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19


 
稲荷崎グループの合同合宿は夏と秋の年二回。今回の秋合宿は普通の土日を使って一泊二日、稲荷崎にて行われる。他校3校を迎え入れる準備のためゆきさんは昨日から忙しそうや。何か手伝いたいと申し出たら人数分のビブスを集めるように頼まれてめちゃくちゃ嬉しかった。確実にゆきさんは俺に心を開いてきている。

「小春先輩……!」
「ゆき会いたかったわあー」
「私も小春先輩に会いたかったです」

京都の連中が到着すると、ゆきさんは嬉しそうにマネージャーの先輩に駆け寄った。かわええ。

「「ちわ!」」

俺と治さんのゆきさんの後ろからきっちり腰を曲げて挨拶をした。京都の3年生は春高まで残るらしい。ありがたいことや。これで今回の合宿も練習に集中できる。

「今年もよろしくお願いします!(ゆきさんを)」
「よろしくお願いします(ゆきさんを)」
「お、おおう……(番犬が増えとる……)」


***


「なあ実際どうなん?」
「おん?」
「あの美人マネさん、誰かと付き合うたりしてへんの?」
「は? しとるわけないやろ」
「何でキレんねん」

夜、学校入り乱れて1年で集まってするのは恋愛の話。"恋バナ"と言っても男の場合は女子みたいにきゃっきゃする感じではない。誰が彼女いて、エッチしたんかとかおっぱいでかいんかとかそんなことばっかや。そんな話にひと段落ついたところでゆきさんの話題になった。まあ避けられないとは思っていたけど、この流れで聞かれるのは腹が立った。

「そもそもお前らはどないやねん」
「好きなんちゃうの?」
「はあ……お前らは何もわかっとらんな」
「な」
「「「?」」」

そりゃゆきさんのことは好きや。大好きや。でもこいつらが聞いてきた「好き」とは違う。

「ゆきさんは付き合いたいとか彼女にしたいとか、そういう次元の話やないんじゃ」
「うんうん」
「なんつーか……もう、尊い」
「尊い!?」
「おいコイツらおかしなってもうたで」

そう、ゆきさんと付き合おうなんてこと自体がおこがましい。ゆきさんの近くでバレーができるだけで、ゆきさんとお喋りできるだけで幸せなんじゃ。もし万が一に付き合えたりしたら幸せがパンクしておかしなってまうやろ。

「ほんなら俺らの誰かが狙う言うたらどないする?」
「は? 許すわけないやろ」
「はっ倒すぞ」
「何やねんそれ!」

よそ者がゆきさんに手ェ出してええわけないやろが。そもそもお前ごときがゆきさんと釣り合うわけあるかい。

「わからんやろが。マネさんやって女の子やし、恋ぐらいする時ゃするやろ」
「「……」」

確かに……言われてみてハッとした。言い寄られることが五万とあるやろが、ゆきさん自身が恋をする可能性もないとは言い切れない。

「ゆきさんに彼氏できたら構ってくれんくなるのか……」
「菓子くれたり頭撫でたりしてくれなくなるんか……」

無理や。ゆきさんに彼氏できるのは嫌や。

「彼氏できんように全力で阻止しよう」
「それやな」
「こいつらもうあかんわ」


***


「随分後輩と仲良うなったんやない?」
「そう見えます……?」

風呂上り、治とコーヒー牛乳を買うために自販機に向かっていると、自販機手前のベンチに座ってゆきさんと京都のマネさんが談笑していた。

「うん。特に双子。懐かれとるね」
「ちゃんと"先輩"できてるかは自信ないですけど……」

話題は俺達のことだった。思わず俺も治も足を止めて立ち聞きの態勢に入った。先輩にも前回より俺らとゆきさんの仲は深まったように見えとるようや。後輩と仲良くなったと言われてゆきさんは嬉しそうにはにかんだ。ああもうかわええ。

「そんなん気にせんでええよ。ていうか無理に先輩やって気張らなくてええんやない?」
「?」
「後輩ももっと頼ってええよってこと!」

仲良くなれたといっても、やっぱりゆきさんは先輩としてしっかりしなきゃって思いが強いのか、相変わらずあまり頼ってはくれない。もっと弱みとか見せてほしいと思う。
心の中でよくぞ言ってくれたとスタンディングオベーションしていたら京都のマネさんと目が合った。やば、見てるの気付かれた。

「ねえ、あの双子のこと、ゆきはどう思っとんの?」

確かに俺らの存在に気付いたはずなのに、マネさんは特に反応せず話を続けた。多分、わかったうえでわざわざ俺達の話題を振ったんだろう。ありがたい。実際のところゆきさんにどう思われているのかは気になるところや。

「侑は……距離が近くて困ること多いけど……」
「プ……」
「ぐぬぬ……」

困られていた。隣の治が小さく噴き出したから軽く脛を蹴っておいた。

「私に対して真っ向からコミュニケーションとろうとしてくれたんは、侑が初めてで……」
「……」
「多分侑がいなかったら、他のみんなとも今ほど喋れてなかったと思います」
「ふーん」
「……だから、感謝してます」

嫌われてはいなかったどころか感謝までされていたなんて、感動で泣いてしまいそうや。

「治とは、最近喧嘩みたいになってまって……」
「へー」
「仲直りしてから、前よりもっと治のことが知れたような気がして、嬉しかった」
「!」
「治は普段犬みたいでかわええけど、侑より頑固なんです」
「犬言われてんぞ」
「羨ましがんなて」

羨ましくはない。別に……羨ましくなんかない、多分。けど確かにゆきさんは治のことをよく「かわええ」って言って頭を撫でている気がする。俺にはそんなことしてくれたことないのに。同じ顔なのにズルい。

「なるほどねぇ」

まあとにかく、ゆきさんが俺らのことをどう思っているのか聞けたのは嬉しい。ほんまいい仕事しよるでこの先輩。

「てかゆき、胸大きなってない?」
「「!?」」

聞きたいことも聞けたしそろそろ部屋に戻ろうと思ったら、話題は予想もしない方へ飛んでいって足が固まった。

「わかります?Cなりました」
「やんなあ!」

この話も俺らがいると知りながらわざと振ったに違いない。あかん、ゆきさんの胸の話とか、刺激が強すぎる……!

「小春先輩には全然及ばんけど……」
「大きくてもそんなええことないよー?肩疲れるし可愛い下着少ないし」
「けど柔らかくてめっちゃ気持ちよかったです」
「ふふふ、このムッツリさんめ〜!ゆきは触り放題やでー?」
「……えへへ」

今までの人生で一番煩く鳴る心臓を押さえながらも、きっちりと最後まで聞いてから部屋に戻った。その日の夜は俺も治もなかなか寝付けなかった。



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