ネイキッド・ワールド2



 一週間ぶりの風呂にも入り、男部屋の掘りごたつで、うっかり船を漕いでいた頃だった。心地よい眠りの淵から、文字どおり叩き起こされたゾロは、壁にかけられた時計へ視線を送る。気づけば、もう日付を越える頃合いだった。ナミから不寝番に指名されたことを忘れていたわけではない。いつの間にやら、周囲のボンクも鼾で騒がしくなっており、ゾロは寝ぼけ眼で夜食を受け取ると、素直に展望室へと向かうことにした。
 サンジに渡されたバスケットの中には、キンキンに冷やされたビール瓶と、大ぶりのおにぎりが二つ入っている。ベンチに腰を下ろして、ゾロは早速ビールへ手をかけた。コルクを歯で引き抜き、一口飲んでからおにぎりにも手を伸ばす。米には白ゴマが混ぜ込まれており、半分ほど頬張れば、程よい温かさにたまらず頬が緩んだ。具材はほぐした焼鮭とアボカドが和えられたもので、これが案外白米と合う。毎度よくもまァ、こうした変わり種を思いつくものだと、ゾロは素直に感心していた。
 三口で食べきると、ふたたびおにぎりへ手を伸ばす。見張りの役目を務める必要もあるため、視線は窓の外へ向けたままだ。少しばかり波が高く、船が進むスピードも速く感じられるが、これといった異常は見られない。
 すると、二つ目のおにぎりを食べ終えるところで、タイミングよく床から黄色い頭が顔を覗かせた。ゾロはそれを一瞥し、すぐに外の海へ視線を戻す。交代の時間にはまだ早いが、どうせ来るのだろうと思っていた。驚きもなく、サンジが近づいてくる気配を尻目に、まず何を言われるのだろうかと考える。時間が経つにつれて、ゾロにもあれが失言だったとの意識が芽生えていた。
 恋愛に対して、サンジはどこか消極的なところがあり、よく言えば慎重な男だった。逆を言えば、うじうじと考え過ぎてしまう節もあって、ゾロがああ言えば、悶々と思考回路を巡らせて一人で勝手に傷つくのは目に見ている。そんなとき、サンジの取る行動は大抵二択であった。敢えて明言せず、ゾロの態度から推し量るか、納得いくまで追求するか、今回もそのどちらかだろうと思えた。
 サンジが隣へ腰を下ろすが、ゾロは口いっぱいに残る米を消化すべく、ひたすらに咀嚼を繰り返す。ビールを呷り、その中身も空にしてしまえば、もう間が持てなくなった。そんなゾロの様子を、サンジはただ無言で見据えている。その視線はずいぶんと熱心なもので、途端に腹の据わりが悪くなり、眉を寄せた。
「米粒ついてんぞ」
 そう言ってからサンジは、ゾロの頬に手を伸ばし、どういうことか自らの顔を近づけてくる。まるで想定していなかった行動にゾロは動けず、そのまま口の端へサンジが吸いつくのを、ただ黙って受け入れていた。
「美味かったか?」
「……お、おお、美味かった」
 名残惜しげに頬を指の腹で撫でたあと、すぐに離れていったサンジは、困惑するゾロとは違い、満足げな笑みを浮かべた。煙草を取り出して、ライターで火をつける。美味そうにそれを吸い、ゾロが呆然としている間に、背後の窓へ視線を滑らせた。どうやら今回は、ゾロが考えた内の、前者の行動を取るつもりらしい。昼間のことを言及されないのであれば、ゾロにとっても好都合だ。サンジに吸いつかれた箇所を腕で拭い、ゾロは空になった瓶をバスケットの中へ放った。
「おめェとかルフィはさ、いっつも食うのに必死だよなァ」
「ルフィほどじゃねェだろ」
「たいして変わんねェぞ、お前も。ひとりじめするみてェに口ん中パンパンにしてよ。すげェがんばって食ってんなァって姿が、いじらしくて好きなんだ、おれは」
「お前、それまだ続けるつもりかよ」
