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stamping!


―01―


 
(理石視点)


「理石くん部活!部活行こ!」
「わかったから引っ張るなて。」

帰りのHRが終わってすぐ、まだ鞄に教科書を詰めとる俺を急かすのは同じクラスでバレー部マネージャーの名字。

「早くせんと先輩達来ちゃう!」
「はいはい。」
「先輩が来る前に準備しとくのが下っ端の心得やで!」
「下っ端やなくて後輩て言えや。」

名字は部活が大好きや。そりゃ俺も強豪校の稲荷崎でバレーできることは誇りに思うし練習は確かにキツいけど楽しいとも思う。
名字もマネージャーやってるからにはバレー好きなんやろけど、毎日部活に精を出すのはもうひとつ他の理由がある。

「あっ、治先輩来た!」
「……」

体育館でモップをかけてる最中、まだ姿が見えとらんのに遠くに聞こえた話し声だけで名字はその人物を当ててみせた。

「こんにちは!」
「おー。」
「えっと、ここの床!めっちゃ磨きました!」
「へー、偉い偉い。」
「えへへ!」
「……」
「名字は今日も治大好きやなあ。」
「はい!」

名字は治さんが好きや。褒められることも好きや。すなわち、治さんに褒められることが大好きや。
毎日こうやって大してすごくもないことを報告して治さんに頭を差し出す。治さんも優しいからそれに付き合うて頭を撫でてやると、名字は嬉しそうに笑う。

「名字偉いなー!よーしよしよしよし……」
「ぎゃあ!な、なんてことするんですか!せっかく治先輩が撫でてくれたのに!」
「何やねん、俺やと不服か。」

治さんの双子、侑さんではあかんらしい。
ちなみに名字は声だけで治さんと侑さんを聞き分けられる。特技やと自慢げに話していた。

「治先輩もっかい撫でてください。」
「ん。」
「んふ、んふふふ!」
「その笑い方は女子としてどうなん……。」

消毒するかのように侑さんに触られたところを治さんに撫でてもらうと、名字はまた至福の笑みをこぼした。失礼な奴や。滲み出る幸せを抑えられへんようで笑い方がキモくなってる。
そんな名字に対して治さんは通常運転や。侑さんも面白がってからかったりするけどもう飽きて今日のボールの感触を確かめとる。

「集合ー。」

そこに北さんの号令が聞こえて部活が始まる。
……うん、いつもの部活や。



―02―


 
(角名視点)


「何でそんな治のこと好きなの?」

土曜日の部活の昼休み。
今日も治に撫でられてほくほく顔でマネージャーの仕事に取り組んでいた名字に聞いてみた。
1年マネージャーの名字は治のことが大好きだ。名字が治に頭を撫でてと擦り寄る姿はもう見慣れたものになった。けど、最初からこんな感じではなかったはずだ。

「治先輩は、頑張ったらめっちゃ褒めてくれるんです!」
「……はあ。」

名字は特にもったいぶらす様子もなく食い気味に答えてくれた。
いや……見る限り「めっちゃ褒めてる」感じはしない。いつものローテンションで流れ作業みたいに撫でてるようにしか見えないんだけど。

「あれは侑先輩の無限に続く自主練に付き合わされた帰り道……」

やば、回想入った。聞いといて何だけど、別にそこまで興味はないんだよな。話長くなるかな。

「治先輩は『頑張ったなあ』て、コンビニで買った肉まん半分くれたんです!」
「……」

長くなるかと思いきや、名字の回想はあっという間に終わった。

「……それだけ?」
「え、はい。」

てか、肉まんもらったくらいであんな懐いてんの?だとしたらちょろすぎない?

「……はい。」
「? くれるんですか?」
「名字はいつもマネージャー頑張ってるからね。」
「! ありがとうございます!ふふふ!」

名字ちょろすぎる疑惑が浮上したため、俺は食べていたちぎりパンをちぎって名字に与えてみた。すると名字はそれを受け取って嬉しそうに笑った。
……これ、褒められれば誰でもいいんじゃない?

