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18


 
「侑、治」
「「ハイ!」」
「お前らテストは大丈夫なんか」
「「……」」

テスト前の最後の部活で北さんとゆきさんに呼ばれて聞かれたのは勉強のこと。俺は後ろめたくて視線を泳がせた。テスト勉強はテスト期間に入ったらすればええんと違うんですか。……怖くて言えへんけど。

「俺はちょくちょくゆきさんに教えてもろてます」
「はあ!? 聞いてへんぞ!!」
「うん。休み時間にテキスト持ってくるんよ」
「お前最近抜け駆け酷いからな!?」
「知るか」

この前の喧嘩の一件から、治のゆきさんへの態度は明らかに変わった。今まではゆきさんに構い倒す俺を一歩引いて見ていたくせに、今では俺よりも前にぐいぐい出てくる。何やねんむかつく。

「明日また勉強会やるか」
「……よろしくお願いします」

今回もテストで赤点とったら秋合宿と補習の日程が被ってしまう。正直自分一人でテスト勉強できる自信はない。また前みたいに2年生に見てもらえるのは心強い。

「けどな、ひとつ問題があんねん」
「?」
「この前図書室で勉強したやろ」
「はい」
「あの後バレー部喧しいて苦情きとんねん」
「……すんませんでした」

確かに思い返してみれば、私語厳禁の図書室で騒ぎすぎたという事実は否定できなかった。学校がダメとなると誰かの家やろか。

「ウチ駅から近いよ」
「「!」」
「せやな。紺野の家が一番ええかも。ええか?」
「うん」

マジか……!まさかゆきさんの家に行ける日が来るなんて、思ってもみなかった。勉強苦手でよかった。


***


翌日。俺と治は朝からそわそわ落ち着かない状態で一日を過ごした。ゆきさんの家に行くんだから当然や。ゆきさんは片付けるからと一足先に帰って、ゆきさんの家までは北さんが案内してくれた。
今俺はめちゃくちゃ緊張している。ゆきさんの親はどんな人やろか。気に入られたい。何としてでも気に入られたい。
北さんが家の近くまで着いたと連絡を入れると、ゆきさんは家の前の道路まで出てきてこっちに気付くと小さく手を振った。かわええ。

「これウチのばあちゃんが持ってけって」
「ありがとう」

しまった、何か手土産を持ってくるべきやったんか……!さすが北さん、こういう礼儀は抜かりない。

「?」
「あ……」

ふと、ゆきさんの後ろから黒いランドセルを背負った小学生が走ってくるのが見えた。

「妖怪スカートめくりーーー!!」
「「!?」」

そしてその小学生はゆきさんの背後から思いっきりスカートをめくった。ゆきさんのスカートの中が正面にいた俺らにも晒される。ショートパンツを履いていたからパンツは見えなかったけど、普段短いズボンやスカートを履かないゆきさんの太ももは俺らに大きな衝撃を与えた。

「わはは!ねーちゃんの今日のパンツは、く・ろーーー!!」
「孝太郎!」

この"妖怪スカートめくり"さんはゆきさんの弟らしい。いたずらに笑って意気揚々と家の中へ入っていったのをゆきさんが追いかけた。

((妖怪さんありがとう……!!))


***


「ねーちゃん腹減ったー!」

リビングで勉強を始めて1時間くらい経ったところで弟が入ってきた。弟の名前は孝太郎。10歳って言っていたから小4か。一番ヤンチャな時期やろなぁ。クラスに一人はいる悪ガキって感じや。

「同じ顔が2つや!すげーー!!」

弟は双子が珍しいらしくじろじろと俺と治の顔を見てきた。ゆきさんと違って人見知りはしないらしい。

「ちゃんと挨拶してや」
「俺孝太郎!」
「おう、俺侑」
「治。よろしくな」
「おう!」

にっこりと歯を見せて笑った孝太郎は年相応の男の子って感じで可愛かった。ゆきさんと同じDNAやからな、かわええのは当然や。

「これ何?食べてええ?」

孝太郎は北さんが持ってきた紙袋を覗き込んで勝手に中身を取り出した。

「北くんがくれたんよ」
「信介食ってええ?」
「ええよ」
「ありがとお!」

北さんに対してこんなズケズケとものを言うなんて、小学生って怖いもの知らずや。

「なあなあ!侑と治はゲームやる?」
「おう、やるやる!」
「ほんま?俺な、ゲームいっぱい持ってんねんで!ほら!」

中に入っていた煎餅を頬張りながら今度は俺たちに話しかけてきた。ほんまこいつゆきさんとは正反対でぐいぐい来るやん。まあまだガキだからかもしれんけど。孝太郎は自慢げにテレビ横のゲームコーナーを見せてくれた。