 げんなりとしたゾロは、横目でサンジのことを見遣った。そのときの光景を思い出しているのか、ゾロへ視線を向けることはないまま、サンジは口元を優しく緩めている。それどころか、隠し切れない愛おしさが滲み出て、何やらうっとりとした眸は、ゾロをぎょっとさせた。慌てて顔を逸らしたところで、サンジは煙草を指で挟み、ふたたびゾロへ視線を戻す。
「昼間ナミさんとロビンちゃんが言ってたとおりさ。目の前にそりゃァ可愛い女の子がいて、おれと結婚してェとまで言ってくれてる」
 どうやら、ゾロの予想に反し、サンジは真正面から話すつもりで、ここへ来たのらしい。覚悟を決めたのか、言い澱み、狼狽える様子もなかった。その姿を見て、ゾロはベンチの背もたれに肘を乗せると頬杖をついた。そうして、サンジの目をしかと見据える。再会したときから、どこか迷いを抱えていた男の言葉を聞くつもりは毛頭なかったが、真摯に話す相手を無碍にするなんてことは、ゾロ自身許せることではない。真っ向から受け止める覚悟を決めて、視線だけでサンジへ続きを促した。
「そんな夢みたいな状況が現実で起きてるってのに、何度振り払ってもおめェの顔が浮かぶんだよなァ」
 サンジはうっすらと浮かべていた笑みを消し去り、同じようにゾロへ向かい合った。
「そりゃァ死ぬほど鬱陶しいだろうな」
 想像して眉を寄せたゾロに、サンジは小さく笑声を零した。ほんとにな! そうおどけた態度で煙草を咥え、くしゃりと顔を歪めながら口端を上げる。
「可愛いし、いい子だし、好きになれると思った。好きにならなきゃいけねェって……キスもしてねェのは本当だけど、抱きしめてプロポーズはした」
 そこまで言うと俯きがちに深く息を吸って、サンジは殊更ゆっくりと煙草の煙を吐き出していった。すぐに灰皿へ押しつけて火種を消し、緊張した面持ちでゾロの目をまっすぐに見据える。こんなこと、本当は言いたくないのだろう。ぐっと拳を握り締め、ゾロから視線を逸らさぬよう、必死で虚勢を張る姿は、サンジの矜持の固まりでしかなかった。何も聞かないゾロから、逃げることなど容易いはずだ。しかし、それをしないのは、この男なりの信念であり、甘さでもある。
「結婚するしか道がねェって分かったとき、おれァ一度、お前を捨てる覚悟をしたんだよ」
 苦しげに告げたサンジだったが、ゾロにとっては、さも当たり前のことでしかない。結婚するのであれば、自らの愛情は全て妻へ捧げるべきものだと、この男が考えるのは至極当然のことだ。同時に二人の人間を愛せるような、そんな器用な性格を持ち合わせていないことも、よく知っている。となれば、切り捨てるのはゾロへの想いに他ならない。サンジが向ける好意を疑ったことは一度たりともないが、心変わりなぞ、いつ何時と起こり得ることだった。ただでさえ、相手は重度の女好きだ。だからこそゾロは、この関係に愛の言葉なぞ求めていない。ただ、いつか訪れるであろうそのときを、何も言わず待ち続けているだけなのだ。
「でも無理だった」
「無理なことはねェと思うがな」
 淡々と告げたゾロの言葉が気に障ったのか、サンジはぴくりと眉を跳ねさせた。それを目で追ってから、ゾロは窓の外へ視線を滑らせる。
「今回は相手が元より実現させる気のねェ結婚だった。その上、てめェが船を降りなきゃおれたちは自動的に四皇の傘下入りだ。条件が悪すぎる」
「何が、言いてェ」
 聞かずとも、次に続く言葉は粗方分かっているのだろう。サンジは怒りを滲ませると、喉から絞り出すような声を上げて、それでもゾロのことを促した。
