03
「治先輩、ボール!ボール出しましょか!?」
「何やねんそのノリ。」
いつもの部活後の自主練の時間。名字が食い気味にボールを持って来よった。
1年マネージャーの名字は自分で言うのも何やけど俺に懐いとる。褒めてもらうのが好きらしくて、頭を撫でてやるとそれはもう幸せそうに笑う。
「この前角名先輩にヘタクソ言われて特訓したんです!上手なったんで見てください!」
いやボール出しヘタクソって、なかなか言われへんやろ。まあ角名は意味ない嘘つく奴やないし、ほんまに下手やったんやろな。練習の成果見てほしいんなら角名に見せればええのに。
「角名には見せんでええの?」
「角名先輩は……あの、辛口やないですか。治先輩なら褒めてくれるかなーって!」
「……」
ああ、結局俺に褒めてほしいだけか。名字のこういう下心を隠さないところはある意味尊敬する。
「さあ私のボールを打ってください!そして褒めてください!」
「はあ……そんならお願いしよかな。」
「任せてください!」
もうただ褒めてもらいたいだけやん。
若干呆れつつも、こんな感じに懐かれるとやっぱり無下にはできんもんや。
「よいしょっ!」
「……」
「どうですか!?」
どやったと目を輝かせて見つめてくる名字は飼い主に褒めて褒めてと懇願する犬のようや。
ボール出しについては特別打ちにくくもない普通の球やった。ちょっと出し方がへっぴり腰でおもろかったけどそれは言わんでおこう。
……とりあえずお望み通り褒めたろか。
「わわっ!?」
「よーしよしよし。」
「な、なんかいつもと違う!」
「むっちゃ褒めてやってん。」
ムツゴロウさんが動物にするように、両手を使って名字の頭を思いっきりわしゃわしゃした。
前に侑がこんな撫で方して「髪の毛ぐしゃぐしゃになる!」と怒られてた気がする。
「名字はええ子やなー。よしよし。」
「うっ……わ、悪い気はしない……!」
悪い気せんのかい。ほんまお前は俺のこと好きやなあ。かわええ後輩や。
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