17
「尾白くん」
「! 紺野」
昼休み。ゆきがいつものように食後のお菓子を買いに購買へ行くと、お菓子コーナーでわかりやすく悩んでいるアランを見つけた。
「何買うか迷てるの?」
「あー……紺野はどれが好きなん?」
「明治のチョコは全部オススメ。グミはな、刺激重視ならこっち、果汁重視ならこっち。それからしゃがりこの期間限定の味めっちゃ美味しいよ」
(……かわええ)
自分の好きなもの、得意分野のことを聞かれてゆきは嬉しかったのか饒舌に答えた。その姿を見て人知れず和んだアランは、今教えてもらったお菓子を数点手に取ってレジへ向かった。
「……やる」
「?」
そしてレジ袋ごとゆきに渡した。元々自分が食べるために買うつもりではなかった。アランも大耳や赤木のようにゆきの誕生日にプレゼントをあげたいとは思っていたのだが、何をあげたらいいか全然思いつかず、お店に入る勇気もなかなか無かったため結局お菓子に行き着いたのだった。
「こんなんで悪いけど……」
「ううん、嬉しい。ありがとう」
自分のためにアランがお菓子コーナーで悩んでくれてたのだとわかると、ゆきは嬉しそうに笑った。
***
「紺野、ちょっとええか」
「うん」
放課後、友人と遊びに行く前のゆきを別のクラスの北が呼びに来た。
「これ、誕生日プレゼント」
「!」
人気の少ないところまで来て渡したのは掌サイズの小さな紙袋だった。中学からの付き合いということもあって、北からは去年も誕生日プレゼントを貰っていたためそこまで驚きはしなかった。
「ありがとう。開けてええ?」
「……あかん」
「あかんの?」
「うん。ちょっと照れくさいから、家帰ったら開けてや」
渡したプレゼントを今この場で開けられるのは抵抗があるらしい。北の珍しい反応にゆきは首を傾げた。
「何で照れるん?」
「普段入らんような店行ったら店員さんがめっちゃ話しかけてきてな……」
「うん」
「俺はハンカチにしよ思てたんやけど、女子にプレゼント言うたらアクセサリー勧められてな……」
「……うん」
「こういうのって好き嫌いあるやろ?気に入らんかったらごめん」
「そんな……」
去年のような入浴剤やハンカチなど実用的な物だったら問題なかったのかもしれない。しかし今年はアクセサリーという、北にとって馴染みのないものを選んでしまった。気に入ってもらえる確証もないため、今この場でゆきの反応を見るのが照れくさかったのだ。
「けど、ちゃんと紺野に似合うやろな思て選んだから」
「!」
ゆきからしてみれば北が自分のことを思って選んでくれたものだったら何でもよかった。それを伝えても北は譲らないのだろうが。
「ありがとう。私は幸せ者やなあ」
大好きな同級生達に祝ってもらった今年の誕生日は格別だ。ゆきは紙袋を持つ手にぎゅっと力を込めて、心からその幸せを噛み締めた。
***
「「おはようございます!」」
「おはよう」
誕生日から一夜明けて翌日の朝。登校するゆきを靴箱で待ち伏せしていたのは宮兄弟だった。朝練終わりに遭遇することはたまにあっても、こうやってわざわざ出迎えられることはなかったためゆきは少し動揺した。
「ゆきさん今日ポニーテールや!」
「似合うてます」
「どしたん?」
「一日遅れてまったけど……」
「これ、俺らから誕生日プレゼントです」
「!」
どうやらゆきに誕生日プレゼントを渡すために待ち伏せをしていたらしい。双子がゆきの誕生日を知ったのは前日の夜だ。当日までにプレゼントが用意できず、やむ終えず今日渡す事になってしまった。
「ごめん、気を遣わせてまって……」
「「そんなんとちゃいます!」」
「……ありがとう」
貴重な部活のない日をプレゼント選びに使わせてしまったことに申し訳なさを感じると同時に、嬉しいとも思った。別にプレゼントが欲しいとかではなくて、こうやって祝おうとしてくれてることが嬉しかった。
「今開けてください!」
「わかった」
ふたりに急かされてラッピングを開けると、出て来たのはシンプルなブレスレットだった。
「かわええ」
「「ほんまですか!?」」
「うん。」
「俺はゆきさんには赤がええ思たんですけど、治が青のがいいとか言いよって……」
「侑が譲らへんから二色のにしたんです」
「色大丈夫すか?」
シンプルなデザインの中に小さな赤と青のストーンが入れられていて、ゆき好みのデザインだった。昨日の放課後、これをふたりがいろいろ言い合いながら選んでる姿を想像してゆきは自然と笑みをこぼした。
「うん。ふたりが私のこと思って選んでくれたんやもん……めっちゃ嬉しい」
「「!!」」
ゆきがこうやって嬉しい感情を素直に伝えられるのは双子に対して心を開いている証拠だ。
「……何しとんお前ら」
「「おはようございます!」」
「北くんおはよう」
嬉しそうに笑うゆきとそれを菩薩顔で見つめる双子。多くの生徒が3人のほわほわした空間を遠巻きに眺める中、その空間に突っ込んだのは北だった。
「……つけてきてくれたんや」
北はゆきの頭を見て照れくさそうにはにかんだ。双子が指摘したように、今日のゆきは珍しく髪を纏めている。ゆらゆらと揺れるポニーテールを根元で束ねているのは、昨日北から誕生日プレゼントとして貰ったヘアゴムだったのだ。
「うん。どうかな?」
「……似合うとる」
「どっ、どういうことすか!?」
「……何でもない」
「ふふ、何でもないよ」
ただならぬ雰囲気を醸し出すふたりを双子が交互に凝視するが、北もゆきも詳しくは教えてくれなかった。
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