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after1


 
(角名視点)

侑と紺野さんが付き合うことになった。俺や治、北さんなどの一部のバレー部員にはその日のうちに報告してくれて、翌日の放課後には稲高ビッグカップル爆誕の話で持ち切りになっていた。
お互いに異性に人気のあるふたりだけど今のところ祝福の声ばかりで少し安心した。まあ文化祭のミスコンのおかげでふたりの関係性は露呈されていたから、そこらへんは心配しなくて良さそうだ。

「信じられるか角名……ゆきさんが俺の彼女やねんで……」
「ハイハイ信じられないね」
「信じろやボケ」
「めんどくさ」

問題があるとすれば侑の惚気がうざいことくらいかな。付き合いたてだからと大目に見てやってたけど、一週間経ってもこの調子だから本当にうざい。

「俺が教室迎え行くとな、ぱあって笑て近寄ってくんねん。天使やん」
「へーー」

しかし侑の話は決して誇張されたものではない。紺野さんも紺野さんで、侑のことが本当に好きなんだっていうのがわかりやすく態度に現れている。内気そうに見えて意外と大胆な人だからな。
侑のことが好きだと自覚した後は紺野さんなりに一生懸命アピールしてるのがわかったし、その姿は確かにグッとくるものがあった。侑が自慢したくなる気持ちもわからなくはない。

「あ゛!?」

惚気ながら俺の隣を歩いていた侑がいきなり奇声をあげたかと思えば、その姿が見えなくなっていた。

「何しとんねん治!!」
「勉強みてもろてる」

騒がしい方に目を向けるとすぐに見つかった。通りかかった紺野さんのクラスで、紺野さんと治がふたりでいることに対していちゃもんをつけている。
治と同じクラスである俺は、治が度々休み時間を使って紺野さんに勉強を教えてもらっているのを知っていた。それは侑が彼氏になる前からのことだ。治は侑が紺野さんと付き合っても自分と紺野さんの関係は変わらないと言ったけど、やっぱり侑からしたらいい気はしないみたいだ。

「お前いちいち距離近いんじゃ!」
「そんなことないわ。ね、ゆきさん」
「うん」
「ゆきさんまで!」

紺野さんとやけに仲が良さそうな治につっかかる侑……この図ももう見慣れたものだ。

「……侑とは、もっと近いやんか」
「! そっ、そうやんなあ!フフフ!」

しかし決定的に違うのは紺野さんの反応。顔を赤らめてボソッと呟いた言葉はどう考えても色ボケていた。同じ色ボケでも侑とは全然印象が違う。かわいい。もっとしてくれ。


***(北視点)


紺野から侑のことが好きだと聞いた時、驚きはしなかった。俺もそういうことには疎いから全然気づかなかったけど、言われてみれば納得した。
侑に出会ってから紺野は変わったと思う。一番の変化は、人と積極的にコミュニケーションをとろうとするようになったところや。中学の時から知っているからこそ、後輩に率先して声をかけたり意識的に笑顔を作ったりしている姿は新鮮に映った。
間もなく侑と付き合うようになって、紺野はとても幸せそうに見えた。親友の幸せそうな顔を見て嬉しいと思うと同時に、俺の中にはどこか晴れない気持ちも確かにあった。

「俺、なんやかんや北は紺野のこと好きなんやと思てた」
「俺も」
「……好きやで。そういうんやないけど」

中学の時からよく誤解されることはあった。紺野のことは友人として好きや。それは自信を持って言えるし、紺野も同じ気持ちだと思う。実際こうやって紺野に恋人ができて少し寂しく思ってしまっているのも事実だし、侑と付き合う前に紺野が悩んでいた時、いざという時は嫁にもらったると言ったのも本心や。

「まあ……侑が紺野のこと悲しませたら許さんけどな」
「せやなあ」
「愛やなあ」

俺の紺野への想いは友愛とか親愛とか、そんな感じの言葉がしっくりくるような気がした。形は違えど紺野のことを大事に思う気持ちは侑にも負けていないつもりや。

「ちわー!」
「ちわ」

そんなことを3年で話していた矢先に侑と治が揃って部室に入ってきた。

「?」
「え、何すか?」

入るなり3年の視線が一斉に集中して、さすがの双子も怯んだみたいや。

「北が紺野を悲しませたら許さへん言うてたでー!」
「か、悲しませたりなんかしません!!」
「おう」
「おとんと娘の彼氏みたいやな」

もちろん侑と紺野が付き合うことに反対するつもりなんてないけど、あからさまに浮かれている侑はちょっと腹立つし釘を差しておくのに越したことはない。

「北だけと違うからな」
「おん。紺野を泣かせたら部活での居場所なくなると思えや」
「え!?」
「家での居場所もなくなるからな」
「は!? いや、泣かせませんけど!」
「ははっ」