「何しとん?」
「治先輩!角名先輩にパン貰いました!」
「……ふーん。」

そんなやり取りをしていたら治が入ってきた。珍しい。
名字が自分以外に懐いたらやっぱ面白くないのかな。治がヤキモチ妬いたらそれはそれで面白い。

「あっ、治先輩チョコ食べます?」
「うん。ならアメちゃんと交換な。」
「! ふふふっありがとうございます!!」

治が名字からチョコを貰った代わりに名字にアメを与えた。いやそれ熱中症対策でコーチから貰った塩アメじゃん。
それでも名字は嬉しそうに受け取ってすぐに口に含んだ。ちょっと、先にアメ食べたら俺があげたパン食えないじゃん。別にいいけどさ。

「んふふ!おいしい!」

はいはい、俺は治には到底敵いませんよ。



―03―


 
「治先輩、ボール!ボール出しましょか!?」
「何やねんそのノリ。」

いつもの部活後の自主練の時間。名字が食い気味にボールを持って来よった。
1年マネージャーの名字は自分で言うのも何やけど俺に懐いとる。褒めてもらうのが好きらしくて、頭を撫でてやるとそれはもう幸せそうに笑う。

「この前角名先輩にヘタクソ言われて特訓したんです!上手なったんで見てください!」

いやボール出しヘタクソって、なかなか言われへんやろ。まあ角名は意味ない嘘つく奴やないし、ほんまに下手やったんやろな。練習の成果見てほしいんなら角名に見せればええのに。

「角名には見せんでええの?」
「角名先輩は……あの、辛口やないですか。治先輩なら褒めてくれるかなーって!」
「……」

ああ、結局俺に褒めてほしいだけか。名字のこういう下心を隠さないところはある意味尊敬する。

「さあ私のボールを打ってください!そして褒めてください!」
「はあ……そんならお願いしよかな。」
「任せてください!」

もうただ褒めてもらいたいだけやん。
若干呆れつつも、こんな感じに懐かれるとやっぱり無下にはできんもんや。

「よいしょっ!」
「……」
「どうですか!?」

どやったと目を輝かせて見つめてくる名字は飼い主に褒めて褒めてと懇願する犬のようや。
ボール出しについては特別打ちにくくもない普通の球やった。ちょっと出し方がへっぴり腰でおもろかったけどそれは言わんでおこう。
……とりあえずお望み通り褒めたろか。

「わわっ!?」
「よーしよしよし。」
「な、なんかいつもと違う!」
「むっちゃ褒めてやってん。」

ムツゴロウさんが動物にするように、両手を使って名字の頭を思いっきりわしゃわしゃした。
前に侑がこんな撫で方して「髪の毛ぐしゃぐしゃになる!」と怒られてた気がする。

「名字はええ子やなー。よしよし。」
「うっ……わ、悪い気はしない……!」

悪い気せんのかい。ほんまお前は俺のこと好きやなあ。かわええ後輩や。



―04―


 
7月に入ってセミも鳴き始め、いよいよ夏本番。インターハイの時期やなあ。今年も稲荷崎は順調に勝ち進んでいる。

「治先輩こんにちは!」
「おー。」
「あ、角名先輩こんにちは。」
「そのついで感やめてくれる。」

角名と購買にアイス買いに行ったら、同じくアイスを買いに来たらしい名字と遭遇した。部活以外で名字に会うのは久しぶりや。

「治先輩もアイスですか?」
「おん。何買うた?」
「モウです!みかん味です!」
「ふーん。俺ソウにしよ。」
「私もソウと悩みましたー!」

何でもない会話をした後、名字は友達と一緒にはしゃいで教室に向かっていった。

「……」

何やろ、なんか今日の名字はいつもと違う感じがした。ポニーテールやからか?いや、部活ん時もポニーテールにする時はある。制服姿が見慣れんからやろか。そういえば名字の夏服を見るのは初めてや。

「名字いつもと雰囲気違ない?」
「……名字ってさ、あんな胸大きかったっけ?」
「……」

……それや。


+++


「治先輩こんにちは!聞いてください今日数学の小テスト満点でした!」
「……」

そして部活の時間。ジャージとTシャツに着替えた名字がいつものように俺に寄ってきた。思わず視線が胸にいってまう。あれ、そんな大きない。制服着てる時はもっと大きく見えたのに。