「おっ、ウイイレあるやん」
「ウイイレ俺強いねんで!」
「俺らも強いねんで〜」
「ならやろーや!信介もねーちゃんもゲームヘタクソやからつまらんねん!」
「俺らはええけど……」

勉強を教えてもらっている身として二つ返事はできなかった。チラリと北さんとゆきさんを見ると、ふたりは目を合わせて「しょうがないなあ」という感じに小さく笑った。


***


「「ウェーイ!」」
「あーー!!」

子供だからって手加減したらあかん。男の勝負はいつでもガチの世界や。世の中の厳しさってやつを教えてやらんと。ということで俺と治は格闘ゲームで完膚なきまでに孝太郎を叩きのめした。

「もっかい!もっかいやろーや!」
「孝太郎もう時間やで」
「えー!今ええとこやんか!」
「あかん」

俺と治が2連勝したところで時間がきてしまったらしい。負けたままで終われない気持ちはよくわかるけど、何回やっても小学生相手に負ける気はしない。

「ツムとサムもやりたいやろ!?」
「あー……」
「うーん……」

ゲームをやってる内に孝太郎との友情が深まり、俺と治のお互いの呼び方を「それかっこええな!」と言ってマネするようになった。コミュ力半端ない。
俺らもゲームやるのは楽しくて好きだけど、今日は勉強しに来てるし北さんとゆきさんの目があるから孝太郎の味方は出来なかつた。

「お母さんに言うで」
「あ、あかん!母ちゃんには言わんで!」

まだゲームをやりたいとゴネる孝太郎は、母親にチクられるとゆきさんに脅されて大人しくゲームの電源を落とした。

「ただいまー!」
「あ、お母さん帰ってきた」
「「!」」

そんな矢先にゆきさんのお母さんが帰ってきた。孝太郎の怯え様からして厳しいお母さんだと推察できる。俺と治はソファから立ち上がり背筋を伸ばした。シャツもちゃんとズボンの中に入れて身だしなみを整える。第一印象は大事や。なんとしてもゆきさんのお母さんには気に入られたい。

「ゆきー?孝太郎ー?お友達きとんのー?」
「おっ、お邪魔してます!」
「初めまして!」

スーパーの袋を腕に下げて入ってきたのはゆきさんに似て綺麗な女の人だった。めっちゃ緊張してきた。

「あら初めて見る顔やねえ。おっ、信介久しぶり!」
「ご無沙汰してます」
「宮侑です!」
「宮治です!」
「ゆきさんには、部活でお世話になってます!」
「今日は勉強見てもろてます!」
「ああ、噂の双子ちゃんやんな?ゆきから話聞いとるよー」

ゆきさんのお母さんは気さくに話しかけてくれて緊張も和らいだ。そしてゆきさんが俺らのことをお母さんに話してくれていたという事実がめちゃくちゃ嬉しい。

「せっかくやし晩御飯食べていきや!」
「え!」
「ええんすか!」

そろそろええ時間だし帰った方がええやろかと思っていたらゆきさんのお母さんからまさかのお誘いを戴いた。ゆきさんの家でゆきさんの家族と一緒に晩飯食えるなんて……こんなチャンスきっと二度と無い。

「母ちゃんのメシうまないで」
「孝太郎!!」
「ごめんなさい!」
「今日はうまく作れそうな気ィすんねん。ゆき手伝ってや」
「うん」

ゆきさんも手伝うてことはつまり、ゆきさんの手料理が食えるってことやんか。何なん今日。俺ら死ぬんか。こんな幸せなことあってええんか。

「ならまだゲームやっててええ?」
「あかん。兄ちゃん達勉強しに来てんで。孝太郎も信介に算数見てもらい」
「えー!」

ゆきさんの家庭での一コマが見ることができて、また少しゆきさんに近づけたような気がした。



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