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08

 
「名字さん大丈夫?」
「うん……あ、大丈夫、吐き気はないから!」
「……タクシーで帰ろうか。」
「そうしてもらえると助かるなー。」


二軒目でカクテル2杯飲んだ名字さんはだいぶアルコールが回ってきたようで、歩くのが少ししんどそうだ。会社の飲み会ではちゃんとセーブしてるからこんな風に酔っ払った姿は初めて見る。タクシーに乗り込むと名字さんは「ふう」と息をついた。
少なからず期待していた展開になったわけだけど……実際思い通りになると罪悪感が襲ってきた。
大体名字さんも、何で2軒目付き合ってくれるんだよ。「あと2杯飲んだらやばいかも」って言った後にお酒を勧められて、何で素直に飲むんだよ。何か企んでるとか思わないわけ。


「木兎さん大丈夫かな。」
「大丈夫だよ。黒尾さんもいるし。」


黒尾さんとも木兎さんとも俺の知らないところで知り合っていたものだから焦りを感じた。黒尾さんはうちと取引のある会社に勤めていて、主任の営業に同行した名字さんを気に入った様子だった。俺の同期だと知ると頻繁に食事のセッティングを要求してきた。その誘いは名字さんには通さず適当な理由をつけて断ってたことは先日黒尾さんにバレて散々小言を言われた。
木兎さんとはコンビニで偶然会ったらしい。「運命的」だと言う木兎さんの言葉は真っ向から否定しておいた。


「木兎さんも黒尾さんもいい人だったなー。」
「……うん。」


今日の飲み会、名字さんは終始楽しそうだった。木兎さんのくだらない話にもいちいち笑って、黒尾さんとは食事の好みが合うようだった。
もちろん木兎さんも黒尾さんも尊敬してる先輩だ。魅力的な人で、俺にはないものをたくさん持ってると思う。
だからこそ名字さんと会わせるのを躊躇った。名字さんがどちらかを好きになってしまったらと思うと自分の酒は進まなかった。


「赤葦くんの学生時代の話も聞けたし、楽しかったー。」
「……それ楽しいの?」
「楽しいよ。赤葦くんプライベート謎だもん。」


そんなの、名字さんが望むんだったらいくらでも見せるのに。
名字さんはどちらかというと鈍い方だと思う。俺が恋愛対象から外されてるからかもしれないけど。
会社の人の目もあるからそこまで露骨なアピールはしていないにしても、昼休みや仕事終わりとか頻繁に声をかけていたつもりだ。それで多少意識してくれればと思っていたのに、俺の思惑は全くと言っていい程名字さんには伝わっていなかった。


「……名字さん?」
「……」


俺の肩に寄りかかって寝息を立て始めた名字さんを確認して、運転手に行先の変更を告げた。



+++



「名字さん、着いたよ。歩ける?」
「ん……」
「腕、掴まっていいから。」
「うん。」


到着したのは俺の家の目の前。タクシーから降りて歩き始めても名字さんは特に疑問を抱くことなく俺のエスコートに従った。
ここがどこなのかはまだ気付いていない。俺の家だって気づいたら、流石に慌てるかな。俺の下心に気付いて軽蔑されるだろうか。


「……もしかして、赤葦くんの家?」
「……そうだよ。」
「なんか……ごめん……ちょっと休んだら、帰るから……」
「うん、ベッド使って。」
「んーん、ここでいい。」
「……」


こんなの軽蔑された方がマシかもしれない。
俺の家だって気付いた上でこの態度は流石にショックだ。俺は名字さんの恋愛対象ではないという事実がグサグサと突き刺さる。
名字さんはベッドには上がらず、背中だけ預けてまた目を瞑ってしまった。


「俺、シャワー浴びてくるよ。」
「……」


必要のない言葉をわざわざ名字さんの耳元で囁いた。名字さんの反応がないのを確認してから、キスをした。欲情と罪悪感が渦巻く。抱きたい。でも、名字さんを傷つけたくないし嫌われたくもない。
この後どうするかは、シャワーで頭を冷やしてから考えよう。





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