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26


 
(治視点)

2年生に進級して俺は角名と、侑は銀と同じクラスになった。今思い返してみるとあっという間の1年間だった。スカウトされたし最近強いらしいしアランくんいるしってことで稲荷崎を選んだわけだけど、ここにきて本当に良かったと思う。

「ゆきさんこんにちは!」
「ちわ」
「早いね」

部活前、体育館裏で一人いちごオレを飲むゆきさんに侑と駆け寄った。部活が始まる前の"いちごオレタイム"を教えてもらったのはちょうど1年前や。あの頃と比べたらゆきさんもだいぶ俺らに打ち解けてくれたと思う。目ェちゃんと合わせてくれるし、必要以上に距離を取られることもなくなった。

「何見てんすか?」
「名簿?」
「うん」

ゆきさんがいちごオレを飲みながら眺めていた紙を侑と一緒に覗き込む。その紙には新しく入った一年の名前とポジションが表になってまとめられていた。読みにくい名前には手書きで読み仮名がふられている。

「1年の名前覚えとんのですか?」
「うん。 」
「も、もしかして俺らの時も……!?」
「……うん」

マネージャーとしての影の努力を目の当たりにして感動を抑えきれない。ゆきさんは人見知りだから最初こそ誤解されやすいけど、前にアランくんが言ってたようにちゃんと歩み寄る努力はしてるんや。

「俺、ゆきさんのそういうとこめっちゃ好きです!」
「!」

同じくゆきさんのいじらしい行動に感動した侑がゆきさんの頭を撫でた。馴れ馴れしいな。かわええのはわかるけど先輩やぞ。俺に抜け駆けすんなと言うくせにお前のそれはええんかと言いたくなるが、堪えて視線で訴えた。

「す、すんません思わず撫でてまった!」
「別に……ええけど……」

そんな侑の行動に対してゆきさんは頬を微かに染めて視線を泳がせた。その反応に俺は違和感を感じた。周りから見たら距離感の近い侑に困る人見知りのゆきさんのように映るのかもしれない。けど、ゆきさんと仲良くなったからこそわかる、微妙な表情の違いを確かに感じとった。

「え! そんならまた撫でてええですか!」
「……あかん」
「ですよねー!」

そんなゆきさんの些細な変化に、侑はまだ気づいていない。
もしかしたら今年は大きな転機が訪れるかもしれない。俺は人知れずそっと覚悟した。


***(角名視点)


「ゆきさ……」
「ゆき先輩そっち持ちます!」
「結構重いよ?」
「大丈夫です私力持ちですから!半分こしましょ!」
「ふふ、ありがとう」

新年度になり、新しいマネージャーが入った。1年の卯月。部員としてマネージャーが増えることはありがたい。実際紺野さんの仕事が軽減されるわけだし、卯月はバレー経験者だから知識もある。
紺野さんにもよく懐いていてひよこみたいに紺野さんの後ろをついていく場面をよく見かける。紺野さんも卯月のことを妹みたいに可愛がっていて明らかに去年よりも笑顔が多い。実に喜ばしいことなのに、それを見て面白くない表情を浮かべる男が一人。

「女子に嫉妬してどうすんの」
「……嫉妬と違うし」

先程紺野さんのお手伝いをしようとするも卯月に先を越された侑が、悔しそうな表情で突っ立っていた。去年まで、紺野さんが重たい荷物を持っているとすぐに侑が駆け寄って手伝っていた。そのポジションを卯月に取られたことが悔しいんだろう。わかりやすすぎる。

「諦めなよ。どう考えても図体でかい男に懐かれるより小柄な女の子に懐かれる方が嬉しいでしょ」
「ぐぬぬ……」

本気で悔しがる侑を見て呆れてしまう。どう足掻いても同じラインじゃないから。そこで張り合ってどうするんだよ。

「……侑はさ、最終的に紺野さんとどうなりたいの?」
「は?」

侑が名字さんに懐いてることは周知の事実だ。文化祭以降は学校全体に知れ渡っている。治も俺も、紺野さんのことは好きだけど侑の言動はただ単に「懐いてる」という表現では片付かない気がした。付き合いたいわけじゃないと以前言っていたけど、紺野さんに彼氏ができることは認めたくないらしい。侑は紺野さんとの関係に何を求めてるんだろう。純粋に気になったから聞いてみると、侑は顎に手をあてて考え込んだ。

「嫌や……」
「?」
「ゆきさんとの関係に終わりがあんのは、嫌や」
「……」

俺の質問の回答に辿り着く前に、「最終的に」という言葉が引っかかったらしい。嫌だと言っても紺野さんは3年生。今年で卒業してしまう。進路をどうするかは知らないけど、大学に行くなり就職するなりして俺らとの接点はどんどん薄れていくだろう。良くて同窓会で何年振りかに会うくらいだろうか。それが嫌ってことは、ずっと一緒にいたいってことじゃん。その感情がどういうことなのか、侑にはわからないのかな。

「ゆき先輩!今日の日誌私が書きますねっ!」
「うん、ありがとう」
「んふ!うふふふ!」

紺野さんに頭を撫でられて至福の笑みを浮かべる卯月。こいつもこいつで紺野さんにデレデレだ。鼻の下伸びてるし、女子としてその笑い方はどうかと思う。

「……まあ確かにあの顔は腹立つよね」
「やろ?」


***(侑視点)


「理石、ちょっとええ?」
「は、はい!」
「これ1年の名簿なんやけど、ゆきとか住所とか間違うてへんかみんなに回して確認して貰ってええかな?」
「わかりました!」
「間違ってたら線引いて直してもらって、大丈夫やったら右端に丸つけて」
「はい!」
「終わったらまた私に戻して」
「任してください!」
「ありがとう、よろしくね」

……不服や。気に入らん。なんか腹立つ。
今ゆきさんが1年の理石を呼んでしてたのはただの事務連絡。マネージャーとしてごく普通のことをしてるように見えるけど、ここで忘れてならんのはゆきさんが人見知りということや。理石とはまだ会って1ヵ月も経っていないはずなのに、ゆきさんはちゃんと目ェ合わせてるし距離もそこそこ近いし、何より笑顔を見せている。俺らの時はそうなるまで半年くらいかかったのに。

「侑、どうしたん?」
「……」

ふたりの様子を不服そうに見ていたらゆきさんに気づかれてしまった。

「……ゆきさん1年を贔屓してんのとちゃいますか」
「……?」

またガキかと呆れられてまうかもしれないけど、単刀直入に聞いた。だって明らかに俺らの時と違うやんか。最初から仲良さげでずるい。

「贔屓ってわけやないけど……」
「人見知りしとらんやないですか」
「それは……侑のおかげやね」
「えっ」
「侑がいっぱい話しかけてくれたから、人見知りちょっと治ったかも」
「!」

人見知りしてないのが俺のおかげだなんて、ゆきさんがそんな風に思ってくれていたことに感動した。うざいくらいに話しかけてきた俺の努力が報われたというか、受け入れてもらえたようでめちゃくちゃ嬉しい。

「……ありがとう」

お礼を言われるようなことはしていない。俺はただ、ゆきさんと仲良くなりたかっただけや。
ゆきさんに優しい笑顔を向けられて心臓が煩くなる。人見知りが改善されたのはええことやけど、この笑顔をいつか1年生も見ることになると思うとやっぱりいい気はしなかった。



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