じゃ…」
「 見つからなければいい事だろう、遅刻よりマシだっ!」
「そりゃそうだけど…」
「行くぞ、総司っ!」

「…うんっ!」



差し伸べた手を総司が握り返したのを確認してから手を引いて走り出す
『桜花下公園』と書かれた看板のある公園に足を踏み入れた
遊具の脇をすり抜けていく間も総司はしっかりと俺の手を握っていて温かく柔らかな掌に自然と頬が緩んだ

公園からまた脇に出て雑木林を抜ける
暫く走り抜けた先の坂道を春一番と言う追い風に助けられながら登った所で学校が見えて来てやっと胸を撫で下ろした
これなら遅刻せずに済みそうだ
普段あまり使われない裏門から学校にコッソリ入る
それこそ先生に見つかったら何を言われるか分からない
周りに人が居ないのを確認してから校庭の方までは走って行くと正門の所に先生達が立っているのが見えた

間に合った、か



「総司、大丈夫…っ、総司っ!?」
「っ、はぁ…大、丈夫。一君、早いんだもんっ、疲れ、ちゃった」

「す、すまん」



頬をほんのり赤くしながら肩で息をする総司の背中をさすってやる
これだけの距離を全力疾走したら総司にはキツかったか
心配になり顔を伺おうとする俺をスッと避けて総司が一歩前に出る
もしかしたら気を使われたのが嫌だったのかもしれない

そのまま歩き出してしまった総司を後ろから追いかけながらどう声をかけようか悩んでしまった
下手に話してしまえばまた怒らせかねん
そう頭を悩ませて居るとクルっと総司が振り返った



「でもっ…朝から楽しかったね、探検したみたいで」



スカートを翻しながらそう楽しげに微笑む彼女に思わず見とれてしまった

その時

ゴォォと唸り声が聞こえたかと思うと強い風が校庭を駆け抜けていく
遠巻きにスカートを押さえる女生徒の姿が見えてそれは俺の目の前に居る彼女も同じだった

春風に巻き上げられたスカートに一瞬目を丸くしつつもすぐにスカートの裾を押さえる
一瞬の出来事でも俺の目を癒すのには十分だった



「は、一君っ!見たでしょ!?」
「っ、見て…いない」
「ウソつ!絶対見た!見たって顔してるもん!!」

「見ていないものは、見ていない」
「エッチっ!変態!」

「大体、そんなに見られたくないのならスパッツでも履いたらどうだ」

「そんなの今時ほとんど履いてる子居ないからっ!」

「…ブルーの水玉か、もう少し大人っぽいのにしたらどうだ」

「なっ、やっ…やっぱり見たんじゃん!一君のムッツリスケベっ、女の敵っ!!」



ピーピーと雛鳥の様に騒ぎながら俺について回る総司に頬を緩めながら遅刻ギリギリの生徒を急かす先生の声に押される様に校舎に向かって走り出した

まだ強く吹く春一番が起こす本日二度目の奇跡を楽しみにしながら





春になりましたよ♀

(これ位のご褒美が無くては困る)

← →
Back




- ナノ -