「もし、相手がなんのしがらみもねェ女で、船を降りる必要もなけりゃ周囲に危害を加えられる心配もねェ。そうなりゃ答えはおのずと変わってくるだろ」
「…………ハッ、てめェの覚悟とやらは、そのことかよ」
「そうだ」
 新世界では珍しく、とても静かな夜だった。今のところ、何も起こり得ない静かな海から、サンジの顔へ視線を戻し、ゾロはまっすぐその目を射抜く。
「おめェは一度懐に入れた人間をそう簡単に切り捨てることができねェ。仲間だとか、そんな情が生まれちまえば尚更だろうな。だがこの先、そんな甘ったれたことは言ってられなくなるぞ」
「んなこたァ、嫌ってほど分かってんだよ!」
「分かってねェから、ここ最近ふざけた態度取ってんだろうが。冷静に考えたら、真っ先におれを切り捨てるべきだ」
 今がチャンスだろ。激昂したサンジに胸倉を掴まれ、続くはずだったその言葉は、届く前にゾロの中で留まって、ふてぶてしく鎮座した。歯を食いしばり、額を突き合わせ、睨みつけてくるサンジを真正面から受け止める。このままでは、他に気になる女ができたとて、情に脆いサンジは、ゾロを切り捨てることさえできない。そんな男のためにも、ゾロはいつだって、自ら引導を渡してやるつもりでいるのだ。
「何も今すぐってわけじゃねェ。そのときが来たらって話だぞ」
 努めて冷静に告げて、ゾロの胸倉を掴み上げているサンジの腕を握る。言うべきことは言った。力は込めず、宥めるつもりでその手首を擦ってやれば、サンジは怒りのためか、その身を小刻みに震わせていた。
「てっめェは、おれを見くびってるぜ」
「なっ……」
 易々と胸倉から手を離した瞬間、サンジはゾロの肩に腕を回すと、力いっぱいその身体を引き寄せた。もう一方の手で後頭部を押さえつけられ、気づいたときにはサンジの顔が眼前に迫る。それらの乱暴な動作とは裏腹に、唇に優しく押し当てるだけのキスを送られて、ゾロは驚きから目を見張った。蹴られることはあっても、まさかこの状況で、キスをされるとは思ってもみなかったのだ。
 更に唇を押しつけるようにされ、互いの歯がぶつかり合う。ゾロがたまらず息を漏らせば、肩に回るサンジの腕の力が一層強くなった。それどころか、隙間なく密着し、それでも足りないとばかり、足まで絡ませてくる始末だ。ゾロよりか幾分薄いその身体に包み込まれ、唇は一時も離れることなく、角度を変えて何度も吸いつかれる。普段ならば、すぐに舌を差し入れられるはずが、ゾロの口が驚きのまま開いていようと、サンジはそうせず、ただ触れるだけのキスを続けた。
 それは徐々に、そして確実に、ゾロの羞恥を煽っていく。柔らかい唇が触れて、時に噛みつき、吸われ、しばらくされるがままになっていたゾロは、背を反らすと慌ててサンジの両肩を掴んだ。引き剥がすために力を込めるも、体勢の不利もあってか、いとも容易くベンチの上へ押し倒されてしまう。床から浮いたゾロの片足をすかさず持ち上げ、その隙間へ入り込んだサンジは、やはり乱暴な仕草とは裏腹に、ゾロの両頬を優しく掌で包み込むと、飽くことなく唇を寄せた。音を立てて下唇を啄まれ、文句を言う隙もなければ、息をつく暇もない。
 しかし、次第に物足りなさも感じてくる。誘い込むようにしてゾロが薄く口を開けたとき、サンジはゾロの耳殻を指の腹でなぞりながら、一度音を立てて唇へ吸いつくと、ゾロの誘いに乗ることなく顔を離した。
「おれはなァ、お前だけが好きなんだよ」
 ゾロの顔の横で肘をつき、先程までの怒りはどこへやら、ふわりと笑ったサンジはふたたびゾロへ唇を寄せた。髪を撫でつけられ、今度は耳たぶへキスを落とされる。鼓膜へ直接吹き込むようにして、またも「好きだ」と静かな声音で告げられた途端、ゾロの身体はぶわりと熱を持った。顔を逸らしてサンジの追撃から逃がれると、腕で顔を覆い隠す。
