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03

 
「悪い!これから娘のピアノの発表会行くから帰りは電車で帰ってくれ!」


というわけで赤葦と2人で帰ることになりましたどうしよう誰か助けて。
ここから私の家の最寄り駅まで地下鉄で4駅。時間にして約20分。20分間赤葦と2人きりとかどうなってしまうんだろう。


「人、すごいですね。」
「うん……。」


今日は3連休の初日ということもあって、都内の公共交通機関はどこも人でごった返していた。走り回る子供に歩きスマホのお姉さん、腕を組んでラブラブなカップルに早足のサラリーマン。これらの波に押されて乗り込んだ電車内は朝の通勤ラッシュ並にキツキツだった。


「先輩、こっち。」
「う、うん。」


次々と乗り込んでくる人の波で遮られそうになった私を赤葦が強めに引っ張ってくれた。逸れなくて済んだけど赤葦の胸板に寄りそうような形になってしまって、私はこの時点で平常心を諦めた。この状態で赤葦と会話とか無理。ほんと無理。赤葦の背が高くてよかった。これで顔まで近かったら私多分瀕死になる。


「……」
「……」


結局電車内ではお互いに一言も喋らず最寄の駅まで到着した。
ドキドキしてすごく長く感じた20分だったけど終わってしまえば呆気ない。言葉を交わしてないからか、もう少し一緒にいたかったと感じてしまう私は欲張りだ。赤葦の家はどっちなんだろう。せめて出口が同じ方向だといいな。


「あの。」
「?」
「寄り道、していきませんか?」



+++



私は夢でも見ているのだろうか。
赤葦の思いがけない提案に私はブンブンと首を縦に振り、「先輩が好きそうなお店があるんです」と案内されたのは落ち着いた雰囲気のカフェ。その奥のテーブル席で今、私は赤葦と向かい合ってカフェラテを飲んでいる。


「よくこんな素敵なお店知ってたね。」
「いとこに教えてもらったんです。」
「へー。赤葦兄弟いる?」
「いえ、一人っ子です。」


よかった、ここで「彼女とよく行くんです」とか返されたら立ち直れなかった。


「私も一人っ子だから、小さい頃は木兎とばっか遊んでたなあ。」
「……木兎さんとはいつからの付き合いなんですか?」
「親同士が仲良くて近所だから、ほんと生まれた時からって感じかな。私もね、小さい頃は木兎と一緒にバレーやってたんだよ。下手くそだったんだけどね。」
「そうですか。」


こういう時、なんだかんだ木兎に感謝する。赤葦との共通の話題っていったらやっぱりバレーくらいだから。


「あんなエースだけど今のチームすごく楽しそうだし今までで一番気合い入ってるから、よろしくね。」
「あの……確認なんですけど。」
「ん?」
「木兎さんと付き合ってるわけじゃないんですよね?」
「私と木兎が?ありえないよ。」


黒尾くんといい、なぜこうも木兎と私をくっつけたがるんだろう。確かに高校3年にもなって仲良すぎるのかな?いや、仲良いっていうか私が面倒みてるだけっていうか。
赤葦に言われるとすごくショックだ。黒尾くんが言ってたように、私が付き合いたいのは赤葦なのに。


「黒尾さんとも付き合ってるわけじゃないですよね?」
「何で黒尾くん?もっとありえないよ。」


この流れで赤葦の彼女の有無を確認できるのでは?気付いた私はハッとして、荒くなりそうな呼吸をバレないように整えた。


「赤葦は……その、彼女とかいるの?」
「……いるように見えますか?」
「え!」


いてもおかしくないくらいにかっこいいと思ってます……なんて本人に言えるわけがない。まさか質問で返ってくると思わなくて、なかなかいい返事が思いつかなかった。


「いませんよ。」
「そ、そっか!部活忙しいもんね。」
「まあ……そうですね。」


その後、赤葦の彼女がいないという事実が嬉しすぎて何を話したかはあまり覚えてないけど、どうせ木兎のアホな話とかどうでもいいことだったんだと思う。
そんな話と可愛いケーキで2時間を過ごし、さらりと奢ろうとしてくれた赤葦になんとか食い下がって千円札を一枚出して、私達はカフェをあとにした。ケーキも美味しかったし雰囲気も良かったしまた来たいな。……できることなら赤葦と一緒に。


「送ります。」


奢ろうとしてくれただけでなく家まで送ってくれるなんて本当赤葦って男前。全国のアホな男子高校生に見習って欲しい。
せっかくのオフだから早く帰ってゆっくり休んでほしいとは思いつつも、もう少し赤葦と一緒にいられるという誘惑には勝てなかった。こんなにたくさん赤葦とお喋りができるなんて今日は良い日だ。見てないけどきっと星座占いは一位だったに違いない。


「それでね、その時木兎ってば……」
「木兎さんの話はもういいです。」
「あ、ごめんつまらなかった!?」
「別の話をしましょう。」


中二で海に行った時に木兎が波に攫われたけどタコをくっつけて元気に戻ってきたという話をしようとしたところで止められた。木兎の話はお気に召さなかったようだ。
でも赤葦との共通の話題っていったら部活のことくらいだし、私はそれほどコミュ力が高い方ではないから引き出しなんてそう多くない。


「先輩、誕生日いつですか?」
「7月29日だよ。」
「もうすぐですね。」
「うん。あ、赤葦は?」
「12月5日です。」
「そっか!」
「好きな食べ物は何ですか?」
「うーん……モンブランかなあ。」
「今日も食べてましたね。」
「うん、すごく美味しかった!赤葦は何が好きなの?」
「菜の花のからしあえです。」
「渋い!」
「変ですか?」
「ううん、いいと思う!」


私の心配はよそに、赤葦のおかげで話題には困らなかった。しかも赤葦の誕生日や好きなものを知ることができた。私今日こんな幸せでいいのかな。死ぬのかな。
こうやって2人で歩いてるとなんだか恋人みたいだなあと一人で考えてニヤニヤしてしまう。周りの人からも恋人に見えてたらいいな、なんて。
いやいや調子に乗るな。恋人にしては離れすぎてる距離を見て、はしゃぎすぎた自分に釘を刺した。




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