in the neverending world
※主人公=エイト
「エイトくんラリホー」
「……あっ、ナマエだ」
「何さ今の間は」
大きな木の下に腰掛ける休憩中のエイトくんの姿を見つけて、上から覗くように挨拶をした。
そう、私が言ったのは挨拶の「ラリホー」であって攻撃補助呪文の「ラリホー」を唱えたのではない。
そもそも私は、魔法なんてホイミを唱えるのが精一杯の片手剣戦士だ。
少ないマジックパワーは特技に使うから無駄使いはダメ絶対。
それに比べてほわわんとしたこの彼は……。
ちらりと横目で盗み見すれば、指先に留まった小鳥を撫でては微笑みかけていた。
人は見た目で判断しちゃいけないって言うけど、エイトくんは色んな意味で裏切ってくれる。
職業がまず勇者ですよ。
勇者?世界を救う伝説の?
はいそうです。つい先日仲間と共に暗黒神ラプソーンを倒しちゃいました。
あの賢者様達ですら封印するのが精一杯だったんですよ!
その細い身体のどこに力があるのやら。
でもって堂々とした窃盗。
意外すぎて開いた口はなかなか閉じませんでした。
タンスを漁り、ツボを破壊。
旅の途中に見つけた宝箱はアリだとしても、お城に置かれた宝箱も開けちゃいますからね。
オレの物はオレの物。
人の物もオレの物。
でもほら、ね、エイトくんは勇者様だから基本許されるんだよ。多分。
それでいいのかな?
「バイバイ、小鳥さん」
野生の小鳥を懐かせる力もお持ちなのに、どうしてそうなんだろう。
て言うか私、そんなすごい人と一緒に居ていいのかな。気安くエイトくんって呼んでるけど大丈夫?今更不安になってきたよ。
「ねえナマエ」
「はい勇者様?!」
「あっ、ごめんね。驚かせちゃって。でもその呼び方は変な感じするし、普段通りでいいよ」
エイトくんは悪くないのに、勝手にパニクる私に謝罪をして、柔らかい表情で語りかけてくれる。
こんな笑顔を見ちゃったら、誰だって好きになりますよ。
「ナマエはさ、どうするの?」
眩しい日差しを手のひらで遮りながら遙か遠い空を仰いでる。
対する私は、いつかは訪れるこの時を恐れていたため、つい視線を下ろす。
ドルマゲスの攻撃で全てを失い、ただひとり立ち尽くす。
帰る場所どころか、生きる意味も無くした。
そんな私に声を掛けてくれたのが、エイトくんだ。
真っ暗闇に照らされた希望の光は眩しくて、だけど暖かい。
微力でもいい、エイトくんの力になりたい。
だから私は決めた。
私も旅について行く。
ってのもひとつの理由だけど、すでに惚れてたんだよね。
一目惚れなのかな?
それはわからない。
旅をすればするほど気持ちが強くなっていって、それと同時に、胸が押しつぶされそうだった。
エイトくんの旅の目的はドルマゲスを倒し、イバラの呪いを掛けられたトロデーン城を救うため。そして姿を変えられてしまったトロデ王と姫君、ミーティア姫を呪いから解くための長旅だった。
これらの説明でわかるように、彼の目的があっても、彼自身のための目的はない。
心の優しい青年だけれど、それだけではないのだ。
ミーティア姫とは幼なじみの関係でもあり、18歳の若さですでに近衛兵なのはそこに秘密があった。
そう、ミーティア姫はエイトくんに好意を抱いていたのだ。
ふしぎな泉での2人の会話はお似合いのカップル。
私なんかと比べることすらできないその気品さと、可愛らしい容姿。
楽しそうな2人の横顔を見る度に胸が苦しくて、入り込むことのできない、2人だけの世界だった。
「私、まだ旅を続けるよ。一度家族に挨拶してから、出発する」
「そっか。じゃあこれ、ナマエにお守り」
私の手のひらに乗せたのは、綺麗に輝くアルゴンハートの指輪だ。
なんて素敵なの……とうっとりするはずもなく。
「だだだダメだよ!これはエイトくんの大事なもの!!」
この指輪は紛れもないエイトくんのお母さんの形見。
エイトくんのお父さんが、愛する人へ渡したもの。
そんな大事なものをはいどうぞ、ありがとうと進むはずがない。
私は全力でエイトくんに返そうとすると、
「迷惑…だよね…」
複雑そうに、そして悲しげな表情をして私を困らせた。
迷惑な訳がない。けどこれは、私が持つべきものでもないのだ。
それに渡すなら……
「ミーティア姫に、渡しなよ」
掴みかけた幸せを、自ら蹴飛ばすなんてバカな話し。
でもいいの、これが運命。
王子様はお姫様を救出して2人は結婚。ハッピーエンド。
どのおとぎ話だってみんなそうだよ。
私はお姫様じゃない。
故郷を失った、ただの旅人。
「姫様の結婚は阻止するよ」
「そうこなくっちゃ」
「でもボク、まだまだ強くなりたい。もっと世界を見たい」
ぎゅっと力の入った拳は、エイトくんの素直な気持ちが込められていた。
お城だけでは世界が狭すぎる。
それが勇者の血なのだろうか。
「一番は、ナマエと一緒に居たいだけなんだよ」
「……えっ?」
ぶわっと風が吹き上がる。
トレードマークのバンダナを押さえながら、エイトくんはもう一度私に指輪を渡した。
否、すっと左手小指に指輪をはめると、にこりと笑ったのだ。
「今度はボクも、自分のための目的を持って旅がしたいんだ。ナマエも一緒に来てくれるよね」
「……」
私もエイトくんと一緒に居たい。
エイトくんとならどこへでも行ける。
もっともっと、世界を見て、強くなれるよ。
今度の冒険は、自分たちの手で取り戻した世界を見に行こう。
in the neverending world
( 果てなき世界で )
Thank you:瑠璃
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