「わはっ、おーいゾロ。顔真っ赤だぞ?」
「うるっ、せェ!」
「可愛い顔隠すなって」
「っだから、それ、やめろっ……!」
 ゾロの腕を引き剥がそうとしたサンジに対して、ゾロは必死で抵抗する。単純な力勝負では敵わないと悟ったのか、サンジは早々に諦め、無防備なゾロの首筋へ舌を這わせた。そのせいで、抗議の声はずいぶんと弱々しいものになってしまった。それがまたゾロの羞恥を掻き立て、サンジに翻弄されていることへ悔しさが滲む。
「お前に同じこと求めるわけでもねェし、おれが言いてェから言う。何が悪い」
 そう言って上体を起こしたサンジは、ゾロの腿を掴んで引っ張るとベンチからずり落ちそうになっていた身体を引き寄せた。元々、大人が仰向けで寝そべることができるほど大きなベンチではない。互いに片足は鉄の床についている状態だった。すでに硬くなっているサンジのものが、足の間に触れている。期待から、ゾロは浮いたままの足をぴくりと跳ねさせた。
「おれにどんだけ愛されてるか、身を以て分からせてやるよ」
 舌舐めずりをしながらネクタイの結び目を緩めたサンジは、性器をゾロの尻へ擦りつける。その手が腰を這い、服の上からとはいえ、次第に上ってくる掌の感覚に腰の辺りが重くなっていった。着流しの襟を押し広げられたかと思えば、盛り上がった胸筋を指の先でなぞられる。それだけでゾロの息は上がり、ひくりと身体を震わせた。
 ゾロだって、一人の男なのだ。サンジがすぐそばにいて、キスをして欲を露わに触れられれば、セックスをしたいと思うのが当然だろう。女のように突っ込まれ揺さぶられることに、初めこそ抵抗はあったが、次第に快感を拾うようになれば、それももう慣れてしまった。目の前の男に触れたい。布越しに触れているサンジの性器を欲し、期待からケツが疼く感覚がある。
 しばらく触れるか触れないかの距離で胸の周辺をなぞられていたが、突然爪で乳首を弾かれ、あっ、とたまらず声を上げてしまう。慌ててサンジの腕を掴んで動きを制すと、にやりと笑うその顔がすぐそばにあった。
「やっと顔見せたな」
 一瞬の隙も逃さず、またも唇に吸いつかれ、今度はすぐに舌が差し入れられた。優しく舌の表面を舐め上げられると、色気も何もない呻き声が上がる。サンジはそれに萎える様子もなく、寧ろ性急に舌を絡め取られた。耳の後ろを指で撫でられ、首筋を辿り、その手は胸へ戻される。すでにぷくりと勃ち上がった乳首を摘まれ、たまらずゾロが零した息も拾い上げるようにして口内を掻き回された。
 上手く呼吸ができなかった。じたばたと足を動かせば、サンジの性器がすっかり勃ち上がったゾロのものに擦れ、喉が反り返る。そこでやっとサンジの舌から解放されて、ゾロは必死で酸素を取り込む、すると、上下する喉仏へ吸いつかれ、首筋を下から上へ舐め上げられた。
「はっ、あ……ック……やめっ」
 上がる息を抑え込みながらも、サンジの胸を腕で押し返す。見張りだろ、そう言って上体を起こしたゾロを、サンジが咎めることはなかった。ベンチに片膝をついて、素直にゾロと共に身体を起こしたかと思えば、すぐさま腰に腕が回されて、飽きず唇へ吸いつかれる。それは一度音を立てて離れていき、脇腹をさすりながら、余裕のない顔でゾロの目を覗き込んだ。
「ここでやめていいのかよ?」
「んっ、てめェなァ!」
