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03

 
「私、北さんとええ感じかもしれない……!」
「何かあったん?」
「絆創膏貰った!!」
「「……」」

部活終わり、双子が「北さんとはどうや」って聞いてきたから嬉々として報告したら微妙な顔をされた。うそやん、もっと褒めてもらえると思ってた。

「俺も貰ったことあるけど」
「!?」
「アホらし。練習しよ」
「ドンマイ」

私だけの特別な絆創膏じゃなかった。ショックではあるけれど、優しい北さんは怪我した人は誰であろうと手当てしてくれるんだろうと納得もした。それに、私が貰った絆創膏は北さんとの思い出が詰まった世界に一つしかないものだ。価値は変わらない。
私の話を聞いて大した進展はなかったと判断したのか、侑はもう興味なさそうに自主練に向かっていってしまった。そういうとこやぞ。
一方で治はまだ動かない。もう少し付き合ってもらってもええかな。

「治はどんな女の子にグッとくる?」

治だってモテる。なんなら侑よりモテる。女子からのアプローチや告白、ひとつひとつにきちんと対応しているのを私は知っている。その数多の好意の中で、治の心をグッと掴むものはあるはずだ。それが何かわかれば、私だって北さんともっと進展できる可能性が見出せるかもしれない。

「んー……差し入れはやっぱ嬉しいな」
「へー」

確かに治は差し入れをよく貰っている。公式戦はもちろん、練習試合の帰りでもなんか洒落た紙袋を持っていた気がする。ハロウィンやバレンタインの時は舞台の千秋楽でも終えたんかってくらいプレゼントを貰っていた。

「4組の鈴木さんな、毎回手作りのお菓子くれるんやけどめっちゃうまいねん」
「え、好きなの!?」
「違うけど……記憶には残るし、俺のために作ってくれたって思うと嬉しいやん」
「なるほど……! ありがとう治」

治は何でも美味しそうに食べてくれるから作りがいがあるんやろな。もちろん愛が成せる業だけど。顔も知らない鈴木さんの想いが報われますようにと軽く祈っておいた。
そして侑よりも断然いいアドバイスをくれた治に心の底から感謝した。この優しさが治のモテる所以だと思う。

「肉まん奢って」

図々しいのは玉にキズかもしれない。


***


「みょうじまだ帰らんの?」
「双子待ちです!」
「そうか、仲ええな」

アドバイスのお礼として治に肉まんを奢るため部室の前で待っていたら、戸締まりを終えた北さんが声をかけてくれて慌てて前髪を整えた。
早速チャンス到来だ。お料理作戦を実行する前に北さんの好みをリサーチしておかなければ。毎年バレンタインは手作りしているから、お菓子作りは下手ではない。

「北さん、好きなお菓子何ですか?」
「煎餅」
「せんべい……」
「この時期は干し柿もええなぁ」
「ほしがき……」

どうしよう。煎餅とか干し柿とか、作ったことない以前に作ろうと思ったこともないし、難易度高そうなんですけど。

「みょうじはいつもグミ食べとるな」
「あ、はい! 今日も持ってますよ。パチパチするやつ」

ちなみに私はグミが好きだ。味と食感はもちろん好きだし、小腹が空いた時とか眠気を覚ましたい時に丁度いい。常に鞄の中に切らさないようにしていて、今日はちょっと刺激強めのグミを持っている。

「パチパチするんか」
「食べてみます?」
「うん」

何やら興味を持ってくれているみたいだから薦めてみたら北さんは食い気味に頷いた。普段グミとか食べなさそうだし、珍しいのかもしれない。差し出された掌の上で袋を振って、出てきた2粒を北さんは一気に口に含んだ。

「……パチパチするわ」
(か、かわええ……!)

お、おめめパチパチしてる……!多分口の中のパチパチと瞼が連動しちゃってる……!
そんな北さんが可愛すぎて胸が苦しい。もし家でひとりだったらクッションを抱きしめて床をのたうち回っていたことだろう。

「あ、北さんもおる」
「北さんも一緒にコンビニ行きましょー!」
「……おん」
「!」

私と北さんの幸せ空間に割って入ってきた双子を疎ましく思ったのも一瞬だった。侑の提案にまさかのOKを出した北さんに、誘った本人も驚きを隠せていない。
北さんと一緒に帰れて、更にコンビニまで寄れるなんて幸せすぎる。憧れの放課後コンビニデートみたいだ。