見事な連携プレーを見せたレギュラーメンバーに自然と笑みが零れた。俺達をとりまく環境はほんの少し変わったけど、高校最後の1年もやるべきことをちゃんとやって普段通り過ごしていきたい。


***(モブ男子視点)


紺野さんといえば名実ともに稲高のミスや。そう、つまりは美しい。入学当初から可愛いと注目されていて、1年の時同じクラスだった俺はそれだけで得意げやった。2年は別のクラスで、3年でまた同じクラスになって人知れず歓喜した。
稲高男子であれば誰もが紺野さんとお近づきになりたいと思ったことがあるだろう。しかしそれは至難の業である。紺野さんはフレンドリーなタイプではない。あまり男子と話しているのは見たことがなかった。果敢に話しかける奴も何人かいたけど、ことごとく撃沈していた。
バレー部の奴によると紺野さんは極度の人見知りらしい。それを聞いてクールで素っ気ない印象が一転、護ってあげたくなるような可愛らしさを紺野さんから感じるようになった。

そんな紺野さんが少しずつ変わってきてるっていうのは男子たちの間で噂になっていた。その大きな理由が宮侑の存在や。双子の宮といえば稲高女子が夢中になるイケメン兄弟。もちろんモテるらしいけど宮侑の方はあまり性格が良くないって話を聞くことが多かったから、嫌な奴なんやろなと勝手に思っていた。
そんな宮侑が紺野さんにつきまとってるのをよく見るようになった。紺野さんに話しかける宮侑は嫌な性格してるとは思えない程の満面の笑みやった。それはそれは犬のようやった。紺野さんに懐く宮侑が可愛いと、また別の意味で女子からの人気を集めていた。結局"イケメンに限る"って奴や。

そんなふたりが付き合うことになったと聞いたのは今日の昼。今日の稲高はその噂で持ち切りやった。

「どっちから告ったん!?」

クラスの女子達が紺野さんを囲んで付き合うまでに至った経緯を興味津々に聞き出している。その話に聞き耳をたてられるのは同じクラスの特権や。

「私から……」
「うっそマジ!?」
「何しとんねん宮侑!!」

マジか。宮侑が紺野さんにベタ惚れなんと違うんか。いやそれは多分間違いない。だとしたら女子に…… 紺野さんに告白させるとか、ほんま何やっとんねん宮侑。

「ゆき、侑くんのこと好きやったんやねぇ」

そう、それや。文化祭のミスコンを見てても、宮侑が紺野さんに気があることは明らかだった。一方紺野さんはというと全然そんな風には見えなかった。俺らクラスメイトよりバレー部の宮侑には心開いとんなあって思ったくらいや。それに仲の良さで言ったら片割れの宮治とも同じ感じだし、北とは中学からの付き合いで別格って感じだったのに。紺野さんが付き合うんだったら北なんやろなって思ってた。

「うん、好き」
「ぎゃんかわ!!」
「あーんもう何なん!?」

いやほんま何なん?紺野さんに「好き」言うてもらえるとか、前世でどんだけ徳を積んだらええんや。今の「好き」は、どんな顔して言うたんやろか。声を聞いた限りめちゃくちゃ可愛かった。女子の反応を聞く限り、実際にめちゃくちゃ可愛かったんだろう。見たかった。

「ゆきさん!」
「!」

教室の外から宮侑が紺野さんを呼んだ。その声に反応して宮侑を見る紺野さんはどことなく嬉しそうや。こんな顔、同じクラスにいても見たことなかったのに。
紺野さんは友達に別れを告げて宮侑の方へ小走りで近付いた。もうその所作だけでほんまかわええ。

「あ、今日毛先くるんてなってますね」
「うん、寝癖酷くて」
「かわええ」
「! ありがとう」

紺野さんの笑顔ってだけでレアなのに、こんな幸せそうな笑顔は初めて見た。めちゃくちゃかわええ。そして紺野さんにとって宮侑という存在が特別なんだと、これでもかと思い知らされた。



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