RE! | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



01:リボーン来る

南の海のとある島。
その島の南西部に位置する小さな町はナミモリ町。漁業がさかんで、港にある市場からは毎日活気溢れる声が飛び交う。
そんな町の内陸部に、平凡なりに毎日なんとなく幸せに暮らしている少女がいた。
少女の名前は沢田名前。母と2人で暮らし、畑仕事と飲食店でのアルバイトで生計をたてている。


「ただいまー。」
「お帰りなさい、名前。」


午後3時。名前が畑の手入れを終えて家に戻ると、いつもの2割増しくらいで機嫌のいい母の声が帰ってきた。
また近所から花の種でももらったのだろうかとリビングを覗いてみて名前は驚愕のあまり声を失った。


「よォ。お前が名前だな。」
「………は…?」


何故なら、母と自分の2人しか住んでいないはずの家のリビングで見知らぬ男が優雅にお茶を飲んでいたからだ。
男は真っ黒のスーツに身を包み、頭にも真っ黒のボルサリーノ。そしてその縁に何故かカメレオンを乗せている。
顔つきはいわゆるイケメンというやつで、雰囲気は一般人の名前でも只者じゃない空気を感じることができた。
そんな男と自分の母親はいったいどんな関係なのだろうか。
愛人……のはずはない。母親の奈々は名前がまだ10にもならない頃に出て行った父親にベタ惚れである。


「この人はリボーンさんって言ってね、今日から名前の家庭教師をしてくれるのよ。」
「………はあ!?」


母の説明に再び名前は驚愕させられる。
我が母ながら、日頃からとんでもない天然だとは思っていたが今回は突拍子が無さすぎる。
名前は今年で17歳。この国の義務教育はとっくに終えている。今さら何を教えてもらうと言うのだろうか。


「じゃあ母さん買い物に行くから。リボーンさん、うちの子をよろしくお願いします。」
「ああ、任せろ。」


名前が抗議をする前に母は上機嫌のまま家を出てしまった。
見知らぬ男と娘を家に2人きりさせて買い物とは、やはり自分の母親は普通の人より感覚がズレているのだと実感した名前だった。


「………」
「………」


リビングに沈黙が流れる。
気まずい、と視線を泳がす名前に対してスーツの男は平然と名前を見つめた。


「名前。」
「は、はいっ!」


普段から男性とあまり話さない名前にとって、見知らぬ男と2人きりという今の状況はかなりのストレスだ。
この男が整った顔をしていることも大きな要因かもしれない。


「おれはお前をボンゴレ海賊団の10代目船長にするために来た。」
「………は?」


本日3回目の「は?」である。
「海賊」や「船長」などという、名前の日常とはかけ離れた言葉のせいで少し思考が遅れてしまった。
何の家庭教師かと思えば、なんと海賊になるための家庭教師だと言うのだ。


「あの……」
「9代目がそろそろ歳で隠居しようっつーもんで、次期10代目にお前が選ばれたんだ。」
「いや……」
「おれの腕は超一流だからな。お前を立派な船長にしてやる。」


全く話についていけてない名前に構わず男は続ける。亜未が口を挟む隙も与えない。


「あの、冷やかしなら帰ってください…」
「…全部本当だ。」
「だ、だったら尚更帰ってください!私……海賊、嫌いなんです…!」
「……父親が海賊だからか?」
「!!」


名前の父親は海賊だった。名前が5歳の時に海に出てそれっきり帰ってこない。
母はそんな父を愛し誇りに思っているようだが、海賊という事実だけで周囲からの待遇は冷たいものだった。
名前自身、父親が海賊だから…ただそれだけの理由でいじめられたこともあった。


「わ、私は、海賊になんかならない!!」


何故見知らぬ男が父親のことを知っているのかは疑問だったが、これ以上この男の話を聞きたくなくて、名前は家から出て行った。











「はぁ…っ、意味わかんない……」



名前は家から500メートル程先にある森の中まで走り、適当なところで腰を下ろした。
膝を抱え、何かから自分を守るように身を縮める。目尻に溜まった涙が零れ落ちる前に、膝に押し付けた。


ガサガサ


「グルルル…」
「ひっ…!?」


茂みの音がして顔を上げてみると、凶暴そうな熊が名前を見下ろしていた。
その距離は50メートルもない。必死に走ってきたせいで存在に気付けなかったのだ。
熊のギラギラした目は名前をしっかりと捉え、一歩ずつ名前に近づいてくる。
亜未は今まで全速力で走ってきたのと、吃驚して腰が抜けたのとでその場を動くことができない。


ズガンッ


「たかが熊一匹になんてザマだ。」
「………」


熊が腕を振り上げ、名前が目を瞑った時。
発砲音が響き渡り、先ほどのスーツの男が立っていた。男の持つ銃からは煙があがっている。
銃弾は熊の足元に穴を空け、怯えた熊は四肢を使って森の奥へ逃げていった。


「足も遅ェし、体力もねェ。度胸もねェようだし……こりゃ先が思いやられるな。」
「ほ、ほっといてよ!あなたには関係ないでしょ!?」
「関係ある。おれはお前の教育係だからな。」
「だからっ……」
「お前に仲間を守れるだけの力をつけてやる。」
「っ…!」


“仲間”―――それは名前にとって決して手に入れることのできない宝石のような存在だった。






■■
リボーンは赤ちゃんじゃなくて現時点で27歳の設定です。
主人公は17歳。南の海から始まります。






next≫≫
≪≪prev