「俺にも肉まんよろしく」

北さんが荷物を取りに部室に入った後、侑が小声で言ってきた。図々しいとは思ったけど、確かにそのくらいの価値はある功績だったから文句は言わなかった。


***


そんなこんなで11月。結局ハロウィンは友達とお菓子パーティをしただけで、治が提案してくれたお料理作戦は不発に終わりそうだ。
たとえ北さんの胃袋を掴めなかったとしても、確実に進展はしているはず。絆創膏を貰うとか一緒にコンビニに行くとか、去年だったら考えられなかった。少なくとも嫌われてはいないと思うけど、果たして北さんは私の好意に気づいているんだろうか。恋愛方面には疎そうだし、「なんか懐いてる後輩」くらいにしか思われていないかもしれない。

「!」

部活のない日曜日。どうしたらええんやろ、とぼんやり上を向いて歩いていたら軒下に丸いものを吊るしたお家を見つけた。あれは干し柿だ。普通の柿を2週間くらい乾燥させれば出来上がるってネットに書いてあった。作り方は簡単だけど殺菌のために焼酎が必要で、我が家にはないし未成年の私は入手できないから作るのは諦めた。

「干し柿好きなん?」
「あ、えっと……」
「食べてく? そろそろ食べ頃やと思うわぁ」

足を止めて見ていたらこの家の住人らしいおばあちゃんに声をかけられた。不審者だと思われなくてよかった。それどころか干し柿を食べさせようとしてくれてる。

「ええですか……?」
「ええよええよ」
「あ、荷物持ちます」
「ありがとぉ」

私はお言葉に甘えることにした。知らない人の家に上がるなんて普通だったら憚られるけど、目の前のおばあちゃんは誰がどう見ても無害だし、100パーセント善意で誘ってくれている。それに、北さんが「好き」と言う干し柿の味を知っておきたいと思った。

「干し柿好きなんて若いのに珍しいねぇ」
「いえ、好きな人が好きで……」
「あらぁ」

勘違いされたままでいるのはバツが悪くて正直に答えると、おばあちゃんはより一層にっこりと微笑んだ。深く刻まれた目尻の皺とほうれい線は、おばあちゃんの人生が笑顔に溢れてきたことを物語っているようだ。私も50年後はこんなおばあちゃんになりたいな。

「ちょお待っててね」
「はい」

お庭の方に案内されて縁側に座らせてもらった。少し目線を上げると、さっき遠目に見ていた干し柿がゆらゆらと揺れていた。そろそろ食べ頃ということは、この柿は2週間くらい干してるってことなんだろう。普通の柿と比べると半分くらいの大きさまで萎んでいる。正直、あまり美味しそうには見えない。

「お待たせ
「……何でみょうじがおんねん」
「!?」

足をブラブラさせて待つこと数分。お盆を持ったおばあちゃんの隣に北さんが立っていた。思いがけない北さんの登場によって、さっきまでのんびりと流れていた時間が3倍速になったような気がした。

「信ちゃんのお友達だったの」
「部活の後輩です! お世話になってます!」

北さんは高いところにある干し柿を取るために呼ばれたらしい。慣れた手つきで干し柿がくくりつけられた紐を取ってくれた。
おそらくここは北さんのお家で、このおばあちゃんは北さんのおばあちゃんだ。こんなことってある?部活のない退屈な日曜日が一気に色づいた。心臓には悪いけど。

「みょうじ干し柿好きだったんか」
「いえ、あの……北さんが好き言うてたから……き、気になって……!」

私は北さんからの質問に嘘をつけない。バカ正直に答えてからなかなか攻めた発言をしてしまったと焦ったけど、北さんは表情を変えずに「そうか」と呟いただけだった。
北さんの奥にいるおばあちゃんの笑みがより一層深くなった。おばあちゃんにはさっき「好きな人が好きだから食べてみたい」と言ってしまった。きっと私の好きな人が自分の孫だって気づかれた。身内にバレるの恥ずかしい。

「みんなで食べよか」
「うん」
「は、はい!」

幸せだ……北さんの家で北さんと北さんのおばあちゃんと一緒に干し柿を食べているこの状況、幸せでしかない。ねっとりと甘い干し柿を噛み締めながら思った。
北さんが生活している場所、北さんの大事な人、そして北さんの好きなものに触れた結果、もっともっと北さんのことが好きになった。それこそおばあちゃんになっても、こうやって縁側で一緒に干し柿を食べたいと思う。
付き合うどころか結婚して何十年後のことを想像している図々しさに、我ながら呆れてしまった。

「楽しみやねぇ」

穏やかな空間で、ぽつりと呟いたおばあちゃんの言葉の意味は私にはわからなかった。何が楽しみなんだろう。北さんを見てみたら特に何も言わずお茶を啜っていた。温かいお茶を飲んだからか、頬が赤い。なんとなく私が介入してはいけないような気がして、私も何も言わなかった。それでも居心地の良さは変わらなかった。
大事に大事に噛み締めていた干し柿を飲み込み、湯呑みに入った緑茶を啜る。きっと私は今日食べた干し柿の味を、一生忘れないだろう。



( 2023.11.11 )

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