 膝でぐりぐりと性器を刺激され、顔中にキスの雨を降らされる。一体なんなんだ、とゾロは顔を背けることで抵抗するも、それは目尻や頬にも落とされ、止まることがなかった。キスなぞ今までも数えきれぬほどしてきた。だが、大抵はすぐに舌が差し入れられる性急なものに変わり、身体を割り開かれるのが常だった。何もサンジが乱暴なわけではない。寧ろ、嫌というほど丁寧にゾロを抱く。しかし、こうして触れるだけのものばかりされるのは珍しい。
「おいゾロ、要は見張りしながらならいいんだろ」
「はァ?」
「そのとぼけた面も可愛いだけだぞ」
「ちょ、しつけェ」
 再び顔を近づけてきたサンジから距離を取れば、拗ねたように唇を尖らせ、おれァまだ足りねェぞ、そう言ってゾロの腰のサッシュへ手をかけた。器用に片手で解かれたそれは床に落とされ、サンジはベンチから降りるとゾロの腹に手を回し、力づくで腰を浮かせる。窓のほうへ身体ごと向けさせられて、その不安定さからゾロは慌ててベンチの背を両手で掴んだ。膝だけをベンチに乗せた状態で、背後から抱きしめられたかと思えば、顎を掴まれてむりやり窓へ顔を向けさせられる。
「ちゃんと見張ってろよ?」
 耳元へ唇を寄せられて、そこへキスを落とされた。その間も、サンジは手を動かし、腹巻をずり上げると腹を撫でてくる。無論、それだけで済むはずもなく、はだけた着流しの隙間から肩甲骨まで、徐々に唇を滑らせていった。触れるヒゲがくすぐったく、ゾロはその度に身を震わせる。エロいなァ、そうひとりごちたサンジの声音には、余裕のかけらもなかった。
 ボトムのホックに手をかけられ、緩く立ち上がった性器を取り出されると、二、三度扱かれただけで、それはすぐに形を変えて張り詰めた。しかし、物足りない刺激に、ゾロの腰は誘い込むようにして、無意識のうちで動いてしまう。息を荒げ、ゾロはベンチの背に顎を乗せた。そうでもしていないと、身体ごと床へずり落ちてしまいそうだった。
 視線は窓の外へ向けたまま、しかし海上の異常を探すような余裕はなくなっていく。サンジは下着ごとゾロのボトムを下げてしまうと、着流しの裾を腰まで捲り上げ、その場へ跨った。丸出しにされた尻を両手で割り開き、すぐ近くでサンジの吐息を感じる。それだけでひくりと肛門が収縮し、ふたたび迫り上がる羞恥をゾロは眉を寄せてごまかした。すると、何やら湿ったものが尻の窄まりに触れる。驚きから、びくりと身体を跳ねさせたゾロの姿に、たまらず笑みを零したサンジの吐息を、やはりすぐそばで感じた。今度はぴちゃりと湿った音を立ててそこを舐め上げられ、ゾロは慌ててサンジを振り返った。
「てめっ……! なにして…!」
 ゾロの尻に埋めていた顔を上げ、視線だけをこちらへ向けたサンジは、そこを唇で啄むのをやめず、ぎらぎらとした眸だけを覗かせる。
「あっ、汚ェだろっ、やめ……んんっあっ、あっ、アホ……!」
 腕を伸ばし、サンジの頭部を掴むと、その顔を引き剥がそうとする。しかし、それを嗜めるかのように、音を立てて、さらに強く吸い上げられてしまう。ゾロはたまらず漏れる声を慌てて噛み殺し、きつくサンジのことを睨みつけた。
「風呂入っただろ、おめェ」
「そういう、問題じゃね、あ、ンっ」
「かっわいー声」
 ははっ、と声を上げて笑うサンジは、ゾロの内腿を撫でさすり、玉から尻までの間を一切の抵抗もなくねっとりと舌で辿った。
「言っとくが、例えてめェが風呂に入ってなくても、おれァ舐められんぞ」
「なっ……クソ、コック!」
 口では悪態をつきながら、ゾロは先程から腹の底が疼いて仕方ない。収縮を繰り返すそこに、早くサンジのものを突っ込まれ、ぐちゃぐちゃに掻き回されたいのだ。想像しただけで、背筋が粟立つのを感じる。
「普段はムカつくだけのお前の悪態も、こういうときは興奮材料にしかならねェって、覚えといたほうがいいぜ」
