銀魂 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



01:人間潔くいこう


とある飲食店に深い赤色を基調とした着物を着た、綺麗な女性が入ってきた。
女性が入ると飲食店の店員も客も、皆が一度は目を向ける。
女性はゆっくりと椅子に座り、注文を聞きにきた店員に対して紅ののった唇でこう告げた。


「さきイカ。丼大盛りで頂戴。」
「……は…はい…」


店内は、しばらくの間沈黙が続いた。









「おねーさん、合い席いい?」


しばらくして、さきイカを華麗に食べている女性のところに天然パーマの男が来て、女性に声をかけた。
どうやら他に空いている席がないらしい。


「どうぞ。」


女性は男を見ると、微かに口の端を上げて返事をした。
そしてまたさきイカに目線を戻し、華麗に食べ続ける。
男はそんな女性に対して、他の客とは違って特に何の反応もせず女性の隣に腰を下ろした。
そして店員に『チョコレートパフェ』を注文する。


「だからバカ!おめっ…違っ…!それじゃねーよ!!そこだよそこ!!」


レジの方で荒々しい声が聞こえた。
どうやら店長が若者にレジ打ちを教えているのだが、その若者が全然レジ打ちができないみたいだ。


「おめっ、今時レジ打ちなんてチンパンジーでも出来るよ!!オメー人間じゃん!一年も勤めてんじゃん!何で出来ねーんだよ!!」
「す…すみません。剣術しかやってこなかったものですから。」
「てめェェェ!まだ剣ひきずってんのかァ!!」
「ぐはっ!!」
「侍も剣ももうとっくに滅んだんだよ!!それをいつまで侍気取りですかテメーは!!あん?」
「オイオイ、そのへんにしておけ店長。」
「?」


少々過激な職場教育に静止の声が入った。
その声の主は虎のような人間。茶斗蘭星から来た大使だった。


「オイ少年。レジはいいから牛乳頼む。」
「あ…ヘイ、ただいま。」
「旦那ァ、甘やかしてもらっちゃ困りまさァ。」
「いや、最近の侍を見てるとなんだか哀れでなァ。廃刀令で刀を奪われるわ職を失うわ。ハローワークは失業した浪人で溢れてるらしいな。我々がここに来たばかりの頃は事あるごとに侍達がつっかかってきたもんだがこうなると喧嘩友達なくしたようで寂しくてな。」


一見良い人そうに見えるのだが、言葉とは裏腹に天人は牛乳を運んでくる少年の前に足を出し、少年を転倒させた。



ドガシャン


「!」


ベチャ


少年は勢い良く吹っ飛び、天人の後ろのテーブルと衝突。
そのおかげで天然パーマのさっき来たばかりのチョコレートパフェがグラスから丸々と落ちてしまった。
どこに落ちてしまったかというと………さきイカを黙々と華麗に食べている女性の着物の上にだ。


「………ごめんなさい。」


女性のあまりの反応の無さに少し男は戸惑いながらも女性に謝った。


「………」


が、女性は何の反応もしない。ただただ華麗にさきイカを食べているばかりだ。


「………」


男はしばらく返事を待ってみるが、返事は来ない。
男は少し考えた後、許してくれたのだと勝手に解釈をして、チョコレートパフェをこぼした原因を叩きに行こうと席を立った。


「おい。」
「?」


バカン


「がふっ!!」


ガシャン


店長に向かって下目使いで話しかけたすぐ後に店長の顎に思いっきりアッパーをかました。
店長は天人達のテーブルに頭から突っ込んだ。


「なっ、なんだァ!?」
「何事だァ!?」


このできごとで店内の中がざわつき始めた。
男は、ゆっくりと天人の方に歩み寄りながら腰に刺している木刀に手をかけた。


「なんだ貴様ァ!!廃刀令の御時世に木刀なんぞぶらさげおって!!」
「ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ。発情期ですかコノヤロー。見ろコレ…。てめーらが騒ぐもんだから俺のチョコレートパフェがお前コレ…まるまるこぼれちゃったじゃねーか!!」


ダコン


淡々と話しているかと思いきや、いきなり天人の頭に木刀を思いっきり振り下ろした。


「…きっ…貴様ァ!何をするかァァ!!我々を誰だと思って…」
「俺ァなァ!!医者に血糖値高すぎって言われて…パフェなんて週一でしか食えねーんだぞ!!」


ガキィィン


男が木刀を持って天人二人の間を走り抜けた…と思った直後。天人二人は倒れてしまった。


「店長に言っとけ。味はよかったぜ。」


男は少年にそう言い残し、パフェ代を払わずに店を出て行った。
少年は呆然と店ののれんの前に立ち尽くした。


一方店の中では、女性は先程の騒ぎにも全く反応せずやっぱり華麗にさきイカを食べていて、今丼1杯のさきイカを完食した。


「うん、美味しかった。…………?」


そこで初めて辺りを見回して何かあったのだと認識する。


「……何これ、うんこ?」


ふと下を見てみると、自分の赤色の着物の一点に黒いものがべっとりとついているではないか。
その物体の正体はチョコレートパフェなのだが、女性は何の恥じらいもなく、伏字もしないで「うんこ」と言い放った。
外見とはあまりにもギャップのあるその様子に客や店員はまたもや沈黙する。


