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24


 
「あれ、ゆきさんどこ行くんすか?」
「コンビニ」
「俺も行きます!」
「うん」

全国大会の時は原則的に現地のホテルに宿泊することになっている。めっちゃ綺麗なホテルでテンションが上がって、ホテル内をブラブラしていたらゆきさんと遭遇した。コンビニに行くらしい。治が来ないうちにはよ行ったろ。

「白鳥沢も同じホテルみたいですね」
「うん。私も白鳥沢の人見た」

このホテルは会場も近いからか、俺らの他にも遠方からきた学校が利用しているらしい。ゆきさんと会うまでに何人か、白鳥沢のジャージを着た人とすれ違った。白鳥沢といえば全国で三本の指に入るという牛島くんがいるチームや。牛島くんを見たくて捜してみたけど見当たらなかった。まあ明日の試合に勝てばその次はおそらく白鳥沢と対戦することになる。それまでのお楽しみにしておこう。

「白鳥沢の変なミドルブロッカーとは仲ええんすか?」
「天童くんは……正直、ちょっと苦手や……」
「ですよねー」

そういえばこの前のインターハイの時、ゆきさんは白鳥沢の性格悪そうなミドルブロッカーに馴れ馴れしく話しかけられていた。顔見知りではあるけど仲がええってわけじゃないみたいや。見るからにゆきさんとは相いれないタイプやった。それを自覚したうえでの対応なんだろうけど。

「え! 若利くんまだ見てないの!?」
「ああ」
「「!」」

そんなことを話していたら本人を見つけてしまった。しかも牛島くんと一緒におる。牛島くんと話したい気持ちはちょっとあるけど、あのミドルブロッカーに絡まれるのは嫌や。しかし外に出るためにはふたりがいるロビーを通らなあかん。見つからずに通れるやろか。

「!」

どうしようかと足を止めていたらふと、ミドルブロッカーの奴がキョロキョロと顔を動かし始めた。見つかったらヤバい。そう思った俺は咄嗟にゆきさんの手首を掴んで今来た道を引き返した。

「あ……す、すんません!」
「ううん」

通路の奥まで来たところで、ゆきさんを強引に引っ張ってしまったことに気づいた。手首、痛くなかったやろか。不安になって顔色を伺うとゆきさんは特に気にしていないようだった。良かった。

「確か逆側にも出口あったと思うんでそっちから行きましょ」
「うん」

幸い反対側にも出口はある。ちょっとコンビニまでは遠くなるけど、ゆきさんの苦手な人と対峙するくらいならそっちのがええやろ。

「腹減った」
「晩飯あんなに食ったのに?」
「風呂入って消化した」
「うそだろ」

今度は階段に差し掛かったところで聞き慣れた声に足を止めた。治と角名や。角名はともかく、治に見つかったらめんどい。俺がゆきさんとふたりでおるの見たら絶対邪魔してくるやん。コンビニ俺も行くとか言うやん。

「ゆきさんこっち!」
「え……」

俺は治に見つかるのが嫌で、階段下の自販機の陰でふたりをやり過ごすことにした。息を止めて身を潜めること数秒、ふたりは俺らに気づくことなく通り過ぎていった。

「……ふぅ」
「何で隠れたん?」
「え? 治に見つかったら絶対一緒に行く言いますもん」
「あかんの?」
「……」

いやまあ、あかんわけやないですけど……。せっかくゆきさんとふたりだけでコンビニに行けるのに、そこに治が入るのは嫌や。

「んんー……今日はあかん!」
「?」
「たまには独り占めしたいですやん」
「!」

ここ最近は俺がゆきさんと一緒におると必ず治が入ってきていた。別にええっちゃええけど、治がゆきさんから菓子を貰って、美味そうに食って、かわええなあと微笑まれるのを見ると腹が立つ。親の興味を引きたい子供かと、自分でも幼稚やと思う。また笑われてまうやろか。

「……変なの」

あ、照れた。かわええ。


***


「あ! ゆきちゃんじゃーん!こんなところで会うなんて運命的ダネ!」
「……」

わざわざ回避したのに結局コンビニで白鳥沢のミドルブロッカーに遭遇してしまった。早速ニヤニヤとゆきさんが反応に困るようなことを言ってきて腹が立った。

「番犬1号を連れて何買いに来たの〜?」
「洗顔、忘れたから」
「あららもしかしてドジっ子?かーわいー」
「ゆきさんはよ買って帰りましょ」
「えー、せっかく会えたんだし積もる話でもしようヨ!」
「積もる話なんてありませんよねゆきさん」
「……うん」
「熟考して無いって結論出すのヤメテヨ」

もう「番犬」と呼ばれるのは構わない。実際そんなもんやし。その番犬が威嚇してるのをわかったうえでのこの態度だから、ほんま性格悪いと思う。俺も「人でなし」と言われることがあるけど、コイツに比べたらかわええもんやで。

「天童、読み終わった」
「!」

白鳥沢のミドルブロッカーの背後から牛島くんが現れた。間近で見るとめちゃくちゃでかい。そして牛島くんは片手にジャンプを持っていた。え、牛島くんジャンプとか読むんか。

「いや若利くんがさ、今週のワンピースまだ見てないって言うからさー」
「あ、今週の展開やばいすよね」
「お、わかる口だネ!」

確かに今週のワンピースの展開は熱かった。どうやらふたりはジャンプを立ち読みするためにコンビニに来たようだ。

「紺野も読むのか?」
「私は読まへんよ」
「!?」

牛島くんとゆきさんが普通に会話してるのを見て驚いた。顔見知りなのは想定内として、心なしかゆきさんはあまり人見知りしていないように見える。

「ゆきちゃん若利くんと仲良しだもんね!」
「!?」
「別に仲良しではない」
「うん」

確かに仲良しには見えなかったけど、何もふたりして真顔で否定せんでも。このふたり、少し雰囲気が似とるかもしれない。

「ゆきちゃんと若利くんて何か雰囲気似てるんだよネー。お似合いじゃない?」
「お似合いなわけあるか!」

雰囲気似てるのは認めるけどお似合いとは思わない。牛島くんとゆきさんが並んでると顔面偏差値エグいけど、断じて認めん。

「ゆきさん早く買い物済ませましょ!洗顔てコレですか?」
「それ歯磨き粉」



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