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09


 
(モブ女子視点)

私にはクラスに推しがいる。"好きな人"ではなく"推し"である。付き合いたいとかそんなことは一切考えていないので勘違いはしないで頂きたい。
年が明けて新年最初の席替えでその推しの斜め後ろの席になれた。見放題だ。元旦に引いた大吉のおみくじは嘘じゃなかった……ありがとう神様。

「佐久早ー、みょうじさん呼んでる」
「!」

私の推し、佐久早聖臣くんはバレー部のエースで長身・イケメン・クールの三拍子が揃った女子の理想を具現化したような男の子だ。ただあまり友好的な性格ではなくて、彼に気軽に声をかけられる女子は私の知る限りいない。

「お久しぶりです」
「まだ一週間しか経ってないけど久しぶりな感じするね」
「はい」

だがしかし、佐久早くんを呼んだ「みょうじさん」は女の人だった。見覚えがある。多分バレー部のマネージャーさんだ。佐久早くんに向ける柔らかい表情を見て優しい人なんだろうなと思った。佐久早くんの方も心なしか表情が柔らかいような気がする。……いや、心なしかじゃない、明らかに教室での表情とは違う。

「どうしたんですか」
「ハンカチ、ありがとうございました」
「!」
「あ、ちゃんと新しいのだよ」
「別にいいのに」

あの佐久早くんが人にハンカチを貸した……だと……!?
佐久早くんといえば潔癖でお馴染みだ。他人と同じ物は使おうとしないし試合中は頑なにハイタッチをしようとしない。そんな佐久早くんがハンカチを貸したなんて、クラスメイトの私には信じられなかった。

「あの……」
「あ、みょうじさんちわ!」
「久しぶり〜」

佐久早くんが何かを言いかけた時、古森くんがふたりの間に入ってきた。古森くんは同じくバレー部でよく佐久早くんと一緒にいる。いとこだと聞いた時はものすごく悶えた。性格は佐久早くんとは真逆の気さくなタイプで、勘違いされやすい佐久早くんのフォローをよくしているイメージがある。

「受験どうですか?」
「ぼちぼちかなぁ」
「どこの大学受けるんですか?東京出ます?」
「ううん、都内の大学だよ」

その後、古森くん主導の会話が数ターン続いた後、次の授業の5分前にみょうじさんはそろそろ行かなきゃとふたりに手を振った。

「みょうじさん東京出ないんだ、よかったな」
「うん」

古森くんの言葉に素直に頷く佐久早くん。え、やっぱりそういうこと?そういうことだと理解していいの?いやまあ見てればわかるけど。佐久早くんってこういうの素直に認めるタイプだったんだ。推しの新たな一面を知ることができて嬉しい。

「何それ?」
「ハンカチ。貰った」
「何で?」
「……この前貸したから」
「へーえ。何で??」
「別に何でもいいだろ」

古森くんが佐久早くんの手にある可愛く包装された物を見つけて問い詰めてきたのを、佐久早くんは煩わしそうに躱した。
しかし数々の恋愛漫画を読んできた私にはわかる……男の子がハンカチを貸す理由なんて、女の子の涙を拭ってあげる時だと相場は決まっているのだ。好きな人に優しい佐久早くん……想像しただけで最高だった。

「見せて見せて!」
「うるせぇ嫌だ」

推しが恋をしている、その姿のなんと尊いことか。みょうじさんありがとうございます。話したこともない先輩に私は心から感謝した。



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