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- ナノ -

04


 
(角名視点)

ホームルームが早く終わってやることもないからとりあえず部活に向かうと、体育館にひとり紺野さんがいた。何してんだろ。見つからないように覗いていたら紺野さんはバレーボールを手にし始めた。そういえば紺野さんってバレーできるんだろうか。中学でプレーヤーだった人が高校ではマネージャーをやるってのはありえそうな話だけど。

「……」

紺野さんはボールをしばらく見つめた後、宙に投げてレシーブをした。そしてボールは思いっきり斜め遠くに飛んでいった。……うん、下手くそだ。腕振っちゃってるし、もっと言えばボールを真上にさえ上げられていなかった。
ボールはコロコロと体育館の入り口、俺の足元に転がってきた。拾い上げると、ボールを辿った紺野さんの視線が俺を見つけた。

「!?」

俺の存在に気付いた紺野さんは目を丸くして驚いた。へえ、ちゃんと表情変わるじゃん。
侑が無愛想だって文句言ってたけど、俺は別にそうは思わない。ただ単にコミュニケーションが得意じゃないだけだと思う。ていうか侑と比べたら大抵の人は無愛想ってことになる。

「……今の見てた?」
「はい。紺野さん、バレー苦手なんですね」
「……運動音痴なんよ」

変に気を遣うのも違う気がしたからさっきのプレーの感想を素直に伝えたら、紺野さんは少し恥ずかしそうに視線を泳がせた。確かにあの動きは運動苦手な人の動きだった。

「他の1年生には言わんといて」
「何でですか?」
「だって……かっこ悪いやんか」

運動が得意じゃない女の子なんて可愛くていいと思うし、紺野さんにかっこよさは誰も求めてないと思うけど。まあ本人が気にしてるのなら黙っておこう。先輩としての面子があるのかもしれない。

「練習相手しましょうか?」
「え……ええよ」
「けどいつかボロ出るんじゃないですか?」
「……」

レシーブなら何日か練習すれば形だけはマシになるかもしれないし、俺と紺野さんが一緒にバレーしてるのを知って悔しがる侑も見てみたい。

「レシーブとかは、できなくてもええんやけどね……」
「?」
「ボール出し、うまくできるようになりたい」
「!」

そっちか。そういえばこの前、侑が紺野さんにボール出しをお願いしてすっぱり断られたのを見て笑った記憶がある。あれは侑がうざくて断ったんじゃなくて、自分が上手に出来ないから断ったのか。

「……笑わんで」
「いや、可愛くてつい」
「可愛ない」

律儀で、不器用で、可愛い人だ。先輩たちが「可愛いとこある」って言ってたのがわかった気がした。

「じゃあ俺と秘密の特訓しましょう」
「……うん」

悪いね侑、お前の知らないところで俺は紺野さんと少し打ち解けられた気がするよ。


***(侑視点)

 
「今日鍵閉め頼んでええか?」
「おん」

体育館の鍵閉めをアランくんに頼む北さんを見て珍しいこともあるもんやと思った。係で決まってるのか知らんけど鍵の開け閉めはいつも北さんがやってくれている。俺らが自主練に区切りをつけるまで同じように自主練したりボール磨いたりしてるのに、今日は早く抜けるみたいや。

「用事あんの?」
「うん、紺野に呼ばれとんねん。あいつ帰る時間やしついでに送ってく」
「!?」

何で部活後にわざわざ呼び出す必要があるんやろ。休憩時間にちょっと声かけて済ませられる用事と違うんか。最近はたまにみんなと一緒に帰ってるのに北さんだけ呼び出すなんて、他の人には知られたくない用事ってことなんか。めっちゃ気になる……!

「見に行くで治!」
「……」


***


「紺野」
「ごめんね、自主練抜けさして」

というわけで治と自主練を抜け出して北さんの後をつけてきた。

「ええよ別に。で、何?」
「……これ」

駐輪場で待っていたゆきさんは少し恥ずかしそうに小さな紙袋を北さんに渡した。今日は7月5日……バレンタインみたいなイベントはないはずや。

「……ああそうか。紺野も律儀やなあ」
「そんなことないよ。お誕生日おめでとう、北くん」
「うん、ありがとう」
「北さん今日誕生日なんですか!?」
「!」
「……何でお前らおるん」

思わず出てきてしまった。だって、北さんの誕生日とか知らんもん。何で誰も教えてくれへんのや。

「教えてくれれば俺ら一緒に盛大に祝ったのに!」
「別にええわ」

ゆきさんもこういうことはこっそりしたらあかん。みんなと一緒に盛大に祝ったればいいのに。

「何貰たんですか?」
「何やろ」
「そんな大したもんやないよ。去年と同じ」
「ああ、クッキーか」
「クッキー!?手作り!?」

去年もゆきさんに誕生日祝ってもらえたとかええなあ。しかも手作りクッキーとか羨ましすぎる。もしかして他の人の誕生日もこうやって祝ってくれんのやろか。

「紺野のクッキーは硬くて歯ごたえ抜群やんな」
「ど、どうしても硬くなってまうんやもん」
「俺はこんくらいが好きやで」
「もう……意地悪せんといて」

ちょっと意地悪なこと言われて恥ずかしがるゆきさんめっちゃかわええ。北さんの方もいつもより表情柔らかくて新鮮や。何なんこのふたりもうほぼカップルやん。いや違うけども。何も知らない人が見たら勘違いしてしまうと思う。

「ゆきさん!!俺、10月5日!!」
「え……」
「誕生日!!」
「……俺も」

ゆきさんの手作りクッキー、なんとしても食いたい。今のうちに誕生日をアピールしておくことにした。

「覚えといてくださいね!」
「……うん、知っとったよ」
「「!」」

天使か。一生ついてく。



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