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08


 
「……」

北さんが東京に転勤になるということで歓迎会をしようということになって、なんだかんだ集まったのが北さんと俺とみょうじさんと侑だった。
このメンバーは……いろいろとアレだ、うん。みょうじさんのことが好きな侑。北さんのことが好きなみょうじさん。みょうじさんが初恋の人だと言った北さん。そして3人各々の事情を知る俺。俺だけがめちゃくちゃ面白い状況である。

「みょうじさんナス嫌いですよね?俺食います!」
「え? ありがとう」
「あ! 唐揚げはレモンかけない派ですよね!先取ってください!」
「あ、うん、ありがとう」

特別気まずい雰囲気はなく食事は進んでいったけど、とりあえず侑のアピールがすごい。「俺みょうじさんのこと理解してますよ」アピールがすごい。侑からしたら北さんがみょうじさんの近くに来て、いよいよ余裕がなくなってきたことだろう。

「侑っていつもあんな感じなん?」
「あ、はい、まあ」

こんなの見せられたらさすがの北さんも察するものがあるだろう。侑なりの宣戦布告なんだろうか。北さんは相変わらず読めない表情だけどじっとふたりのやりとりを観察していた。

「侑、あんま飲みすぎんようにな。前にそれで週刊誌撮られてるやろ」
「!」
「え……北さん知ってたんですか?」
「おん。アランから聞いた」

まさか北さんがあの記事のことを知っていたとは。あまり気にしている様子はない……その後のニュースのことは知らないのかな。

「あの記事は誤解で……!」
「うん、わかっとるよ」

北さんに誤解されたくないみょうじさんは慌てて弁明した。侑は少し不服そうな表情だ。

「信介くんバレー部のキャプテンだったの?すごいね」
「あ、俺多分写真残ってますよ」
「本当?見せてー」
「侑と治が北さんに怒られてるところ」
「何やねんその写真!もっと俺がかっこええの選べや!」
「そんな写真はない」

侑が変に割って入ることはあってもこの場は和やかに終わった。ドロドロな三角関係な展開にはならなそうで安心した。
とりあえず見ていて思ったのは侑に勝ち目はないなってことかな。みょうじさんは明らかに北さんのことが好きだ。侑がどれだけ足掻いてもそれは変わらないように思えた。どんな結果になっても、あとくされなく終わってくれればいい。みょうじさんと侑を引き合わせたからには最後までフォローするつもりだ。


***(夢主視点)

 
「ちょっと寄り道してかへん?」
「!?」

信介くんの歓迎会は21時くらいにお開きになって、方向が同じということで信介くんとふたりで帰ることになった。逆方向なのについてくると駄々をこねた侑くんは角名くんが引っ張っていってくれた。
信介くんの隣を歩いてるだけでドキドキするのに、そんなことを言われて私の心臓は跳ね上がった。一瞬ホテルにでも誘われるのかと思ってしまった破廉恥な思考が恥ずかしい。信介くんが立ち寄ったのは公園だった。

「酔っ払った?お水買ってこようか?」
「ううん。侑のせいで全然喋られへんかったから」
「!」

信介くんもそれなりにお酒を飲んでいたものの顔色は変わらない。もしかしたら顔に出ないだけでアルコールがまわってしんどいのかもしれないと思ったら、とんでもないことを平然と言ってのけた。それって、私とゆっくり話したいから寄り道したってことでいいんだろうか。

「時間大丈夫?」
「うん、平気」

信介くんとふたりでいる時に時間なんて気にしたくない。明日も休みだし門限があるわけでもないし。少しでも長く信介くんと一緒にいたい。

「まあ……なんていうか、改めて言うと照れるけど……会えて嬉しかった」
「わ、私も……嬉しい」

信介くんは「照れる」と言ってるけど、全然照れてるようには見えない。絶対私の方が照れてる。

「最後の日会えなくてごめんな。風邪引いて行けんかった」
「そうだったんだ。私もその後行けなくてごめんね。いろいろ準備があって」
「ううん。大変やったやろ」
「私は子供だったから……」
「……元気そうで安心した」
「……うん」

こうやってふたりで座って話してると、17年前にタイムスリップしたような感覚に陥った。25歳の信介くんはもちろん大人っぽくなったけど、喋り方とか雰囲気はあの時から変わっていない。優しくて、落ち着いていて、ちょっと不思議な男の子。

「私、あの時信介くんにちゃんと挨拶出来なかったのがすごく心残りで……こうやってまた会えて本当によかった」
「挨拶は手紙でしてくれたやん」
「!」

あえて私が触れていなかった手紙について、信介くんはあっさりと言及した。改めて「だいすき」の文字を読まれていたという事実を突きつけられて顔に熱が集まっていく。

「……照れとる?」
「そ、そんなこと……!」
「子供の時の話やし気にせんでええのに。俺もあん時なまえのこと好きやったで」
「!!」

とんでもないことをサラっと言われた。
私は信介くんみたいに大人ではないから昔のことだと割り切れない。今でも信介くんのことが好きだからこそ、笑い飛ばすことができなかった。

「俺もあん時直接好き言えなくてずっと心残りやった。これでちょっとはスッキリしたわ」
「それは、何より……」

あの時伝えてくれたとしても、きっと私たちの関係は変わらなかったんだろう。「好き」のその先のステップを踏むのは小学生には難しすぎる。逆に言われていたらこんなにも信介くんに焦がれることはなかったのかもしれない。

「もう後悔はしたないから、こっちに来た」
「え……」

そして次の言葉に更に思考を混乱させられた。何に対して後悔したくないのかと口には出せず視線で訴えると、信介くんはこれ以上言うつもりはないらしくにっこりと笑うだけだった。

「そや、連絡先教えて」
「あ、そうだね。私も……聞こうと思ってた」

私も、後悔はしたくない。


***(角名視点)

 
「今更こっち来るなんてズルいわあぁ……」

半ば強引に侑に飲みに誘われた。侑とふたりで飲むなんてめんどくさいことになることはわかってたけど、さすがに断れなかった。
好きになった人が先輩の初恋の人で多分両想いだなんて、飲まなきゃやってられないって気持ちはよくわかる。案の定いつもより酒のペースが早くて、ものの30分もしないうちに立派な酔っ払いが出来上がった。

「近くに来はったら勝ち目ないやん……」

今まで俺が見てきた侑は恋愛に苦労したことがないから、こういう姿を見るのは初めてだ。
侑とみょうじさんをそういうつもりで会わせた手前、多少は俺も責任を感じているけどこればっかりはタイミングだ。北さんが向こうにいるのならまだしも、こっちに来たんだったらいよいよ侑に望みはなくなってくるだろう。

「そうだね」
「少しくらいフォローせぇや」

失恋もいい経験になるよ、とはさすがに言えなかったけど、フられた時はとことん酒に付き合ってやろうと思った。



( 2019.8-12 )
( 2022.8 修正 )

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