「……治先輩?」
「……おん。」
「ふふふふ!」

胸について考えこむ俺を名字が不思議そうに見上げたから誤魔化すように頭を撫でた。俺が胸をジロジロ見とったとは露知らず、名字は今日も幸せそうにはにかんだ。
その無垢な笑顔に多少の罪悪感を感じた。昼間のは見間違いやったんやろか。

「名前ー!」
「ひぎゃっ!」

俺が名字から離れた後で卯月の色気のない悲鳴が聞こえた。振り返ってみると友人と思われる女子に羽交い絞めされとった。

「もー……会う度やめてや、あっちゃん!」
「一日一回は名前のおっぱい触ろ思てて。」
「何やのそれ〜。」

よく見たら後ろから胸を鷲掴みにされていた。

「Eカップの恩恵受けたいやんか。」
「大きくてもええことないよー。」
「嫌味星人め!けしからん揉んでやる!」
「やーめーてーー!」

なんか、こうやって女子同士で乳繰り合っとるのってええなあ。そんなおやじ臭いことを思ってしまった。
いやそれより今Eカップ言った?え、名字Eカップなん。

「スポブラあんましすぎると垂れるで?」
「でも運動する時、普通のブラやと痛いんよ。」
「巨乳にしかわからへん苦労やなあ。」

……なるほど、部活の時はスポブラやったからそこまで大きないんか。
そうか……Eカップか。



―05―


 
「お、治先輩……恥ずかしい……」
「手ェどけや。」
「う……や、んっ……」
「乳首たっとるけど。気持ちええの?」
「……き、気持ちええ。」


+++


「……はあ。」

名字のおっぱいに噛みつこうとしたところで目が覚めてとてつもない罪悪感に襲われた。胸でかいって聞いて早速こんな夢見るとか、どんだけ単純やねん。猿か。
まさか名字に俺の息子が反応する日が来るとは。いやしゃあないやろ、Eカップやぞ。Eカップが具体的にどんくらいかはわからんけど。肉まんくらいか。

「おい治起こせや!!」
「いい加減一人で起きれるようになれや。」

そんな夢のせいでいつもより早く目が覚めてまった俺は侑を置いて先に朝練に来ていた。
寝ぐせがついたままの侑が騒がしく体育館に入ってきてぎゃーぎゃー言うが、文句を言われる筋合いはない。

「治せんぱーい!」

そんな侑の後ろから名字が顔をひょっこり出した。珍しいな、朝練来るなんて。

「今日日直やから早く来たんです!治先輩いるかな思て覗きました!」
「……おん。」

名字の言動はいつもと変わっとらんのに、何故かドキドキしてしまった。多分、今日えろい夢見たせいや。どうしても視線が胸にいってまう。今日はスポブラしてへんみたいで、ワイシャツの胸の辺りがふっくらしとる。

「んん?なんか今日名字雰囲気違ない?」
「え?そうですか?」

やばい、侑が名字の変化に気づき始めた。顎に手を当てて名字の顔をジロジロと見た。

「……」
「え!え!?なぜ!?」
「……早起き頑張ったなー。」
「アッハイ!えへへ!」

俺は侑の視線が胸に行く前に2人の間に入り、名字の頭をわしゃわしゃと撫でた。嬉しそうな笑顔で見上げられてまた心臓がドキっとする。嘘やん、昨日まで名字はただのかわええ後輩で、こう……ペット感覚やったはずなのに。

「では!朝練頑張ってください!また部活で!」
「おん。」

撫でられるのに満足した名字はご満悦の表情で体育館を後にした。軽くスキップしとる。ほんま単純な奴やなあ。

「珍し。」
「……何がや。」
「自分から名字褒めに行ったやん。」
「……たまにはな。」
「ふーん?」

言われてみれば名字に要求される前に頭を撫でたのは最初の1回ぶりやったかもしれん。デリカシーないくせに何でそんなこと気づくんや。

「なあ、今日名字いつもと雰囲気違なかったか?」
「……さあ。制服やからやろ。」

まあ、こっちに気づいとらんならええわ。こいつが名字のEカップに気づいたら絶対えろい目で見るに決まっとる。そんなん腹立つから無理。



―06―


 
「なあ、名字のこと好きなん?」
「……何でや。」
「最近の治を見てて思た。」
「……」

いきなり侑に核心をつかれた。何俺の些細な変化見抜いとんねん、気持ち悪いわ。
確かに侑の言う通り、俺の名字に対する思いは変化した。けどこれが恋愛感情なんかはまだ自分でも結論が出えへん。
名字とキスしたりセックスしたりできるかと聞かれれば……できる。でもこれって名字がEカップやって知ってからやんか。そんなんただの最低クソ野郎やんか。

