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08


「……」


むっす〜〜〜〜。
そういった擬音がピッタリというくらいに、名前は不機嫌そうに頬を膨らましていた。
両手にビッグサイズのピザを持って梨子が立っているのは真選組の屯所の前である。
以前の山崎とのデートの帰りにもわかる通り、名前は真選組が大嫌いだ。


「宅配便でーす。」


テンションが低い無愛想な声で叫んだ。
ただでさえイライラしているのに、真選組の隊士はなかなか出てこない。


「……」


だがもう一度叫ぶことはしない。自分はちゃんと呼んだ。あと5秒待って来なかったらこのピザ投げ入れてやろうと、名前が思ってるときだった。


「いやーーーご苦労ごくろブッ!!?」
「受け取れコノヤローーー!!」


彫りの深い男が屯所から出てきて、名前はその男に両手のピザをぶん投げた。
1つは顔面に。1つは股間に。男は数秒固まったあと、力なく倒れた。









「宅配便でーす。」


翌日。名前はまた屯所の前にたたずんでいた。
両手で抱えているのは箱ぎっしりに詰め込まれたマヨネーズ。
昨日に引き続き今日まで屯所に来ていること。配達物がなんかおかしいこと。
そしてやはりなかなか出てこない相手に名前のイライラは頂点に達しようとしていた。


「オイ総悟取りいけ。」
「嫌でさァ。アンタのマヨネーズだろィ。」
「……」


屯所内ではそんな会話がされていた。
刀を磨いているのが真選組副長の土方十四郎、寝転がっているのが真選組一番隊隊長の沖田総悟である。
別に2人とも仕事をサボっているわけではない。今は列記とした休憩中なのだ。だからこそ玄関先まで出向くのが面倒だった。
おそらく前回も誰がいくかで言い争いになり、それを見かねた真選組局長の近藤が自ら出向いたのだろう。
今回の場合は宅配物が以前頼んだマヨネーズ詰め合わせだということがわかってるので、頼んだ張本人の土方が腰を持ち上げた。


「ごくろーさ…」
「マヨネーズくらいスーパーで買えェェエ!!」
「んがッ…!」


土方が扉を開けると同時に、名前は前回と同じように手にもっていたダンボール箱を思いっきり土方に投げつけた。
中にはマヨネーズがぎっしり入っているということで、かなり重い。土方はいきなりの衝撃に耐え切れず後ろに倒れこんだ。


「何しやが…る…」


土方はすぐに起き上がり怒声をあげたが、もうそこに名前の姿はなかった。


「……」


その一部始終を縁側で見ていた沖田が、ニヤリと黒い笑みを浮かべた。










「スシでも取りやせんか?」
「スシだァ?」


その日の夕方、腹が減ったと呟いた土方に沖田が言った。


「なんだ総悟、スシが食いたいのか?」


一通り書類に目を通した近藤は軽く伸びをした。その額には絆創膏が1つ貼られている。


「たまにはいいでしょう。」
「たまにはって、昨日も山崎の誕生日でピザ食ったばっかだろーが。」
「そーいえば今日は俺の誕生日だった………らいいのになァ〜。」
「願望じゃねーかソレ!!」
「まーまー。総悟がワガママ言うなんで珍しいじゃねーか。」
「いや珍しくねーよ。」
「…まァ近藤さんがいいなら別にいいけどよォ…。オイ山崎。」
「……」


宅配を取らせようといつもの如く土方が山崎の名を呼んだが、返事がない。
振り向いてみると、部屋の隅で小さくなったり、頭をかかえたりと忙しなくうごめく山崎がいた。


「…どーした山崎。ウンコか?」
「……この前のことで悩んでんだろ。」


呆れたように土方が言った。この前のこととは、名前とのデートのことだろう。
別に山崎が名前に嫌われたわけではない。むしろ仲は好調だ。
しかし名前が真選組を毛嫌いしていると知った以上、真選組の一員である自分の恋は終わったも同然。
恋愛と仕事の狭間で、山崎はこの上なく深刻に悩んでいた。


「じゃ、宅配なら俺がとってくるんで。」


沖田はニヤリと笑って部屋を後にした。





■■
ここまでです。ありがとうございました。




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