「んぐっ……う、あっ、ハッ……」
 信じられねェという思いで、ゾロはサンジへ視線を向ける。腰が逃げを打つも、すかさず性器を掌で扱き上げられてしまい、動けなくなった。サンジは窄まりを唇でやわやわと弄びながら、ゾロの中へ徐々に舌を割り込ませ、内臓を押し広げるようにして舐め上げていく。粘膜同士が触れ合うこんな刺激を、ゾロは今まで知らなかった。ぐっと、ベンチを掴む手に力がこもる。反対に、腰の力は抜けていき、知らず足が開いていく。しかし、膝でだまになったボトムがそれを邪魔して、ゾロは尻だけを突き上げるような体勢になってしまった。もはや、羞恥を感じている暇もない。
 サンジはゾロの良い所を的確に探り当て、舌の抜き差しを繰り返した。しかし舌では、届く場所にも限界がある。足りない。無意識のうちで、もっと深い位置の刺激を欲し、ゾロは膨れ上がる欲望を振り払おうと首を振る。額からは汗が伝い、顎を伝ってベンチを濡らしたとき、舌よりも質量のあるものが中へ入り込んできた。しっかりと湿らされたそこは、一切の抵抗なくサンジの指を受け入れていく。細く長い指一本だけでも、ゾロの内襞はびりびりと痺れるような感覚を広げた。舌では届かなかった箇所を指で擦られ、またも窄まりを唇で啄ばまれる。すぐに二本目の指が差し入れられて、押し広げるようにして中で指が動く。ゾロの中は抵抗するように縮こまり、サンジはそれを咎めるよう、指を広げたままで抜き差しを繰り返した。あ、あ、と母音を上げることしかできないゾロは、額をぐりぐりとベンチへ押しつけて快感を逃す。まどろっこしいその刺激が耐え難く、必死でその背を反らし、サンジの腕を掴んだ。
「もう、いい」
「よくねェよ。久しぶりだし、ちゃんと慣らさねェと」
「うっせェ、とっととてめェのよこせ」
 顔を上げたサンジをぎっと睨みつけると、ぽかんと口を開けたあとサンジは、困ったようにくしゃりと顔を歪めた。それから余裕もなく指を引き抜き、自らのベルトを忙しなく外す。興奮を隠し切れない様子で、息を荒げながらゾロの腰を掴み上げた。ガチガチに張り詰めたサンジの性器が尻を割り開き、先程まで散々弄られていた箇所に数度擦りつけられる。そこはゾロの意識とは関係なく、勝手に収縮し、サンジのものを呑み込もうとする。それまでの乱暴な動きとは裏腹に、サンジはゆっくりと硬く張り詰めた性器を埋め込んでいく。何度身体を繋げようとも、このときの感覚だけは慣れるものではない。ゾロは息を詰め、腹の底が圧迫されていく感覚を必死でやり込めた。
「はっ、やっぱきつ……ゾロ、大丈夫、か?」
「平気、だっ」
「うそつけ」
 気遣うように腹巻の下から素肌を撫で、サンジは額から汗を滴らせる。下半身に滾る熱を、さっさと吐き出したいはずだった。サンジが今抱いているのは、か弱い女でもなく、頑丈な身体を持ったゾロでしかない。適当に腰を振って欲を吐き出してしまえばいいものの、この男がそうしないのは知っていた。これ以上進む気のないものを、ゾロは自ら腰を押しつけて一息に呑み込んでしまう。
「あっ、てめ、バカ……んんっ」
 カリの部分が、入り口の浅いところを過ぎれば、多少は引き攣れそうな痛みもマシになる。嗜めるサンジを無視し、慣らすようにゆるゆると腰を動かしていれば、サンジの両手が再び腰を掴んだ。下がってきた着流しの裾を手繰り上げて、狙いを定めて奥のほうをこつこつと突かれる。ゾロはそのたび、迫り上がる快楽に身体を震わせる。
「っァ、あ、てめ、そこばっか……! やめっ……」
「煽るようなことばっかするおめェが悪い!」
