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02


北さんに告白するために頑張るぞと意気込んだものの、連絡を頻繁に取り合うわけでもなく、デートをするわけでもなく、ただ部活で顔を合わせて私が注意されるという日々を繰り返していた。つまり何も進展していない。
そもそも私の恋愛偏差値はそこまで高くない。今まで人並みに恋はしてきても全て片想いで、異性とお付き合いしたことはない。彼氏いない歴に比例して、漫画やドラマのような恋愛への憧れは膨らんでいくばかりだった。
季節は秋。何か北さんと急接近できるようなイベントはないだろうか。

「なまえーこれ侑くんに渡しといてー」
「私のもよろー」
「……」

そういえば今日は双子の誕生日だった。イベントといえばイベントだけど私にとっては何の得にもならない。むしろマネージャーだからといって、今まさにプレゼントの配達を頼まれているからどちらかといえばマイナスだ。

「自分で渡せばいいのに」
「それ程の物でもないし」
「なまえにもチョコあげるー」
「やったーコレ好き」

ちなみに頼まれるのは専ら侑のものばかりだ。これは侑の方がモテるからというわけではなくて、治の方はガチ恋が多いからである。本気で好きな人には直接手渡したいっていう女心は私にもよくわかる。私も北さんの誕生日には高性能ゴム手袋を直接プレゼントした。
ギャル二人から預かったうまか棒のバラエティパックからは少しも本気度を感じられなかった。多分私がくすねてもバレないんだろうけど、お駄賃貰っちゃったし、ついでに北さんの教室の前を通りたいから甘んじてこの依頼を受けよう。

「宮くん、あの……好きです。付き合ってください」

最上階からまわって行こうと階段を登っていたら、人気のない音楽室の手前で告白現場に遭遇してしまった。いち早く身を潜めたから気付かれてはいないはず。こういう時は俊敏に動けるのだ。

「今誰とも付き合う気ないねん。ごめんな」

てっきり治だと思ってたら侑の方だった。言葉選びは無難だけど語気からめんどくさそうな感じが滲み出ている。人でなしとはいえ、侑もこうやってちゃんと告白されることがあるんかと改めて感心した。

「何しとん」
「お、お届け物でーす」

感心してたらいつの間にか告白イベントは終わっていたらしく、侑に見つかってしまった。私をジト目で見てくる顔は確かにかっこいいなあと思う。

「侑って人でなしなのに何でモテるん? やっぱ顔?」
「失礼な奴やな」

顔が良かったら多少の欠点も目を瞑れるってことだろうか。それなら北さんは顔もかっこいいし性格もしっかりしてるから文句なしってことになる。
この前クラスの友達に「バレー部のキャプテンってどんな人?」と聞かれて、いよいよ世間が北さんの良さに気づいてきたのを実感した。その時私は「よう分かんない」と大嘘をついた。本当は1時間くらい余裕で語れる。でも、北さんのいいところは私だけが知っていればいいのだ。

「北さんも告白されたことあんのかなぁ」
「さあ」

このままでは告白されるのも時間の問題だ。同じ部活だからとうかうかしてたらどこぞの女に取られてしまうかもしれない。今更ながら急に焦ってきた。

「北さんと急接近したい」
「急接近なぁ……」
「侑経験豊富やろ? どうしたらええと思う?」
「んー……」

内容はともかく、侑は私よりもずっと恋愛経験が多い。男子目線で何かいいアドバイスをくれるかもしれない。
会話が長くなりそうなのを察したのか、侑はさっき渡したうまか棒を一本くれてしゃがんだ。治や角名とセットになるとタチが悪いけど、一対一で話せばめんどくさい奴ではない。

「みょうじってマスコット感否めないやん?」
「否めないけど腹立つ」

男子バレー部に女子マネージャーが一人と聞くと、チヤホヤされて逆ハーレムみたいなのを想像する人がいるかもしれないが断じてそんなことはない。
みんな仲良くしてくれてるのは事実だけどチヤホヤって感じではない。マスコットっていう侑の例えは的を得ていると思った。そういえば1年の時、赤木さんに「名字はようわからんご当地キャラみたいな愛らしさがあんねんな」と言われたことがある。アレはギリ褒め言葉ではなかったと思う。

