デートって言うそうです

「よっ」

「ターレス!」


お試し男女交際3日目。
本日の授業が終わり、ハイテンションで教室を飛び出したら、壁にもたれ掛かり本を読むターレスが居た。
ターレスは3限までだったらしく、4限目は適当(多分勉強)に時間を潰していたらしい。
それで終わる頃を見計らい、教室の前で待機してたのこと。


「ほら、ノート」

「えー、わざわざそのために?!優しいなー!ありがとう!」

昨日渡した交換ノートがさっそく返ってきた。
ぺらっと捲ると、ちゃんと内容が書いてあってなんだか嬉しい。
家に帰ったら、しっかり読んでまた書かなくちゃ。


「じゃあターレス、明日楽しみにしててね!バイバ…」

「ちょっと待てバカ。確かにノートもあるがそれはあくまでもついでだ。この後暇か?」

「夕飯まで仮眠する」

「んじゃ行くぞ」

「ちょっ、ターレス!?」


私の日課である仮眠を奪われ、目的地がわからないままぐいぐいと手を引っ張られた。
歩くこと数分。連れてこられたのは、学校から近いボーリング場。なるほど、私と格闘ゲームをしようってことだな。確かにここの2階は、ビデオゲームがたくさんあるし。


「けっこう自信あるよ。ターレスの負けのもう一回が目に浮かぶぜ」

「ふん。そう言ってられるのも今の内だ。情けないナマエの姿が目に浮かぶ」



バチバチとぶつかり合う火花。

そして私は、じわりと熱を感じる右手に視線を落とした。
今更気づく、なぜ私はターレスと手を繋いでいるのだ……?


「てててて手を!なんで、なんで手を繋いでるの?!最後に男の子と手を繋いだのは小学1年生なのに……。はしたないよ私!」

「あのなぁ、カップルは手を繋ぐもんなんだよ。ちなみにこんなのは繋いだ内に入らねえ。カップル繋ぎってのは……」


私の指と、ターレスの指が、絡み合う。
頭が混乱して、でも恥ずかしくて。
無理に離れようとしても、ターレスの力が強すぎて解けることはなかった。

やっと解放されたのは、受付を済ませ、それなりに重いボールを持ったとき。


「てか、なんでボーリングなんですかー!!」


虚しい叫びと、それに応えるかのように、ボールは溝に吸い込まれガターに。
綺麗に並んだ10本のピンは、気持ち良くバーによって倒された。
対するターレスは、落ち込む私に「ボーリング場に来たんだからボーリングするのは当然だろう」と、まぁ当たり前なセリフを吐いてアプローチに立つ。


「とは言ってもボーリング経験少ないんだよ」

と、保険を掛ける言葉と共に一投目を投げた。
良い音を鳴らして弾けるピンたち。
しかし問題発生。
7番ピンと10番ピンが残る…スネークアイの結果になった。
プロですら攻略するのは困難の代物だ。



「慎重に一本を狙った結果、ピンの間を通り抜けるのを期待してます!」

「ガター三昧野郎には言われたくねえよ」

「ふんだ!4という数字が私にはあるもん!」

「一応これ、第6フレームだから。しかも見事全てがG。狙っているとしか考えられない」

「私はいつだって本気さ!」

「はいはい。それはすみませんね」

と軽く流され、戻ってきたボールを持ち構えた。
本人曰わくボーリング経験は少ないらしいが、素人とは思えない綺麗なフォーム。

正直言って、つい見惚れてしまう。


「……はて、私はいったい何を」

考えているんだ?
そう言いたかったが、目の前で起こったミラクルに遮られてしまう。

ターレスが確実に狙った10番ピンはどんぴしゃに当たった。のだが、そのピンは端から端まですすーっと横を滑る。そしてスライディングしたピンは、コツンと7番ピンに当たり倒すミラクルプレイ。
プロからも拍手をいただけるだろう。

「普通にとるストライクより、何倍もかっこいい」

「ただの紛れだろ。気にすんな」

「いやいやいや!私がガターになった時ははしゃいでるのに、なんでそんなクールでいられるの!?ここはほら、そう、ハイタッチ!ハイタッチだよね?!」


何故か私だけがテンション上がっちゃって、対するターレスは手首をぶらぶらさせてた。
両手を挙げてスタンバってたのに、恥ずかしい。


「なんとなくコツは掴めた。ナマエ、こっち来な」

くいくいっと手招きするターレスに近づくと、密着した体勢でフォームを教えてくれた。

振り向くとすぐそこにある顔。なにより耳にかかる吐息がくすぐったい。


「話し聞いてるか?」

「ど真ん中直線ではなく、右側を投げてカーブさせろという無茶な注文ですね私にはできません!」

「できるさ。ガターがその証拠だ」



自信持てと囁くと、頭をポンと軽く叩かれた。

さすがにくっ付いたままではないが、背中に突き刺さる眼差しが余計に緊張する。



とりあえずいつも通り。
変な力は全て抜き、ぎこちないフォームだがボールを投げてみた。

するとどうだろうか。
ピンに当たる寸前で、ボールが急に軌道を変えたのだ。
まさに理想通りのどんぴしゃ。気持ち良い音が響き、全てのピンは倒れた。

人生初の、ストライク……。



「まっ、このオレ様が直々に手取り足取り教えたんだ。当然の結果だな」


どんな時でもクールなターレスだが、さり気なく両手を挙げてくれている。
私は手のひらを合わせると、女友達の感覚でつい抱きついてしまった。
それぐらい嬉しいってことだ。


「ご、ごめんターレス!…ついその…ごめんなさい…」

「バーカ。世の中、周りを気にせずいちゃつくカップルは多いんだよ。存分に喜べ」


ターレスから離れたというのに、今度は引き寄せられると、髪の毛がくしゃくしゃになるまで撫でられた。
恐るべし男女交際!命がいくつあっても足りません!!



「まさに嵐のような出来事だったな」

「なっ、なぜだ……」

その後の結果は、ストライクをとったことが奇跡と思える結末でした。




『ボーリングに……デートに連れてってくれてありがとう!
ただ“男の子と遊ぶだけ”の時間よりも、特別な何かを感じたと思うよ。
それより、ターレスって苦手なものはないの?
なんでもできちゃう完璧人間じゃ、私がつまらないよ。
ボーリングは上手いし、格ゲーのセンスもある。
あっ、音ゲーは笑っちゃうほど下手だったね!
リズム感ないのかなぁターレスって。

そういえば、ターレスと一緒に遊ぶの初めてだよね?私はすごく楽しかったよ。
よかったらまた、遊びに行きたいなぁ。もちろん、お金に余裕があるときで』
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