「……甘っ…パフェか……」


恐る恐るにおいを嗅いでみるとそれはうんこではなく甘ーいチョコレートパフェ。
女性は嫌そうに顔を歪めてバッグから大きなはさみを取り出した。
それで何をするのかと思うと、女性はチョコレートパフェがついた部分の布をそのハサミで切ってしまった。
チョコレートパフェの落ちた場所は太ももら上。そこからまっすぐ切るのは際どいので、女性はそこから斜め下に切っていった。
切り終わると、女性ははさみをバッグにしまい席を立った。


「だから僕は違いますって!!犯人はもうとっくに逃げたの!!」
「ハイハイ、犯人はみんなそう言うの。」


店から出るとなにやらもめているのがわかった。


「言い訳は凶器隠して言いなさいよ。よし、じゃあ調書とるから署まで来て。」
「どうしたんですか?」
「いやあ、こいつが店内で木刀を振り回してるって連絡が入ってさァ。」
「違います!あ!あなた中にいましたよね!?僕木刀なんて振り回してませんよね!!?」


どうやらこの少年がパーマ男が起こした事件の濡れ衣を被っているようだ。
少年は必死に女性にすがりついた。それもそうだ。今自分のアリバイを証明してくれそうな人はこの人しかいないのだ。


「…………覚えてない。」
「えーーーーー!?」
「ほら、じゃあ行くぞ。」
「じゃあ失礼。」
「え…あのちょっと…ちょっと待てェェエ!!」


助けを求める少年を綺麗に無視して女性は道を歩いて行った。
………ちなみに丼一杯分のさきイカの代金は払っていない。










「こら!何ミントンやってんだ、山崎!」
「ごごごごめんなさいィイ……!?」


ここは屯所。そう。女性はここで働いているのだ。女中……ではなくて彼女も立派な真選組の一員らしい。
男尊女卑の世の中で彼女は時勢にとらわれる事なく、正々堂々試験を受けて審査員全員をねじ伏せたというのは結構有名な話だ。
しかし普段隊服を全然着ないため、“名字名前”の顔と名前が一致する者は少ない。


「あれ…?確か名前さん今日は非番じゃないんですか?」
「ちょっとね。」
「? …ッ!!ど、どーしたんですかその…」
「どうしたんですかィ名前さん。そんなオイシイ格好しちまって。」


名前が山崎と屯所内の休憩部屋で話していると、1日3回は必ず来るという沖田が部屋に入ってきた。


「美味しくないわよ。店で合い席した男の人にチョコレートパフェ落とされちゃってさぁ。汚れた部分はもう切ったしっつーかあんた甘いもの好きだっけ?」
「いや、そーいう意味じゃないんですけどねィ。」


名前は沖田の言った『オイシイ』という意味を履き違えているようだが、訂正を入れたところで何が変わるわけでもないので沖田は黙っておいた。


「あーあ、この着物高かったのに。2分の1だから……20万ね。」
「…この着物前に60万って言ってませんでした?」
「名前さん足し算しかできねーからな。」
「え……」


60万の2分の1は30万である。


「総悟ォ!テメー何回休憩とるつもりだァ!?」


すると部屋の扉が荒々しく開けられ、土方が入ってきた。


「!? なッ…んつー格好してんだ名前…!!」
「? なんかよろしくないところでも?」


そして真正面にいる名前の姿に驚く。
普通なら足首まである着物の裾が太ももらへんで切れていたからだ。


「ムッツリ土方……」
「オイ総悟聞こえてんぞォ!!」
「ムッツリ土方、そこのヒルダガルデとってくれる?」
「おう…ってどれだよ!?つーか何どさくさに紛れて言ってんだァ!!」
「はあ?ヒルダガルデは上の一番右のやつ。いつになったら覚えるのよ、ムッツリ土方。」
「知るかよ!!ハサミにいちいち名前つけんな!!しつこいぞテメェエ!!」
「沖田は全部覚えたよ。愛という言葉を知らない男はやだねぇ。」
「そうだぞムッツリ土方。」
「総悟テメーさっきから呼び捨てすんな!!」


『ヒルダガルデ』というのは名前愛用のハサミのことだ。
名前が指差したところは鞄が開いていて、その中には何十個ものいろんな形、デザイン、大きさのハサミが並べられていた。
どうやら名前はそのはさみ一つ一つに名前をつけているようだ。しかも沖田はそれを覚えているらしい。


「さーて、賠償金もらいに行きますか。」


土方から受け取ったはさみを専用の鞘に入れて、腰にさした。
立ち上がってドアノブの手を伸ばすと、そこで名前の動きが止まった。


「…どーした?」
「やっぱせっかくの休暇だからくつろぐことにした。」
「………」





■■
我慢できないところは多少加筆していますが、今と比べると更に拙い文章だと思います。
許せる方のみどうぞ。34話まであります。





next≫≫
≪≪prev