「まあなー。あんだけ好き好きオーラ出されたら悪い気はせえへんもんな。」
「……おん。」

否定をせえへん俺を見て侑は肯定ととったらしい。まあ……とりあえずはそれでええわ。好きなら好きで、今にはっきり自覚するやろ。

「え!田中に告られたんか!?」
「う、うん。」

ふと、水道のところで名字と理石が話してるのが聞こえてきた。内容が内容やったからかもしれん。
田中がどこのどいつかは知らんけど、名字に告白したらしい。名字てモテんのかな。まあ好きな奴は好きそう。

「返事はしたん?」
「ちょっと待ってって言ってある……どうしよ……。」

話を聞いてて勝手に断ったもんやと思ってたのに保留てどういうことやねん。何でその場で返事せんかったんや。

「いや、名字は治さんが好きなんやろ?」
「治先輩は……付き合うとは、違うやんか。」

……は?何やねんそれ。
付き合うと違かったら、どういう気持ちで毎日毎日擦り寄ってきとんの。

「……」
「あー……」

意味わからん。むかつく。名字が俺意外の男に対して感情を動かしてることが、どうしようもなくむかつく。
こんな形ではっきり自覚するなんて、最悪や。


+++

 
「!」

次の日の放課後、校舎裏に名字が一人で佇んでいた。壁に背中を預けて、手を触ったり髪を触ったり落ち着きがない。多分、告白の返事をするんやと思う。

「何しとん。」
「お、治先輩!えっと……」

わかった上で話しかけた。
いつもは自分から擦り寄ってくるくせに、俺がここにいるのは不都合なようで言い淀んだ。
何て返事するかは知らんけど、名字のその反応がまた俺を苛立たせる。俺にあんだけ懐いておきながら他の男とキスとかセックスとか出来んのか。
……嫌や。名字が俺以外の男に夢中になるのは。

「名字は俺とは付き合えへんのか。」
「えっ!」
「何で?」
「何でって……そもそも治先輩と私なんかが釣り合うわけ……」
「なら他の男と付き合うんか。」
「え……?」

名字との距離を縮めて見下ろす。名字は壁に寄りかかっているから逃げることはできない。
戸惑った名字が俺を見上げる。めちゃくちゃかわええ。胸なんて関係ない。もう俺は名字を見るだけで高揚するようになってまった。

「ふざけんなや。」
「え、え!?」
「今更もう抑えきかんねん。」
「!!」
「お前がその気にさせたんやから、責任とれや。」
「!?」

俺をこんなんにさせたんは名字や。名字以外考えられんようになってまった。ほんま、この罪は重いで。

「わ、私なんかが、治先輩と付き合うてええんですか……!」
「悪いことあるか。」
「……治先輩と、手ェ繋いだり……キ、キスしたり……してええですか……?」

不安げに見上げてくる名字にかつてない程腹の奥が騒いだ。何やこれ、あかん我慢出来へん。

「!?」
「ええよ。」

キスなんていくらでもしたる。許可なんていらん。
触れるだけのキスをすると名字は蕩けた表情で俺を見上げた。何やねんその顔。もっとしたなってまうやろが。

「こんなん、幸せすぎてふにゃふにゃになってまう……!」

もっかいしたろと思って顔を近づけたら名字は両手で顔を覆ってしまった。何やねんふにゃふにゃて。結局お前俺のこと好きなんやんか。

「好きやで。」
「ーーッ!!」

顔を覆う手をどかしてまっすぐ目を見て言ってやったら、名字はわかりやすく悶えた。ほんまかわええ。

「わっ、私も治先輩のこと大好きです!」

そして真っ赤な顔ではっきり告げられた言葉に今度は俺が悶えさせられた。




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閲覧ありがとうございました。



( 2018.12-2019.1 )

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