「ただ、ドジっ子属性は俺はアリやと思う」
「属性……?」
「そこで狙うはラッキーエロや!」
「ラッキーエロ……?」

属性って何やねん。なんかくそしょうもないことを言ってきそうな予感がする。

「北さんの前で転んで胸を押しつけ……いやすまん、何でもないわ」
「何で途中でやめた? どこ見てやめた? おん?」

確かに押しつけるようなボリュームの乳は持ってないけど、そもそも北さんはそんなんで攻略できるような人じゃない。
侑のアドバイスは何の参考にもならなかった。


***


もちろん侑の提案を実行するわけもなく翌日。昼休み前の体育が終わり、教科委員である私は体育館の戸締まりをして、ひとり校舎裏を歩いていた。

ガチャ
「ひえっ」

早足で部室棟の前を歩いていたら急にドアが開いて、思わず体育館の鍵を落としてしまった。金属とコンクリートがぶつかってジャラジャラと大きな音がした。

「すまん」
「エッ北さ、あっ」
「みょうじ!」

更に出てきたのが北さんだと認識した瞬間、昨日の侑の変な作戦が脳裏に浮かんだ。つまづいてなるものかと一歩下がった右足が何か硬い物を踏んだのがわかった。壊してはいけないと本能が察知したのか、変に浮かした足は行き場をなくして私の身体は後ろに傾いた。
青空を背景に、慌てた顔の北さんが私に向かって手を伸ばしてくれたのが見える。ほんの少し迷ったけど、私の手は既にその手に縋っていた。

「いてっ」

しかし私が掴んだのはワイシャツの袖の端だったようで、抗う術なく私のお尻は地面とぶつかった。勢いが和らいだおかげでそこまで痛くはない。それよりも、尻もちをつく直前に聞こえた「ブチ」という嫌な音が気になる。

「ご、ごごごめんなさい!!」

まさかと思い北さんの袖を確認してみると、ボタンが失くなっていた。私が引っ張ったせいで取れてしまったらしい。好きな人のボタンを引きちぎってしまったという事実に血の気が引いた。

「間に合わんくてすまん。怪我ないか?」
「はい! あの、北さん、私直すんで……」

やってしまったことはしょうがないとして、大事なのはこのピンチをいかにチャンスに変えるかだ。ボタンを付けて返せばワイシャツは預かれるし裁縫できますアピールはできるしで大逆転の可能性がある。

「大丈夫。コレ持っとるし」

そんな私の下心がこもった提案は、北さんが鞄から取り出した携帯用の裁縫セットによって叩き落とされた。

「わ、私やります!!」
「……じゃあ頼む」
「エッ! はい!」

たとえ女子力の高さで完敗したとしてもまだ諦めてはいけない。裁縫できるアピールはまだできる。食い下がったら思いの外あっさり許可してくれて怯んでしまった。
「中の方がええか」とバレー部の部室に入った北さんに続いて中に入る。部室に入るのは久しぶりだ。北さんの管理が行き届いているおかげで男子部員が使ってるとは思えない程片付いている。
ちなみに今日3年生は授業が午前までで、部活の荷物を置いておくために部室に寄ったらしい。

「ぎゃあ! き、北さんあかーん!」
「脱がなできんやろ」

ただでさえ部室にふたりきりという状況に動揺を隠せないというのに、北さんは真ん中のベンチに座ってワイシャツを脱ぎ始めた。
確かに着たままやったら腕に針を刺してしまいそうで怖いけど、肌着姿の北さんなんて刺激が強すぎてきっと針に糸を通すことさえできない。

「こ、これを羽織ってください!」
「……はは、普通逆やんな」

少しでも露出を抑えてもらおうと、私は着ていたジャージを脱いで北さんに渡した。北さんは不思議そうに首を傾げながらもジャージを肩にかけてくれた。
北さんが私のジャージを肩にかけている……しかもなんかようわからんけど笑ってる。写真に収めて額縁に入れて飾りたい。破壊力やばい。

「いてっ」
「大丈夫か? ちょお待って」
「!」

そんな北さんが隣にいる状態で冷静に針仕事なんてできるわけがなかった。最後の最後、糸をとめるところで思い切り指に針を刺してしまった。
シャツを汚してはいけないと思い、指を舐めようとしたら北さんにグッと手首を掴まれた。その力強さにきゅんとしていると、いつの間にか北さんは絆創膏とティッシュをスタンバっていた。

「ひい……」
「痛いか? 我慢しい」

小さな悲鳴をあげたのは痛いからではない。北さんが私の手に触れているからである。私の指に絆創膏を巻く、北さんの丁寧な手つきを見ているとなんだか変な気分になってしまうような気がしてぎゅっと目を瞑った。

「できた」
「あ……ありがとうございます! 一生大事にします!!」
「風呂入る前に取りや」

この絆創膏は額縁に入れて飾ろう。



( 2023.11.5 )

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