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"ごめん、明日は予定あるんだ"

思い切ってデートに誘ってみたら断られてしまった。急だったし予定があるなら仕方ないと、少なからずショックを受けた自分を納得させた。
その後偶然コンビニで会ったなまえは元気がない様子で、17年前の別れる直前の表情と重なった。放っておいたらまた遠くへ行ってまうんやないかと不安に思った。聞いても結局なまえは何があったか教えてくれなかった。俺は相談できる程信頼されとらんのやろか。

「……家まで送ってもらったんか?」
「……はい」

なんとなく、なまえの様子がおかしいのには侑が関わってるような気がした。昨日家まで送ってもらって、何かがあったのかもしれない。

「北さん、俺……みょうじさんのこと好きです」
「!」

なまえを見えなくなるまで見送った後、侑が真剣な表情で言ってきた。
侑となまえは角名の紹介で知り合ったらしい。懐いてるとは思っていたけど、やっぱりそういうことやったんやな。予想していたことだったからそこまで驚きはしなかった。

「もう気持ちは伝えてあるんで……今日様子がおかしく見えたんなら俺のせいっす」
「……そうか」
「すんません。……でも、譲れません」
「謝る必要はないやろ」

人の感情をどうこうする権利は俺にはない。好きっていう気持ちは自分でもコントロールが出来ないってことは俺にもよくわかる。その結果俺は今ここにいるわけやしな。

「俺も……そうやな、流石に譲れんわ」
「はい、わかっとります」

俺に宣戦布告をしてきた侑は腹をくくった顔をしていた。今まで女性関係であまりいい噂は聞かなかったけど、きっと今回は大丈夫だろう。侑をここまで本気にさせる魅力がなまえにはあるってことや。

「そんじゃ、失礼します!」
「おう」

侑とライバル関係になる時が来るなんて思いもしなかった。バレーでは敵わんけど、流石にこれは譲れない。
もちろん離れていた17年間ずっとなまえを想っとったわけやない。別の恋もしてきた。でも、やっぱりなまえは俺にとって特別な女の子だった。こうやってまた会えたことは奇跡に近いと思う。またあの喪失感を味わうのは嫌や。伝えられずに後悔するのは嫌でこっちに来た。
正直なまえも俺のことを今でも気にしてくれとるとは思う。でも相手が侑となると、余裕こいてもいられんな。今度またデートに誘ってみよう。動物園、好きやろか。


***(角名視点)

 
「モテ期おめでとうございます」
「……」
「……すみません」

軽い感じで話しかけたら睨まれた。今の状況はみょうじさんにとってネタとして笑い飛ばせるようなものではないようだ。
初恋の人と再会してすぐに会える距離にやってきたと思ったら別の男から猛アピールを受けるとか、ドラマみたいな展開だ。申し訳ないけど傍観してる分にはめちゃくちゃ面白い。

「侑はもう吹っ切れた感じですね」
「……角名くんってどこまで聞いてるの?」
「そんな詳しくは聞いてませんけど」

女子じゃあるまいし、侑から事細かく相談を受けているわけではない。この前北さんを交えて4人で飲んだ時にみょうじさんにベッタリだった侑を思い出して言った言葉だったんだけど、この様子だとそれ以外にも何かあったんだろうか。

「……え、もしかして喰われました?」
「いや喰われてはない。喰われては」
「……どこまでっすか?」
「キスは、された」
「おおう」

マジか。
経緯を聞いてみると、この前俺が侑とふたりで飲んだ帰りに泥酔した侑を公園で見つけて、家まで送ったら部屋の中に連れ込まれてキスをされたらしい。
あの時の侑は今までになく酔っ払ってたからな……北さんのこともあってブレーキがきかなかったんだろう。むしろよくキスだけで返してくれたものだと思う。

「違う、私が軽率だったの……はあ……」
「……でも北さんなんですよね?」
「……うん」

確かに「好きだ」と言われてる相手の家にのこのこついてくなんて軽率な行動に見えてしまうかもしれない。みょうじさんは優しい人だから、きっと侑の体裁とか考えてくれたんだろうな。

「でも……やっぱり事あるごとに侑くんのことがよぎっちゃって……こんな気持ちで信介くんに好きなんて言えない」
「まあ……侑のことは気にしなくていいっすよ、本当」
「……」
「前から言ってますけど基本性格悪いんで。吹っ切れたからにはタチ悪いと思いますよ」

みょうじさんが罪悪感を感じる必要はない。みょうじさんの優しさにつけこんで自分の欲望を押し付けた侑が悪い。付き合ってない女性を合意なしに家に連れ込んでキスしたとか、字面だけ見たらヤバいからな。

「!」
「……」

みょうじさんのスマホに着信が入った。画面を表に置かれていたから「宮侑」の文字が俺にも見えてしまった。みょうじさんは少し迷った様子を見せてから、覚悟を決めたように通話ボタンを押した。

「もしもし……」
『こんにちは!次の土曜暇すか?』
「……侑くんごめん、もう侑くんとふたりでは会えない」

侑の声は聞こえてこないけど多分懲りもせずデートに誘ったんだろう。みょうじさんは嫌われるのを覚悟できっぱりと断った。アプローチを受ける気がないんだったらこのくらい言わないとダメだ。

『角名と一緒ならええすか?』
「えっ……」
『角名にも連絡入れてみます!』
「あっ、ちょっと……!」

電話が一方的に切られたようだ。多分侑が食い下がったんだろう。このくらいで諦める奴だったらプロのバレー選手にはなっていない。

「角名くん……」
「だから言ったでしょう? タチ悪いって」

どうしよう、と視線で助けを求められてもどうしようもない。俺に吹っ切れた侑を止める力なんて無い。
間も無くして俺のスマホに頭から着信が来た。なるほど、ふたりで会えないって言われたからじゃあ俺も一緒ならいいだろと押し切ったんだな。

「侑から電話きましたけど……どうします?」
「断って。お昼ご飯奢るから」
「はーい」

悪いね侑、邪魔するつもりはないけど協力も出来ないよ。どうせならみょうじさんが幸せな方がいいからね。一応犯罪にならない程度にしとけって釘は刺しておこう。



( 2019.8-12 )
( 2022.8 修正 )

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