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after1



 
「わりー遅くなった」
「ううん、お疲れ様」


早いもので隆と付き合って1年が経った。私は4月から都内の幼稚園で働くことが無事決まって、隆の方は固定客がついたり大きな案件を任されたりでデザイナーとして順調にキャリアを積んでるようだった。
私は夏から一人暮らしを始め、同棲とまではいかないけど週の半分くらいは隆と一緒に晩御飯を食べて同じベッドで朝を迎えている。


「今日ワイン貰ったけど飲む?」
「飲む!白?」
「ううん赤」


仕事柄いろんな人と関わることが多い隆はよくお酒やらお菓子やらを貰ってくる。流行の最先端で働く人が多い業界だからか、どれもオシャレでセンスが良い。隆が仕事の打ち合わせや打ち上げに参加した日は何かしら貰ってくるのを期待して楽しみにしているのは秘密だ。


「赤か〜」
「飲みやすいってよ」


ワインは専ら白で赤はあまり飲まない。白よりクセが強いイメージだけど隆がそう言うなら大丈夫なんだろう。こういう時こそ結婚式の引き出物で貰ったペアのワイングラスの出番だ。雰囲気を出すためにチーズと生ハムもお皿に盛りつけた。


「おっ、飲みやすい!」
「ん、うまいな」


隆の言う通り赤ワインにしては飲みやすいと感じた。生ハムの塩っけがよく合う。美味しい。


「ペース考えろよー?」
「ふふ、隆にお任せするー!」
「何だそりゃ」
「やばそうになったら止めて」
「はいはい」


私は酔っ払うと自分のキャパを超えて飲んでしまうことがたまにあるが、それはもはや昔の話。隆が隣にいてくれる今、翌日二日酔いに悩まされることはすっかりなくなった。私自身よりも私の限界を理解してくれている隆は、毎回気持ち良く酔っ払ってるところでストップをかけてくれるのだ。
まあ、付き合う前に酔いつぶれた姿を見せてしまった挙句お持ち帰りされてしまったわけだし。あの時隆のキスを断ったと後から聞いて頭を抱えたのも、今となってはいい思い出だ。
だから今日も隆に任せておけば大丈夫。絶大な信頼を隆に寄せて、ワインとつまみを交互に楽しんだ。



+++



「おい名前大丈夫?」
「んー、どうだろ?」


グラス3杯目を飲み切ったあたりで隆が心配そうに私の顔を覗き込んできた。自分ではいい気分でまだまだいけそうな気がするんだけどこれ以上飲んだらやばいような気もする。


「顔赤いし。熱いし」
「んっ」


隆の手が頬に触れた時、指先が私の耳を掠めて変な声が出てしまった。ひんやりと冷たくて気持ちい手はすぐに離れてしまって名残惜しい。自分の手で頬を触ってみてもそこが熱を持ってるかはよくわからなくて、ワインボトルを頬にあててみるとやっぱり冷たくて気持ちよかった。


「こーら、もう飲むな」
「涼んでただけだもん」


キッチンからコップ一杯の水を手に戻ってきた隆にワインボトルを取られた。別に飲もうとしてたわけじゃないのに。冤罪だ。


「ほら水」
「んー」


隆が差し出してくれたコップは受け取らずに唇を突き出して飲ませてアピールをすると、隆は呆れた顔でため息をついた。それでも隆は最後まで面倒を見てくれるってわかってるから甘えられる。私のお望み通りコップを私の口元にあててくれた。


「あー零してるし」
「ん……隆……」


口の端から零れた水も拭ってくれる、とっても優しくて大好きな恋人。でも違うの、そこに触れてほしいのはコップの縁でも指先でもない。隆の手を掴んで視線で訴えた。


「ん」


隆が目を細めると、私の欲しかったあたたかくて柔らかい感触が唇を包んだ。自分で誘っておいて何でわかるんだろうと不思議に思う。


「赤だと3杯くらいか……」
「?」
「ん?何でもない」


含みのある発言が少し引っかかったけど今はそんなこと気にしていられなくて、ひたすらに隆の唇の感触と息遣いに集中した。






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