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08


 
ついに合宿が始まった。関西の強豪校との練習は普通に楽しみにしていた。今後各大会でライバルになるであろう相手との練習試合は貴重なもんや。今年の会場は京都。校門をくぐると早速他校の奴らが出迎えてくれた。

「去年のマネちゃんおる!」
「やっぱかわええなー!」

バレーではもちろん敵だけど、別の意味でもこいつらは敵や。早速ゆきさんに色目使いおって……!俺はそいつらの視線を遮るようにゆきさんの前に立った。俺の図体ならゆきさんを隠すなんて楽勝や。

「侑、前が見えへん」
「安心してください、俺がついてますから!」
「? もうちょっと離れてほしい」

相変わらずゆきさんのパーソナルスペースは広い。人見知りだからしょうがないとは思うけどそろそろ慣れてくれてもええのに。

「お前が躍起にならんでも大丈夫やで」
「?」
「ゆき!ゆきーーー!!」

アランくんに言われて何が大丈夫なんやと思ったら、ゆきさんを呼ぶ高い声が響いた。

「会いたかったわあーー!」

俺の後ろからひょっこり顔を出したゆきさんに勢いよく抱き着いたのは知らない女子だった。

「……私も、先輩に会いたかった」
「!」
「ぎゃんかわッ!!」

女子の肩の上から見えたゆきさんは嬉しそうにはにかんだ。え、何その表情初めて見るし確かに「ぎゃんかわ」やんか。
てかこの人誰なん。置いてけぼり感半端ない。茫然と見ていたら京都の3年マネージャーやとアランくんが教えてくれた。去年からこんな感じだったらしい。

「ってことで合宿中にゆきに手ェ出したら海に沈めるから!」
「「「うす!!」」」


***


アランくんの言う通りこの合宿、俺がゆきさんを護ろうと躍起にならなくても大丈夫なようや。何故なら京都の先輩マネージャーがボディーガードとなってくれてるから。ゆきさんはあの人のことを姉のように慕って懐いてるらしい。
うちでは女子一人だから、こうやって女同士和気あいあいと作業してるのを見ると微笑ましくてつい口元が緩んでまう。ゆきさんも明らかにいつもより表情が柔らかいし笑顔も多い。あの先輩のおかげで今日のゆきさんはいつにも増してかわええ。その姿に頬を染める連中は多いけど、先輩が一緒にいてくれるおかげで声をかけられることはない。ほんまありがとうございます。

「……入ってええ?」
「どうぞ!」

そして夜。ゆきさんをUNOに誘ったら嬉しそうに頷いてくれた。嬉しそうと言っても他の奴らには無表情に見えていたことだろう。最近ようやくゆきさんの微妙な表情の変化がわかるようになってきた。あれは「嬉しい」って顔やった。ほんまかわええ。

「「「!」」」

稲荷崎の男子部屋を訪れたゆきさんを見てぎょっとした。何故ならお風呂上がりだったから。パジャマは部活の時みたいなジャージとTシャツだけど、血色の良い頬とかしっとり濡れた髪の毛がめちゃくちゃエロい。そんなゆきさんの姿に銀はわかりやすく顔を赤くして視線を逸らし、角名は瞬きせずにガン見している。

「ゆきさん……髪乾かしてきてください……!」
「え? 自然乾燥でええかなって思たんやけど……」
「ダメです!髪はちゃんと乾かさんと体にも美容にもあかんです!」
「……今日の侑は北くんみたいや」
「おかんでええから!」

こんなんとてもじゃないけどUNOに集中できひん。せっかく来てくれたとこ申し訳ないけど、俺はゆきさんを一度追い返すことにした。北さんみたい、つまりおかんで結構。

「UNO楽しみで急いだんやろ」
「……うん」

北さんの言葉に恥ずかしそうに頷くゆきさん。あーもう何やのどんだけきゅんきゅんさせれば気が済むん。ゆきさんのいじらしい行動に胸の高鳴りが抑えられない。けどここは心を鬼にしなければ。嫁入り前の女子が大勢の男の前でそんな姿見せたらあかん。稲荷崎ならまだしも、他校になんて見られたらと思うと心配でたまらなかった。

