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27


 
(角名視点)

「侑先輩、お疲れ様です!」
「……え、稲荷崎来たん?」
「はいっ!」

練習試合が終わった後、双子に差し入れを渡す女子は多い。その中で侑と顔見知りっぽい女子がいてなんとなく気になった。初めて見る子だ。1年生かな。

「これ差し入れです!」
「あー……」
「今日もかっこよかったです! で、では!」

その子は侑に小さな紙袋を渡して、頬を染めて去っていった。差し入れを渡す女子の中でもガチ勢であることは一目瞭然だった。

「……何あれ」
「侑の追っかけ。中学ん時から猛アタックしとる。ウチ来たんやなぁ」
「ふーん……」

治に聞いてみたらどうやらそういうことらしい。高校にまで追っかけてくるなんて相当好きじゃん。

「差し入れ何?」
「わからん。やるわ」

しかし侑の方に脈はこれっぽっちもないらしい。渡された紙袋の中身を確認することなく治に渡すという人でなしっぷりだ。

「角名も食う?あの子の作るもん結構うまいで」
「……いらない」


***


それから毎日のようにあの子が侑に声をかけたり差し入れを渡す姿を見るようになった。中学の時からずっとこんな感じだったんだろうか。だとしたらかなりガッツのある子だ。
猛アタックといっても押しつけがましいところはなく、バレーの時間は邪魔しない。差し入れも侑の好みを考慮している。侑を前にして幸せそうな笑顔を浮かべる彼女は女の子として可愛らしいし、いい子なんだろうなって思う。

「あ! 侑せんぱ……」
「ゆきさんこんにちは!」

あの子の存在に気づく前に侑が紺野さんに駆け寄った。
いい子なだけに可哀想だと思う。恋愛感情は置いといても、今侑の中心にいるのは紺野さんだ。中学の時にはいなかったであろう、侑にとっての絶対的な存在。それを目の当たりにして、彼女は何を思うんだろう。

「あれ、前髪切りました?」
「うん、ちょっと切りすぎた」
「似合うてます!かわええ!」

紺野さんと仲良さげに話す侑を見て曇る表情。面倒なことにならないといいけど。


***(侑視点)


「好きです!付き合うてください!!」
「……」

何回目かわからない告白を受けて、こいつも熱心やなあと冷静に思った。
目の前で顔を赤らめているのは一つ下の菊池という女子。中学が同じで、その時からアプローチを受けている。女子にモテること自体は普通に嬉しいけど、俺を追いかけて稲荷崎に来たことを知った時は若干引いた。

「あー……」
「バレーの邪魔は絶対しません!連絡少なくても拗ねたりしません!毎日お弁当作るし差し入れも、何でも作ります!」

俺が断る前に菊池は必死に畳み掛けてきた。確かに今までもバレーの邪魔をされた記憶はない。差し入れも、治にあげて俺はあまり食っとらんけどどうやら美味いらしい。性格歪んでるってわけでもないし顔もどっちかと言えばかわええ。それでも付き合いたいとは思えんかった。

「侑先輩を好きな気持ち、誰にも負けない自信あります」

そんなん言われても知らん。気持ちの強さなんてきちんと測れるものでもないし、そんなんただの自己満足や。

「悪いけど……」
「お、お試しでええですから……ッ!1週間だけ、私を彼女にしてください」
「は?」
「それでダメやったらもうつきまといません。だから……私のこと、ちゃんと見てください……!」
「……」

大きな目に溢れそうなくらいの涙を溜めて迫られて、俺はつい頷いてしまった。


***


「何やねんお試して!告白してくれた女子に失礼やろ!」
「出たー。イケメンにしか許されないやつー」
「喧しいわ。向こうが言い出したことや」

次の日から早速菊池は弁当を作ってきた。別に頼んだわけじゃない。ちょうどその場面を銀と角名に見られて、こうなった発端を説明することになってしまった。お試しで付き合うなんて確かに最低かもしれんけど、向こうが言い出したことやし。あんなぐいぐい来られたらさすがに突き放せなかった。

「普通に可愛いじゃん」
「それ手作り?健気やなあ」
「くれ」

それに1週間経って無理だったら諦めるって言ってたから、少しの辛抱や。例えどれだけ尽くされても俺と菊池が本当に付き合う未来は見えない。

「侑、彼女できたん?」
「!」

最悪や。女子からの手作り弁当持ってるとこをゆきさんに見られてしまった。こんなん持ってたら彼女できたと思われるのは当然や。

「あー……まあ……」

お試しで付き合うてるなんて最低なこと、とてもゆきさんには言えない。幻滅されるのが怖くて詳しくは話せなかった。

「……そっか」

やんわり肯定すると、ゆきさんは伏し目がちに呟いた。そのしおらしい反応に胸が高鳴る。もしかして、嫉妬してくれたんやろか。俺がゆきさんに彼氏できてほしくないと思うように、俺に彼女できるのが嫌だと思ってくれたんやろか。

「……また、部活で」

寂しそうな表情を見せたゆきさんをどうしようもなく抱きしめたくなった。


***


「ゆきさんに避けられてる気がする……!!」

それからというものの、ゆきさんがよそよそしい。部活の時もあまり話しかけてくれなくなったし、校内で声をかけてもすぐにどこかに行ってしまう。1年が経ってようやく目を合わせて笑顔もいっぱい見せてくれるようになったのに……最初の頃に逆戻りや。

「侑は彼女持ちやからな〜」
「気を遣ってくれてんでしょ」
「……彼女違うし」

確かにゆきさんには彼女がいると思われている。彼女と違うけど。ゆきさんにお試しで女子と付き合うてるなんて言ったら幻滅されるかと思って言えなかった。こんなことになるんだったら菊池の条件なんて呑まなきゃ良かった。

「お試しでも今は彼女なんでしょ?」
「名前さんと話せへんなら彼女いらんわ」
「うっわ」
「菊池さんかわいそー」
「さいてー」
「喧しいわ」

菊池とゆきさんどっちをとるかなんて、そんなん言うまでもない。ゆきさんが前みたいに笑てくれなくなるんだったら彼女なんていらん。早く1週間が過ぎてほしい。


***(治視点)


「治何買った?」
「クーリッシュです。柚子味」

今日は久しぶりにゆきさんも混じって帰ることになった。コンビニで買った俺のアイスを興味津々に覗き込まれて、ちょうど一年前にも同じようなことがあったなと懐かしく思った。

「それ美味しそうて思ってた」
「……一口食べます?」
「うん」

ゆきさんはあまり間接キスがどうとか気にしない。最初からそうだったから、仲の良さどうこうとかじゃなくて元から頓着がないんだと思う。俺もあまり気にしない方だけど、相手がゆきさんとなると少し浮つく気持ちはある。

「ゆきさん俺のも食べますか!?」
「……ううん」

対抗心を燃やした侑が自分のアイスを差し出したがあっさりと拒否された。

「何で俺のだけ食べてくれへんのや……!」

別に侑が買ったアイスが気に入らないわけじゃないと思う。むしろパルムは好きなはずや。にも関わらず断ったのは、侑のことを意識してるからやろ。特別に思ってるからこそ、ためらうんやろが。そんなこともわからないなんて、お前はゆきさんの何を見とんじゃ。

「……下心見え見えできもいんやろ」
「おおん!?」

ゆきさんを悲しませているコイツにわざわざ教えてやることもない。



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