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- ナノ -

灰谷蘭



『結婚する気ないなら別れる!!』


……やってしまった。
何であんなこと言っちゃったんだろう。あの時の私はお酒も入ってたし正気じゃなかった。でも心の叫びだったことは確かだ。
蘭とは付き合って3年が経つ。20代も後半になって周りの友達はどんどん結婚していって焦っていたんだと思う。ちょっとした喧嘩はあっても蘭のことは大好きで、良好な関係でやってきたのに昨日の発言で終わってしまうかもしれない。可愛い彼女でいたいのに。別れたくなんかないのに。
昨日から恐ろしい数の着信が溜まっているであろうスマホは未だに触れないでいる。


ガチャン


「!」


一人暮らしの家の鍵が開いて誰かが入ってきた。絶対蘭だ。合鍵渡してあるの忘れてた。。どうしよう今会いたくない。着信散々無視しちゃったしすっぴんだし泣き腫らしてるし、こんなブサイクな顔見られたら余計に愛想つかされちゃいそう。


「……ひでー顔だなぁ」


酷い顔を隠す暇もなくズカズカと入ってきた蘭にがっつり見られた。


「可愛くない女でごめん」
「知ってる」
「そこは可愛いよってフォローするところ」
「めんどくせー」


素直に「昨日はごめん」って言えばいいのに、私の口からは可愛くない言葉ばかり出てくる。本当めんどくさい女だと思う。


「ほら」
「?」


思ってたより蘭は怒ってないみたいで、私の隣にあぐらをかいて机に紙切れを置いた。


「え、これ……」
「オレんとこは書いといた」


A3くらいの用紙にはいくつも記入欄があって、左側だけ蘭の字で埋められていた。印鑑もあちこちに押してある。
まさか。左上を確信すると確かに太字で「婚姻届」と書かれていた。


「蘭、字、きれい」
「もっと他にあんだろ」


いろいろと処理が追いつかなくて小学生みたいな感想しか出てこなかった。


「……蘭〜〜っ」


理解が追いついた頃にはまた涙が溢れてきて、これ以上ブサイクな顔を見られたくない私は蘭の肩に頭をぐりぐりと押し付けた。いつもの香水の匂いがしない。急いで来てくれたのかな。


「今日出し行くぞ」
「今日!?」


よく見たら2人分の証人欄はイザナくんと竜胆くんで既に埋められていた。



















(竜胆視点)


昨夜遅く、急に兄ちゃんが訪ねてきて一枚の紙切れにサインをしろと押し付けてきた。一瞬何かの連帯保証人にされるのかと思ったけどその紙切れは婚姻届だった。
聞くと名前さんに「結婚する気ないなら別れる」って言われて喧嘩したらしい。笑った。よく喧嘩する2人だけど弟のオレから見てもなんだかんだでお似合いだと思う。
それにしても本当に結婚するなんてなぁ。兄ちゃんはそこまで結婚という形に拘るタイプじゃない。それでも決断したってことは、名前さんと別れたくないってことだ。署名をしながら感慨深く思った。


「おっ」


朝メシを買いにコンビニまで歩いていたら、前方に兄ちゃんと名前さんの姿を見つけた。この先には区役所がある。どうやらうまくいったみたいだ。


「兄ちゃ……」
「ねえ私プロポーズされてなくない!?」
「はぁ?したじゃん」
「結婚してくれって言ってない!」
「……それ必要かぁ?」
「必要だよ!!」


声をかけようとしたけど今入ってったらめんどくさそうだからやめといた。末永くお幸せに。



( 2021.10 )

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