 余裕のなさを滲ませて、サンジはガツガツと腰の動きを早めた。ゾロはベンチに爪を立て、気持ちがいいのと、それを逃す術がない辛さとで、ふたたび背凭れに額を押しつけた。身体が揺さぶられるたび、そこが擦れて、汗がどっと滲む。すると、サンジの腕が伸びてきて、首筋に触れた。喉仏を指の先でなぞられ、顎を擽られる。
「ゾロ、顔下がってんぞ。ちゃんと見張っとけよ」
「おめェ、な、っあ、いきなり、うごくなっ」
 苦々しい顔で背後のサンジを仰ぎ見るが、意地の悪い笑みが返されるだけで、律動を再開される。窓の外へ視線を向けるが、そこには真っ暗な世界が広がっており、波も落ち着いているようだ。
 入り口の浅いところまで引き抜かれ、抜ける直前で奥まで貫かれるのを繰り返し、ゾロの脳は霞んでいく。ケツに男の性器を突っ込まれて、擦り上げられることが、こんなに気持ちいいなどと、知りたくもなかった。しかし、その快感は身体の内側で燻るばかりで、射精ともまた違うのだ。とかく今は、張り詰めた欲を吐き出したくて仕方がない。先程とは打って変わり、ゆるゆると身体を揺さぶられることによって、その欲望は更に膨れ上がっていった。
 身体を繋げている最中、たまにサンジに扱かれて達することもあったが、大抵はケツに突っ込まれて揺さぶられながら、自身で擦って吐き出すことが多いように思えた。いつもどおり、そうしようとしたところで、その手はサンジに絡め取られてしまう。ゾロが驚きから動けずにいる間に、ベンチを掴んでいた手も捕らえられ、背後に両手を引かれる。背を反らし、掴まるものがなくなってしまったゾロの身体を、サンジは容赦なく揺さぶり始めた。声にならない声を上げ、解放できなかった欲が、じわりと滲んでくる感覚があった。苦しいと気持ちいいとが、一緒くたになり、ゾロを襲う。
「――ッ、く、コッ、ク……も、あっ、あ、イき、てェっ……!」
「ん、おれ、も……イきそっ……」
 前さわらせろ、ゾロは唸るように言ったが、サンジは一切聞く耳を持たなかった。がつがつと遠慮のかけらもなく穿たれる中で、握られた両手を振り払うこともできず、ゾロは為すがままになる。性器からはだらだらとカウパーが溢れ、痛みを覚えるほどに張り詰めて、今にも暴発してしまいそうだった。すると、サンジはゾロの片手を解放し、胸に手を回した。背後から抱きしめるようにして、自然と上体が持ち上がるようになったゾロの背中へひとつキスを落とすと、耳の後ろへ唇を寄せる。
「ゾロ、好き、クッソ好き」
 それはまるで、わたあめをどろどろに溶かしたみたいな声音だった。その瞬間、痙攣したようにゾロの中が意思とは関係なく動き、ゆるゆると動いていただけのサンジの性器を絞り上げるような動きをする。ひりひりと皮膚が痺れるような快感が、ゾロの全身を包み込んだ。
「あっ、あ、ック、も……ッ! ――――ッ!!」
 その瞬間、頭が真っ白になる。背が反り返り、腰が意識の外で幾度となく跳ね上がった。サンジはそこでやっとゾロの両手を解放すると、腹に腕を回した。ゾロは慌てて目の前のベンチを掴む。ぎりぎりと締め上げるように力を込めるが、視界も霞み、まるで現実味がない。ハッ、と獣に近い吐息を零したサンジは、ぶるりと身震いすると慌てたようにゾロの中から性器を引き抜き、そのまま床へ欲を吐き出した。ゾロは未だ止まらぬ身体の痙攣と、それと連動して襲い来る快楽に溺れ、ベンチの上でずるずると跨ってしまう。すると、そのままサンジに床へ引きずり降ろされてしまった。





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