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「……はあ。」
何をしているんだ私は。
できあがったマドレーヌを見て溜息をついた。
「…うん、おいしくできた。」
あげる相手もいないのにどうしたものか。
「あれ、今日誰かの誕生日だっけ?」
「え?」
「それ。お菓子でしょ?」
カバンから少しはみ出たマドレーヌをナベちゃんが目ざとく見つけた。
「もー!女の子の鞄の中をのぞくなんてナベちゃんのエッチ!」
「え…ご、ごめん…。」
なんとなく答えにくかったからはぐらかしてしまった。
鞄の中がぐちゃぐちゃな私が悪くてナベちゃんは別に悪くないのに。
「…もしかして好きな人にあげる…とか?」
「は!?え、ナベちゃんエスパー!?」
「あ、そうなんだ。」
「ち、違うし!」
「わかりやすいなあ、名字は。」
近からずとも遠からずなことを言われてあからさまに焦ってしまった。
くそう、ナベちゃんの術中にハマってしまった…!
「いやほんと違うから!中学の時好きだっただけだから!」
「へー。」
「毎年あげてて、癖で作っちゃったっていうか!」
「なるほど。」
「別に渡す予定もないだけどね…ってニヤニヤするなー!」
「いやあ、名字が女の子みたいで可愛くて。」
「え、女子なんですけど。」
だけど決して好きというわけではないんだ。
確かに中学の時は好きだった。けどモテる人でみんなからキャーキャー言われてたから、憧れに近かったんだと思う。
かっこいいって思うけど、付き合いたいか聞かれるとそれは微妙なところで…。
「…ナベちゃんこれ食べていいよ。」
「…嬉しいけど、それはできないよ。名字がその人のことを思って作ったんだろう?」
「だからそんな大した感じじゃないんだって!ほんと!」
「中学の同級生?どんな人?」
「なんなのナベちゃん急にぐいぐいくるんだけど!」
「名字のそういう話聞いたことなかったから新鮮で。」
う…ナベちゃんが悪い顔してる。いつもは天使顔のくせに!
「もう好きじゃないなら思い出話なんだから、そんな気にすることないんじゃない?」
「まあ…。」
それもそうか。
なんだか言いように言いくるめられた気もするけど。
「同級生だよ。」
「へー。野球部?」
「うん。」
「高校はどこ行ったの?」
「ちょ、それ言ったら予選とかで当たった時わかっちゃうじゃん!その手には引っかかりませんからねーっ!」
「あはは。同じ地区なんだね。」
「はっ…!!」
ナベちゃんの思惑通りにはいくもんかとムキになったけど、結局ナベちゃんは私よりも上手だった。
「告白はしなかったの?」
「できなかった。なんか…仲良くなりすぎたのかも。向こうは絶対私のこと友達としか思ってないし。」
「…なんか名字らしいね。」
「褒め言葉として受け取っておくよ…」
「うん、褒めてるからね。今は好きな人いないの?」
「いない!てか私ばっか質問されてずるい!ナベちゃん好きな子誰!?」
「いないよ。」
「うそつけぇー!いるんだろこのこの!」
「部活でそれどころじゃないしね。」
「むーつまんない!好きなアイドルでいいから!まゆゆ?ゆうこ?ゆきりん?」
「ごめん、アイドルもよくわからんないや…」
「聖人か!」
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