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12

 
「これ柚子胡椒入っとる?」
「うん、よくわかったね。」


あれから私と宮くんの関係に明確な変化はない。今までと同じように週に2,3回私の家で晩御飯を食べる……ただそれだけのことを繰り返している。
なのに前みたいに純粋に宮くんとのご飯を楽しめなくなってしまったのは、きっと私の気持ちが変わったから。
私は宮くんにお隣さん以上の関係を求めてしまっている。恋人として私の手料理を食べてほしいと思ってしまっている。宮くんとの時間が心地良くて手放したくないズルい私は自分の気持ちを伝えることもけじめをつけて突き放すことも出来ないでいた。


「……何かあった?」
「え……ないよ。何で?」
「元気なさそうに見えた。何もないならええけど。」


宮くんの前で純粋な気持ちで笑えなくなった私の変化に気付いてくれることさえも嬉しい。もしかしたら私の気持ちはもうバレてしまってるのかもしれないと思ったけど、宮くんの目を見ても真意はわからない。


「……なあ。」
「な、何?」
「付き合おか、俺達。」
「……!?」


気持ちがバレて拒絶されるんじゃないかと怯える私に伝えられたのは真逆の言葉だった。
あまりにも宮くんが平然としてるから私の幻聴という可能性もあると思って不用意に返事が出来なかった。


「……嫌?俺と付き合うの。」
「え、い、嫌じゃ、ないけど……」


私が黙っていると宮くんはお箸を置いてじっと見つめてきた。どうやら聞き間違いではないらしい。


「宮くんは……その、私のこと好きってこと……?」
「うん。」
「めしじゃなくて……?」
「ん?」


宮くんと付き合えるんだったらそれはもちろん嬉しい。
でも一つ懸念がある。宮くんは私自身じゃなくて、私のご飯を気に入ってくれてるだけなんじゃないだろうか。
以前宮くんの双子の兄弟が冷めたご飯でも何でも美味しいって言うって言ってた。それってつまり私の料理じゃなくてもいいってことなんじゃないのかな。


「私は、宮くんのことが好きだよ。私が作った料理を何でも幸せそうに食べてくれる宮くんが好き。」


たまたま隣に住んでたのが私で、たまたまきっかけがあったからこうして一緒にご飯を食べてるってだけだ。ご飯を作ってくれれば、私である必要もないんじゃないかと思ってしまう。


「だから……だからこそっていうか……、宮くんも私のことが好きじゃなきゃやだ。」
「!」


でも、私は宮くんじゃなきゃ嫌だ。
私の作った料理を美味しいと食べてくれる宮くんが好き。宮くん以外のためにこんなに頑張って料理を作ろうとは思わない。最近は宮くんの好きなものばかり買ってるし、スポーツをやってる宮くんのために栄養のこととかも勉強したし、宮くんが好きな味付けになってきている事には気付いている。


「あー……あんまかわええこと言わんといてや。」
「え……」
「……今めしか名字さんどっちか喰ってええって言われたら名字さん選ぶわ。」
「!?」


なんか今結構すごいことを言われた気がする。宮くんはあまりテンションの起伏がないから冗談なのか本気なのか判断が難しい。


「もちろん名字さんが作るめしもめっちゃ好きやけど、こうやって名字さんと一緒におれるならカップラーメンでもええんよ。」
「!」
「好き。信じられへん?」


でも、こういう場面で冗談を言ってはぐらかすような人じゃないことはわかってる。
「好き」というストレートな言葉を聞いてじんわりと実感が湧いてきた。


「……うん。ありがとう。」
「よかったー……」


私が大きく頷くと宮くんはにっこりと笑った。ご飯を食べてる時のような幸せそうな笑顔。それを私自身が引き出せたことがすごく嬉しい。


「月に1回はカレー食いたい。」
「うん。」
「玉子焼きはだし巻きがええ。」
「うん。」


何でも美味しいと食べてくれる宮くんにこうやってメニューをリクエストされることも嬉しい。
……私も、少しワガママ言っていいかな。


「あ、あのさ……」
「ん?」
「今度、食器……買いに行こ。」
「……うん。」




■■
以上で完結です。
食欲と性欲の狭間で葛藤する宮治を書きたいと思ったのがきっかけです。
閲覧、応援コメントありがとうございました!




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