「危ないんで俺が送迎します!」
「ええよ」
「あかん!おかんの言うことは聞くもんです!」
「……変なの」

かわええ娘を持つ親の気持ちてこんなんやろか。


***(夢主視点)
 

「ゆきんとこの双子やばいなぁ」
「やっぱうまいんですか?」
「うん、天才的や」

空になったドリンクボトルを回収しつつ小春先輩が言った。
宮兄弟が稲荷崎に来るってことは二人が入学する前から噂になっていた。それほど二人は有名な選手だったらしい。私にとってはみんなすごいけど、バレー経験者の小春先輩が言うんだから間違いない。

「今年は優勝イケるんやない?」
「……」

優勝……小春先輩に言われてもいまいちピンと来なかった。もちろん部として目指してるのは「全国制覇」。稲荷崎はバレーの強豪校で、ここ最近は全国ベスト8位内には収まっている。それも十分すごいことなのに、みんなは全然満足していない。私も満足してるわけじゃないけど、優勝したいというより……負けて、みんなが悲しむ顔を見たくないと思う。

「ゆきって勝敗に頓着ないよね」
「私は、みんなが怪我せずめいっぱいやれればそれで……」
「天使か!!」

試合に勝った時、みんなが汗だくになってくしゃって思いきり笑ってるのを見るのが好き。負けて涙を流してるのを見るのはつらい。我ながら単純な感情だと思う。

「けどなあ、男の子ってそうは思わんのよ」
「……」
「特にあの双子は、そこらへん妥協しなさそうやんなぁ」

なんとなく小春先輩が言ってることは理解できた。侑と治は部員の中でも特に、勝利とか上手くなることに対して貪欲だと思う。試合中の集中力が研ぎ澄まされた二人は怖いとさえ感じることがある。たまにやりすぎて監督や北くんに怒られてるのもよく見るけど。

「そういえばさ、ゆきは何でマネージャーになったの?」
「北くんが、誘ってくれたから……」
「え! 誰それ! 何番?」
「番号は貰てなくて……あそこ」
「え、レギュラーちゃうん?」

私がバレー部のマネージャーを始めたのは中学の時。その時は仲良い女友達がやるって言うから一緒に始めただけだった。高校では部活強制じゃないし入るつもりもなかったけど、北くんに「名字にマネージャーをやってほしい」と言われて、私のことを必要としてくれてるんだと思えて嬉しかった。

「ふんふん……好きなん!?」
「そういうんやなくて……。けど、北くんがユニフォーム貰て試合出てるとこ、見れたらええなって思ってます」
「ふーん……」

ユニフォームが貰えてなくても北くんのバレーへの姿勢は常にブレない。日々の練習に加えて掃除もボール磨きを欠かさない、そんな北くんのことを私は尊敬している。そしてその真摯な姿が、いつか報われてほしいと思う。

「……じゃあさ、ゆきはこのチームでどうなりたい?」
「え……?」

チームでどうなりたいか。また、難しい質問や。きっとみんなは口を揃えて「全国制覇」と言うと思う。けど、私は即答できなかった。チームとして同じ目標を口にできないなんてマネージャーとして失格やろか。

「うおーい、他校のマネちゃんいじめんなよー」
「アホ、私とゆきはラブラブやし!邪魔せんといて!」

悩んでいたら小春先輩のチームメイトの人が少し遠くから言葉をかけてきた。それにスパっと返す小春先輩。かっこええなあ。

「チームでどうこうは、まだよくわからへんけど……」
「うん?」
「小春先輩みたいに、もっとみんなと仲良うなりたいって、思います」
「もう何この可愛い子持ち帰りたい……!」

多分私が即答できなかったのは、チームとして馴染めている自信がないからや。つまり目標を語る以前の問題。今の小春先輩みたいなやりとりがみんなとできるようになったら……私もチームの一員として、胸張って「全国制覇」って言えるんやろか。

「ゆきはもっと笑顔ふりまいたらええと思うよ」
「けど……笑お思うとぎこちなくなってまう……」
「それでええんよ。努力してんやろなって伝わるやろ?」
「!」
「笑顔は最強のコミュニケーションツールやで!」

確かに、去年初めて小春先輩と会った時も、先輩がニコニコ話しかけてくれたから私も緊張せずに話せたんだった。小春先輩みたいな屈託のない笑顔は無理でも、少しずつ……頑張ってみようかな。



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