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「#エロ」のBL小説を読む
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05


 
「お待たせしましたー!」

試合の後のミーティングが終わって、すぐ待ち合わせ場所に急いだ。
角名と共謀して、今日の試合に北さんとみょうじさんが隣の席になるように仕組んだ。十数年ぶりの初恋の人との会話がどんだけ盛り上がったか、結果を聞かんと今日は眠れんからな。

「あれ、角名は?」
「ちょっと仕事入っちゃって。どうする?」
「んー……店も予約してまったし軽く飲んできましょ!」
「うん、わかった」

待ち合わせ場所に到着するとみょうじさん一人しかおらんかった。共通の知り合いの角名抜きでもみょうじさんなら話しやすいし、ふたりでも気まずくないから問題はない。

「俺からのプレゼントどうでした?」
「……ありがとう」

ニヤけ顔で聞いたらみょうじさんは悔しそうな表情を見せつつも素直にお礼を言ってきた。フッフ、かわええ。


***


「家近いっすか?タクシー呼びます?」
「いいよいいよ」

思ってた以上にみょうじさんとの会話は盛り上がって、開始時間が遅かったってのもあるけど終電がなくなる程の時間になってしまった。
北さんの話題を酒の肴にみょうじさんはいい飲みっぷりを見せてくれた。前回よりも多分酔っ払ってると思う。気持ち悪くなるような酔い方とは違うみたいやけど、普段みたいにシャキッとしとらんみょうじさんを夜中に一人歩かせるのは危険や。

「送ってくれるの?石蹴りして帰ろー」
「石蹴りて小学生すか!」

石蹴りとか小学生みたいなこと言うてはるし。ヒール履いて石蹴りなんて危なっかしいからやめてや。

「みょうじさん転びそうやからやめてください」
「じゃあ靴交換しよ」
「いやいや絶対サイズ合わんから!」
「ふふ、関西のツッコミ気持ちいー!」
「あーもう……!」

酔っ払いには何を言うても無駄や。酔っ払ったみょうじさんにもしものことがあったら角名にも北さんにも顔向け出来へん。俺は少し強引にみょうじさんの手を取った。別に下心なんてない。

「おっきいね」
「……どうも」

ないけども……掌をふにふに触られて「大きい」なんて言われたらちょっとぐらい変な気分にもなる。今歩いているのは夜の繁華街……もちろんそういう場所もある。誘えばいけそうやなと一瞬思ってしまって、慌ててその考えを打ち消した。まったく、このギャップはけしからんわ。


***(夢主視点)

 
"今電話ええすか?"

昼休みに侑くんから連絡が入っていた。一応トークアプリのIDは角名くん経由で交換してたけどこうやってメッセージが来たのは初めてだ。いいよと返事を打つとすぐに既読がついてスマホが震えた。

「どうしたの?」
『すんません、実は一昨日一緒におるところ、週刊誌の記者に撮られてたみたいで……』
「え……」

電話口の侑くんは申し訳なさそうに何度も謝った。
一昨日、角名くんが来れなくなった結果侑くんとふたりで飲むことになった。私たちにそんなつもりはなくても、確かに第三者から見たらそう見えてしまったかもしれない。しかもあの日はけっこう酔っ払って気持ちよくなっちゃって、侑くんを振り回してしまった気がする。相手は世間で注目されてるバレーボール選手だっていうのに、軽率だった。

「ごめん、もっと考えるべきだったね」
『いや俺は全然!もしかしたらみょうじさんのとこにも雑誌の取材とか来てまうかも……』
「そっか……」
『ほんますんません……!』
「大丈夫だよ。侑くんのことちゃんと護るから、安心して」
『!』

こんなことで侑くんのバレー選手としての生活を邪魔してはいけない。取材に来てくれるんだったらきちんと事実を説明すればいいだけのことだ。


***(侑視点)


「まーたフライデーされたんか」
「……喧しいわ」

こうやって週刊誌に取り上げられることは初めてではない。でも今回は無実冤罪や。
北さんのことが好きなみょうじさんに申し訳ないことをしてしまった。すぐに謝罪の電話を入れると、「護るから」なんて男前なことを言われて不覚にもときめいてしまった。女子か。北さんに記事を見られないか心配するもんだと思ってたのに、俺のこと心配してくれるなんて思わへんやん。
翌週発行された週刊誌を読むと俺とみょうじさんが手を繋いでる写真と好き勝手書かれた記事が載せられていた。その隅にみょうじさんのコメントも添えられている。俺とは友人関係であることが丁寧な言葉で説明されとって、"私の軽率な行動でファンや関係者の方々にご迷惑をおかけして申し訳ないです。"という謝罪の文でしめくくられていた。
みょうじさんが謝る必要なんてないのに。「護る」という宣言通り、俺の立場を考えてくれての丁寧な対応と発言が嬉しかった。


***(角名視点)
 

「初フライデーおめでとうございます」
「……」

軽くからかってみたら恨めしそうな視線を向けられた。スポーツ選手や芸能人でもないみょうじさんが週刊誌に載るなんて精神的にくるものがあるだろう。もちろんみょうじさんの顔にはモザイクがかかってたけどわかる人にはわかってしまうかもしれない。例えばそう、北さんとか。

「まあ……弁明はしたしもう大丈夫なんじゃないですか?」
「うん。記者の人が来ることはもうないんだけど……」

取材に来た記者に対しても誠実に対応していたし、テレビでは取り上げられてなかったから雑誌の発売以降特に盛り上がってはいない。一部のSNSでは神対応と称賛する声もあったくらいだ。ほっとけばほとぼりは冷めるだろう。

「侑くん何か言ってなかった? 大丈夫かな……今大事な時期なんだよね?」

てっきり北さんに記事を見られていないかと心配してると思ってたのに、みょうじさんが心配してるのは意外にも侑のことだった。もしかして北さんのことまで頭がまわってないんだろうか。みょうじさんの中で区切りがついた相手のことを、俺がわざわざ言うこともないか。

「アイツは図太いんで大丈夫ですよ」

俺がそう言うとみょうじさんは安心したように笑った。


***


『みょうじさんほんまに怒っとらん?』
「怒ってないよ」

侑の方もみょうじさんのことを心配してるみたいで、退勤のタイミングで電話がかかってきた。

『大丈夫やろか……記者に付きまとわれたりしとらんか?』
「してないって言ってたよ。最初の対応が流石だったね」
『そんならええけど……』

今回の侑は珍しく反省しているようだった。いつもは相手の女性に逆ギレくらいするのに。珍しいな。

『お詫びした方がええよな?』
「まあ、菓子折りくらい持ってけば?」
『角名セッティングして』
「……いいけど。場所は侑が用意してよ」
『おん』

まったく世話の焼ける奴だ。



( 2019.8-12 )
( 2022.8 修正 )

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