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05



 
思いがけず告白してしまった。まだそのタイミングじゃないってことはわかっていたのに、一虎くんの優しさが嬉しくて、大好きで、抑えられなかった。
私の告白の直後、一虎くんはわかりやすくテンパって逃げた。そしてそれ以降、私は一虎くんに避けられるようになってしまった。トークアプリは既読無視、お店に行くとバックヤードに隠れてしまうものだから全然話せていない。告白はとりあえず置いておくとして、お礼はしっかりしたいのに。いい加減むかついてきて、今日はペットショップから少し離れた場所で仕事終わりの一虎くんを待ち伏せた。

「……ストーカー女かよ」
「通報はしないでほしい」
「しねーよ」

私の姿を確認した一虎くんは笑ってくれて少し安心した。私が勝手に待ち伏せしたのに、普通に家まで送ってくれるところも好き。お礼がしたいと伝えると案の定「いらない」と言われたけど、なんとか食い下がって今度ご飯を奢る約束を取り付けた。その後も今まで通りの雑談をして、あっという間に家に着いてしまった。

「コーヒー、飲んでく……?」

想いを伝えた後にしてはあまりにもあっけない別れが寂しくて、去ろうとした一虎くんを引き止めた。大胆なことをしてるのはわかってる。一度告白したからこその行動だったのかもしれない。

「オレはやめといた方がいいよ」

一虎くんは服の裾を掴む私の手を優しく振り解いた。その顔はとても優しかったけど、どことなく他人行儀な言葉遣いと笑顔が辛かった。


***


やんわりとお断りされたわけだけど、それでも私は諦めない。「やめといた方がいい」とか、そんなの一虎くんが決めることじゃない。私が一虎くんにどれだけ救われてきて、どんなに惹かれているか知らないくせに。少なくともそれをわかってもらえるまでは諦められない。

「彼女いないならウチらとあそぼーよ」

むしゃくしゃしてお昼にガーリックステーキを食べようと渋谷を歩いていたら、派手な女の子たちに逆ナンされてる一虎くんを見つけてしまった。

「私の彼氏に何か用ですか?」

深く考えるより前に私は一虎くんと女の子たちの間に入っていた。

「えー彼女いないって言ったじゃん」
「コイツは……」
「一虎くんかっこいいから気を付けてっていつも言ってるじゃん!行こ!」

この状況で「彼女じゃない」なんてマジレスはいらない。私は空気の読めない一虎くんを強引に引っ張って女の子たちから離れた。あんな軽いナンパに律儀に付き合う必要ないのにとイライラするのは嫉妬しているからだ。一虎くんの外見しか見てない人に、一瞬でも一虎くんを取られたくなかった。

「一虎くん女見る目ないんじゃない?さっきの子明らかに顔しか見てないじゃん」
「名前に言われたくねぇ」

確かに。散々ダメ男を好きになってきた私が言えた台詞じゃなかった。でも一虎くんを好きになった今、「男を見る目がない」という称号は私には当てはまらない。

「用事ないならステーキ奢らせて」
「……おう」

せっかく会えたんだからこのまま別れるのは勿体ない。具体的に決めていなかったお礼の食事を今から決行することにした。本当はオシャレなイタリアンとか高級焼肉とかを考えていたけれど、すっかりステーキを消化する気満々になった胃袋に嘘はつけなかった。


***


食べたくて仕方がなかったステーキはとても美味しかった。さすがに好きな人の手前、ガーリックは我慢した。
お昼ご飯を終えて13時半。こんな真っ昼間でも一虎くんは今までのように私を家まで送ってくれる、優しい人だ。最近話せていなかったからか、意外と話題は絶えなかった。

「オレさ、20まで年少入ってたんだ」
「……」

家の前まで着いたところで、一虎くんが改まって話し始めたのは過去のことだった。

「場地を刺したんだ」
「……知ってたよ」
「!」
「千冬から聞いてた。けっこう最初に」

私が知っていたと答えると一虎くんはただでさえ大きな瞳を見開いて丸くした。千冬が一虎くんの犯した罪を教えてくれたのは、だからやめとけって言いたかったんじゃなくて、その事実を知った上で判断しろよっていうことだったんだと思う。私が一虎くんのことが好きだと打ち明けた時、千冬は「ちゃんと見て決めたなら文句ねーよ」と言ってくれた。

「それでも好き。私は自分の目で見た今の一虎くんを信じる」

場地くんを刺して年少に入っていたのも事実。何度も私を助けてくれたのも事実。一虎くんは私に諦めさせるために話したのかもしれないけど、優しい一虎くんを近くで見てきた私には効果はない。まっすぐ見つめて改めて好意を伝えると、一虎くんの瞳が揺らいだのがわかった。

「じゃあ今、何されてもいいわけ?」

そのすぐ後に雰囲気を変えた一虎くんに腕を強く掴まれてぐっと顔を近づけられた。目前に迫った顔を見て、整ってるなあと冷静に思った。怖いとは微塵も思わない。これは私のための脅しだ。バカだなあ、一虎くんのことが好きな私にこんな脅しが効くはずないのに。頬に添えられた手が震えている。私は大丈夫だよと、その手に自分の手を重ねて視線で訴えた。

「名前さあ……」

私の言いたいことが伝わったのか、一虎くんは私の腕から手を放して自分の顔を覆った。指の隙間から見える頬はほんのりと赤い。

「ほんと、男見る目ねーよ」
「失礼な!」

今まではそうだったかもしれないけど今回は大丈夫。私が好きになった一虎くんを否定しないでいただきたい。

「オレ独占欲強いけどいいの?」
「え……監禁しない程度なら……」
「基準バグってんな」

あ、笑った。さっきまで感じていた壁はもう感じない。柔らかい雰囲気になった一虎くんを前にして、私の心臓はどんどんうるさくなっていった。

「あの、つまり……?」
「……付き合ってやる」

この返事はつまり、イエスということでいいんだろうか。でもその言い回しが引っかかって手放しで喜べなかった。

「ちょっと待って、同情だったら付き合いたくない」
「は!?」
「一虎くんも私のこと好きじゃなきゃやだ」
「……めんどくせぇ女」
「今更でしょ」

男運がなかった私を憐れんでの妥協だったら付き合わない方がマシだ。本当に好きだからこそ、私のことを好きでいてほしいと思った。

「……好きだよ、名前のこと」

こんなにも胸が高鳴る「好き」は初めて経験した。今までの恋人たちもその言葉は囁いてくれていた。でも、なんていうか、一虎くんの言葉は重みが全然違った。私本当に男見る目なかったんだなあと今更実感する。

「……あーあ、オレ女見る目ねぇのかも」
「じゃあ似た者同士でお似合いだね」
「んだとコラ」

来年も再来年も10年後も、こんな風に軽口をたたき合えるふたりでいれたらいいな。一虎くんが私を選んでくれたこと、絶対後悔させないんだから。



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