隣で笑い合う
ナマエは俺にとって一番の親友。恋人関係ではないけど、友達としての“好き”って気持ちはお互いに強い。けど先輩達曰わく、そんな俺達は変わった関係だなとよく言う。長年の付き合いのある男と女なのだから、何か進展があってもおかしくないんじゃないのかって。でも俺達はまだまだ子どもだし、ナマエが俺の彼女ってのは、いまいちピンと来ないのが正直な気持ちだったりもする。
「無性に8cmの線を引きたい」
「勝手に書いてればいいだろ」
「赤也、定規!」
「俺は定規じゃねえ」
「うん。だって赤也は定規みたいに真っ直ぐじゃないもんね」
「そういう意味じゃねえよ!」
あいよと嫌みを言うナマエに定規を渡せば、8センチ8センチと言いながら線を引き始めた。でもナマエはいつもそう。突然何を言い出すかわからない。
「そーいやナマエ、今日告られたんだってな」
「あー…何で知ってんの?」
「それなりに良いヤツをフったんだろ?噂が広がってる」
外見は普通のナマエだけど、けっこういい人だし面白いから、中身重視のヤツにはけっこう評判がいい。
それに今日の噂には、やっぱりナマエは俺を選ぶんだなという事も同時に広まったらしく、不思議とくすぐったい気持ちになった。でも、相手はあのナマエだという事を忘れてはいけない。
「だってまぁ、私には好きな人がいますしね」
「そうなの?初耳だわ」
「あれっ、言わなかったっけ?」
「聞いてねえよ。んで、だれ?」
急なカミングアウトに心が揺れたが、恋を応援してやるのも親友の勤め。ナマエが好意を寄せてるのは「ユキチくん」だと、嬉しそうに語った。
脳内で検索するが、そんな名前は同学年にいないはず。
とすると、先輩なのだろうか?はたまた後輩?
まさか他校じゃないよな。
「そいつが……好きなの?」
「大好き!」
「へっ、へぇー」
満面の笑顔に戸惑いが隠せなかった。
だって、まさかナマエが好きな男の話しで花が咲くとは思ってもみなかったし。
ナマエの隣に、俺じゃない男……か…。
想像してみたら、胸がちょっと苦しくなった。
「でもさ、赤也もユキチくん好きでしょ?」
「好き以前に、ユキチって奴は知らねえよ」
「ええ??!!」
耳を塞いでも、ナマエの馬鹿でかい声が頭に響く。
そしたら次に、ナマエは俺を可哀想なものを見る目でこっちを見やがる。
「まさか赤也は……一葉さん止まりとか?それか、英世さん数人パターン?」
「………ごめん最初から詳しく話してくれ」
意味が分からない。一葉とか英世とか、どっかで聞いたことある名前だけど、俺が一葉止まり?5千円札じゃあるまいし、それにお年玉なら1万円札だって……
「ユキチくん……福沢…諭吉?」
「そうだよ。赤也も好きでしょ?」
「……はぁー」
ナマエと関わる以上、重たいため息を吐くのは承知の上。
戸惑いもあったのに、まさか話しのオチがお金だったなんて。
「お金大好き」
「わかったわかった」
「なんで疲れきってんのさ!もっと私の相手をしてよー」
愛だの恋だの、少なくとも今の俺たちには必要ない。
例え将来付き合わないとしても、今は隣で笑い合いたい。
それが俺たちにとって一番ぴったりな、そんな気がした。
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