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今日は10月5日……そう、俺たちの誕生日や。朝からクラスの奴らとかよく知らない女子とか色んな人に祝ってもらって、ついに待ちに待った部活の時間がやってきた。待ちきれなくて自らゆきさんのクラスまで行こうかと思ったけどさすがに我慢した。

「!」
「ゆきさ……」
「双子誕生日おめでとー」
「ふたりともおめでとー!」

ゆきさんの姿を見つけて駆け寄ろうとしたら傍から角名と銀が割り込んできた。邪魔すぎる。

「ゆきさんに先に言ってもらいたかったのに!!」
「喜べや」
「失礼な奴だな」

俺たちがどんだけゆきさんからの「おめでとう」を楽しみにしてたかわかっとんのか。2ヶ月前からやぞ。

「ほら、誕生日プレゼント」
「チロルチョコかい!絶対そこのコンビニで買ってきたやつやん!」

角名からチロルチョコをひとつだけ雑に貰った。そんなん部活終わりでええやろが。

「あ!!」

いつもはたったひとつのチョコレートでも率先して取りに行く治の姿が見えないと思ったらゆきさんの方へ駆け寄っていた。ほんまこいつ、最近抜け駆けが酷すぎる。遅れてなるものかと俺も全速力で後を追う。

「ゆきさんクッキー作ってくれました!?」
「クッキーじゃなくて、カップケーキを……」
「「おおーー!!」」

欲しくてたまらなかったゆきさんの手作りお菓子を渡されて俺も治も目を輝かした。ゆきさんの手作りならクッキーでもチョコレートでもカップラーメンでも何でもええ。感動や。めちゃくちゃ嬉しい。

「で、でもな、やっぱちょっと硬くなってまって……」
「ありがとうございます!!」
「今食ってええですか?」
「う、うん」

基本ゆきさんの作るお菓子は硬めになってまうらしい。それを恥ずかしそうにするゆきさんがかわええから問題なし。俺も治も家まで我慢できなくてその場で包装を開けた。

「うま!」
「幸せ!」
「……誕生日おめでとう」

確かに硬いっちゃ硬いかもしれんけど普通にうまかった。誕生日てええなあ。「おめでとう」も今日言われた中で一番嬉しかった。

「ゆきさんの誕生日はいつなんですか?」
「……」

そういえばと思って聞いてみたら、ゆきさんは少し言いにくそうに視線を泳がせた。もしかしてもう過ぎてまったんやろか。

「明日やんな」
「……うん」
「「え!?」」

言いにくそうにするゆきさんの代わりに北さんが教えてくれた。……明日!?

「ちょ、急すぎる!何も用意してへん!」
「別にええよ」
「あかんです!」

何で言うてくれへんのや。いや、何でもっと前に聞かんかったんや俺。急に明日と言われてもプレゼントとか何も用意できへんやんか。

「そや、明日どっか行きましょう!部活ないし!」
「ええなそれ」
「……明日は友達と一緒にカラオケ行く」

明日は部活ないしちょうどええやんって提案したら普通に先約があった。そらそうか。

「ゆきさんカラオケとか行きはるんですか!?」
「え、うん」

誕生日を一緒に過ごせないのは残念だけど、ゆきさんがカラオケに行くという事実に興奮を隠しきれない。歌声どんなんやろ。めっちゃ聞きたい。

「じゃあこの後どっか行きましょう!」
「俺らの誕生日も兼ねてお祝いしましょ!」

しかし「また今度」なんて悠長なことは言ってられへん。こうなったらゆきさんの誕生日を誰よりも早く祝ったろ。

「好きな食べ物何ですか?」
「……ヒラメの縁側」
「回転寿司行きましょう!!」


***


「昨日侑達と回転寿司行ったんやって?」
「うん。大耳くんも誘えばよかった」
「俺は用事あったから」

10月6日朝、HRが始まる前にゆきに話しかけたのは大耳だった。同じクラスではあるものの教室で大耳から話しかけるのは珍しいことだった。

「……これ」
「!」
「いつも世話になってるから、感謝の気持ちも込めて……な」

そして大耳が徐に手渡したのはラッピングされた小さな箱。どうやらこれが本題らしい。そのパッケージは百貨店に入ってるような有名なチョコレート専門店のものだった。
いつもマネージャーとして部活に貢献してくれているゆきの誕生日にプレゼントを渡そうと決めたものの、やはりどこか気恥ずかしさがあるらしく大耳は視線を泳がせた。

「ここのチョコレート食べてみたかった……ありがとう」
「そか、よかった」
「……今開けてええ?」
「おん」

まさか大耳から誕生日プレゼントを貰えると思っていなかったゆきは嬉しそうにそれを受け取った。しかもそのチョコレートは友人との会話の中で度々美味しいと話題に上がるお店のもので、ゆきは今すぐ食べたいという欲求に勝てなかった。

「食べてええ?」
「俺に聞かんでええやろ。食ったらええ」
「……おいしい」
「幸せそうで何よりや」

チョコレートを口に含んで目を輝かせるゆきを大耳が微笑ましく見つめた。無表情と思われがちな彼女だが、慣れてくればこうやって幸せそうな表情を見せてくれる。そのことを大耳が実感できたのはほんの数ヶ月前だった。

「大耳くんも食べてみて」
「いや、紺野にあげたもんやから……」
「美味しいから、食べてほしい」
「……一個だけもらうわ」
「うん」

美味しいものは共有するとより一層美味しく感じる。ゆきは大耳がチョコレートを口に含むと幸せそうにはにかんだ。


***


「紺野ー、これ俺から誕生日プレゼント!」
「! ありがとう赤木くん」

1限目が終わった後の休み時間、ゆきのクラスを赤木が訪ねてきた。目的はゆきの誕生日を祝うためである。ゆきが出迎えるとすぐに可愛くラッピングされたプレゼントを渡した。

「実はそれな、斎藤さんも一緒に選んでくれたんよ」
「やっぱり。真菜ちゃん好きそうなお店やもん」

ラッピングを見る限り、男子高校生一人では入りにくいような可愛らしいお店で買ったものだと思われる。赤木はゆきと仲が良い女子のことが好きで、そのことで度々ゆきに相談してもらったり協力してもらったりしていた。

「デートできてよかったね」
「なんか紺野の誕生日利用したみたいでごめんな!?もちろんめっちゃ祝ってるから!」
「うん、わかっとるよ。ありがとう」

ゆきの誕生日プレゼントを買いたいという目的は、彼女をデートに誘ういい口実になったようだ。今日の様子を見る限りデートは成功したのだろう。嬉しそうな赤木を見てゆきも嬉しくなった。

「真菜ちゃんとええ感じやね」
「そう!?そう思う!?」
「うん。嫌いな人と一緒に買い物行かへん」
「そうやんな!?」

ゆきの目から見て、ふたりはいい感じだ。実のところ友人側からも赤木に好意があると聞いている。

「告白してええかな!?」
「真菜ちゃんと赤木くんが付き合うたら私も嬉しい」
「紺野……!」

近い将来、大好きな友人ふたりが付き合うことになるのを思い浮かべてゆきは優しく微笑んだ。



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