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御幸

私は本当に可愛くない女だと思う。
例をあげてみよう。
彼氏からキャラもののぬいぐるみをもらっても心から喜べないし、デートは月に1回くらいで十分だし。
付き合ったとしても私の最優先事項が彼氏になることはないし、相手もそうであってほしい。
正直今は部活が楽しくてしょうがないから彼氏より部活を優先したい。
それから、男の子からアプローチされてもまあ嬉しいけどどこか冷静な自分がいる。
告白されるのは苦手だからなるべく告白されないように誘導しているつもりだ。
こんな女と付き合っても実際何も楽しくないよーっていうのをアピールしてるんだけど……今回の石田くんにはなかなか通じないようだ。


「どうしよう御幸、めんどくさくなってきた。」
「あー、石田?」


説明しよう。
石田くんとは1年の時同じクラスだった男の子。長身のスラっとした体型で黒縁眼鏡。部活はバスケ部。
1年の時は特別仲が良かったわけじゃないと思う。
2年になって違うクラスになってから関わりなんてなかったのに、2週間前にいきなり連絡がきた。内容はなんでもない、「久しぶり。最近どう?」みたいな感じ。
そこからなんでもない話題が続き、とうとう「2人で映画でも行かない」まできた。
もちろんお付き合いするつもりのない私は適当に流すんだけどこれがなかなかうまくいかない。


「付き合う気ねーなら最初から相手しなきゃいいのに。」
「えー…だって最初っからガン無視って酷いじゃん。」
「中途半端に優しくされるのが一番ひでェっつーの。あー怖い怖い。」
「御幸だって似たようなもんじゃん。私の気持ちわかるでしょ?」
「告白させたくないんだろ?」
「うん。」


そして今話しているのは御幸一也。
中学からの付き合いで、それなりに仲が良いと思ってる。…というか、男の子で唯一自然体で喋れる相手だ。多分私と境遇が似てるからだと思う。
私は中学の時から御幸が何人と付き合ってどんな恋愛をしてきたかを熟知しているし、御幸も私のそれを把握している。
お互いに恋人から別れ際に言われる言葉はだいたい同じ。『第一印象と違う』とか『もっと恋人である自分を優先してほしい』とか。
だから最近は付き合ってもどうせうまくいかないんだろうなって思っちゃって、私も御幸ももう1年くらい恋人がいない。そして恋人がいない今の状況がとても充実している。
石田くんはいい人だと思う。だけど正直彼とキスとかするの想像できないし、それ以上もしたいと思わない。


「デートの誘いも角がたたないように断ってたんだけど…」
「『今日の放課後駐輪場で待ってる。』…」
「駐輪場で待たれたら回避不可能じゃん。困る。」
「おー…ここ最近で一番ガッツのある奴だな。」
「そのガッツのベクトルをもっと別の方向に向けてほしいな。」
「それ本人に言ってこいよ。」
「そんな酷いこと言えない。」
「嘘つけ。」


私に石田くんと付き合う気はない。今までのやりとりで察してほしいものだ。


「どうしたら諦めてくれるかなー。」
「んー…ひとついい方法がある。」
「なになにー?」
「でもなー…」
「えー、なに?気になるじゃん。」


対応に困っていると何やら含みのある言い方をしてくる御幸。
そういうの中途半端に言われるとすごく気になるんだけど。


「んー…」
「んー?」
「…じゃ、行くか。」
「え?なに、まだ途中じゃん!」


結局答えを言わずに御幸は結論だけ出した。


「ていうか、私行きたくないんだけど…」
「だーいじょうぶ。任せときなさいって。」


御幸は真意のわからない笑顔を浮かべて、渋る私の手を引いた。
とりあえず御幸は私と一緒に石田くんが待つ駐輪場に行ってくれるっていうこと?


「あ、もしかして御幸が彼氏のフリしてくれるとかそういう感じ?」
「はははっ、ちげーよ。」
「だよねー。私御幸とだけは噂になりたくないもん。」


少女漫画だと「こいつ俺の彼女だから」とか言ってイケメンが助けてくれるんだよね。
でも、現実で考えてみたらそんな人いないし、モテ男の御幸と噂になるなんて絶対嫌だ。
まあ、御幸がそんなことするわけないか。
ここは長い付き合いの御幸を信じてついていくとしよう。









「あっ、名字さん……と、御幸…?」
「ども。」


駐輪場まで行くとどこかそわそわした石田くんが立っていた。
石田くんは私を見つけて笑顔になって、そのすぐ後に御幸の姿を確認してなんとも言えない表情を浮かべた。うん、そりゃそうだよね。


「えっと……2人は付き合ってる…?」
「付き合ってるわけじゃねーよ。ただ、これからこいつに告白する石田くんに忠告しようと思って。」
「!」


まだはっきりと告白する前にこんなことを言う御幸は本当性格悪いと思う。
告白の現場に男友達を連れてくる私も相当嫌なやつだけど。


「もしこいつのこと、可愛い女子と思ってんだったらそれは思い違いだからやめた方がいい。」
「なっ……」


忠告って……え、そういうこと?


「飯食う時はあぐらかくし、料理へたくそだし、下ネタでめっちゃ笑う。」
「ちょっと!」
「口悪いし腹黒だし胸も小さい。」


忠告と言って御幸の口から出てきたのは私の悪口ではないか。
いや、御幸が言ってることは全部本当のことなんだけどさ。
つまり、こいつは可愛くないからやめとけって忠告してあげてるってこと?


「御幸…!」


いい加減文句を言おうとしたらぐいっと肩を引き寄せられた。


「こんな可愛くねー女、俺にしか扱えねーよ。」
「!!」


直接的な言い方ではないけれど、その意味は十分に通じた。
本当、御幸って性格悪い。
だからこそ私もそばにいて欲しいって思えるのかな。






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