あいつのトモダチ 


弱いくせに、何度も何度も立ち上がる芯のある男。


その強さを感じたのは、初めて出会った小学5年生の時。


そして今、その強さに私は苦しめられていた。



「もう…いい……もう止めて…」

「今助けるから………ナマエ……」



喧嘩に負けた不良たちは、男鹿にくっ付く弱いやつ、つまり私と古市くんに目をつけた。

こんな復讐で心が晴れるとか、ほんとにクズな不良たちだ。


「こんなやり方しかできないクズだから、男鹿にボコボコにされるのよ!」

「うるせぇ女だな!!」


鳩尾に喰らった重たい拳は意識が飛びそうな程で、いくら相手が敵でも女には決して手を出さない男鹿を尊敬した。




「それ以上ナマエに何かしてみろ。俺が許さねえぞ!」

「へぇ、まだそんな口が聞けんのか」

「ぐっ…!」

「古市くん!!」





地面に這いつくばるよう取り押さえられた古市くんに、容赦なく足を頭に置いた不良。

古市くんは限界間近なのに、それでも私に声を掛ける。


「俺が………助ける…から」



私も捕らえられていて身動きができないし、できたところで何をしても無駄なのはわかっていた。
この状況で、唯一の希望は古市くんに助けてもらうこと。
でもこれ以上、古市くんが傷つく姿は見たくない。


「ならここで、優しい俺たちから選択肢をやるよ。しかし、解答権は女だ」

「私…?」

「その1。女を見逃してやるが、代わりに男がボコられる。その2。男を見逃してやるが、女は俺たちに犯される」

「「――!?」」

「助かるのは1人だが、まぁどっちを選んでも俺たちは楽しいがな。けど賢いアンタなら、答えはすぐに決まるはずだぜ」

「答えるなナマエ!これは罠っ……」

「古市くん!!」




鉄骨で攻撃された頭は、みるみるうちにそこを赤く染めていった。
そして私は決心する。
私の友達、そして、あいつの最初の友達を…

「好きにしなさい。けど、彼の止血だけさせて」

「そのまま逃げようとした瞬間、男は無事じゃねえぜ」

「私の意志も強いのよ」


解放された私は、ブラウスの袖部分を千切り古市くんに駆け寄った。
ひどい傷口に布を当て、ごめんなさいと一言呟く。
すると名前を呼ぶ声が聞こえて、そこで彼は意識を手放した。

「恨むなら男鹿を恨むんだな」

「違う。弱い私がいけないのよ」


諦めて目を閉じる。そして次の瞬間、まぶたを閉じていてもわかる明るい光と、不良たちの悲鳴が響く。最後に見たのはあいつの顔と、元気よく挨拶をするベル坊だった。






* * * * *



「ぅん…ナマエ……ナマエ!!」

「ひゃあっ!」



結局男鹿に助けられた私たちは、ラミアちゃんの処置により命に別状はなかった。
何針も縫うであろうあの傷口を、綺麗さっぱりに消してしまう魔界の薬は恐るべしだ。


「そうだナマエ!処女、まだ処女のままっ」

「ちょっ、ナマエ姉!一応古市はまだ安静に」

「どうせ治してもらえるもの。傷口抉るわよ!!なーんて、ありがとね古市くん。助かった」

「別に俺は……守ってやれなくて、ごめん」

「間違えんなよナマエ、助けたのはこの俺だ。俺に感謝しろ」

「はいはい、そりゃありがとうございました」




結局私は何もできない。誰かが傷つくのを黙って見てて、助けをただ待つだけ。

やっぱりちょっと、悔しい。


「第一古市、お前は寝言でナマエの名前を呼び過ぎなんだよ。気持ち悪い」

「えっ、そうなのか!?」



いくら長いつき合いと言っても、私と男鹿はただの幼なじみ。
だから時々感じる男鹿と古市くんの男の壁には、易々と踏み入れなかった。

男鹿が認めた強いトモダチ。

なんだかちょっぴり、そんな古市くんが羨ましく感じる。


(帰るよ男鹿、ベル坊。ヒルダさんが心配してるはずだから)



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