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after6


 
「ただいまー!」
「おかえり」

今日も仕事と練習を終えて、先輩からの食事の誘いを適当に断って家に帰るとゆきが「おかえり」と迎えてくれる。一緒に暮らすようになって1年が経つけど、この瞬間の幸福感が薄れることはない。

「今日な、新卒の子が配属されてきて、その子大阪でバレー部やったんやて。侑のこと知ってた」
「へー」

ゆきは大阪市内の医療メーカーで事務として働いている。昔と違って人見知りはだいぶ改善された。仕事にも慣れてきたようで会社での出来事をよく聞くようになった。
別に今更浮気を心配することはない。めいっぱい愛情表現してるつもりやし、されとるし。それでもどこか不安は拭いきれなかった。彼氏がいるとわかっていてもちょっかい出してくる大人はいる。左手の薬指に指輪があるだけでだいぶ違うのに、と思いながら隣に座るゆきの指を見た。何号やろ。

「……7号やって」
「え!」
「右手は8号やけど左手の薬指は7号なんやって。この前宝石店で働いてる友達に見てもらった」
「そ、そうなん」

俺の視線に気づいたゆきが教えてくれた。指のサイズなんて結婚の時くらいしか意識しないものなんじゃないんか。ゆきがアクセサリーとして指輪をしてるとこは見たことがない。じゃあ何で、わざわざ指のサイズを見てもらったのか。

「右手と左手、あと指によってサイズ違うんやね」
「へーー」

ざわざわとうるさい心臓の音がゆきに伝わらないように、精一杯平然を装った。
決めた。近いうちにプロポーズする。思いがけず指のサイズも知れたし、付き合うてけっこう経つし、ゆきのことは相変わらず好きだし、躊躇する理由はない。

「……どこの、買うてくれるん?」
「えっ」
「ん」

静かに決意した俺に、ゆきは両手の指を広げて差し出してきた。その顔は赤く、期待を込めた瞳で俺を見上げている。あーもうズルい。ほんまズルい。俺はきっと一生ゆきには敵わない。

「ここ、予約さして」
「……うん」

迷うことなく左手の薬指を指さすと、ゆきは嬉しそうに大きく頷いてくれた。

「……」
「……」

ていうか、今のってプロポーズになるんか。薬指予約さしてってことは婚約してくれってことや。え、プロポーズってこんなあっさりしてええんか。こんなんでほんまに結婚してくれるんか。

「え、ほんまに意味わかってる?」
「うん。嬉しい」
「あー……好き」

どうやら「結婚する」って認識で間違ってないらしい。結婚……夫婦……宮ゆき。沸々と喜びが込み上げてきて、たまらずゆきを抱きしめた。ゆきと出会ってから幸せの最高値がどんどん更新されていく。大好きなバレーで飯を食えて、大好きな人と家族になれる。俺以上に幸せな人間はこの世界にいないんじゃないかとさえ思えてきた。
ただ、プランを練って俺主導のロマンチックなプロポーズができなかったのは心残りや。

「指輪買ったら、もっかいちゃんとプロポーズする」
「別にええよ」
「あかん、する。バラ99本買う」
「そんなん飾るとこないからやめてや」
「シンデレラ城の前で跪いてパカァしたる」
「恥ずかしいからやめてや」



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