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14


 
「何や何や?」
「双子が喧嘩やて!」
「マジか!」
「……」

ある日、ゆきが委員会で遅れて体育館にやって来ると部員以外の生徒達までもが集まって何やら騒然としていた。人の間を縫って体育館の中を見てみると、侑と治が取っ組み合いの喧嘩をしていた。いつもの他愛ない口喧嘩とは明らかにテンションが違う。ゆきがここまで本気の双子の喧嘩を見るのは初めてだった。


***


その後駆けつけた監督によって喧嘩は止められ、保健室で処置を受けてからふたりは監督と北からたっぷりとお説教をくらった。

「侑。治」
「ゆきさん……!」
「……」

長い説教を終えたふたりを出迎えたのはゆきだった。侑は目が合うと少し気まずそうに視線を逸らした。いつもはあまり目を合わせてくれないゆきだが、この時はしっかりと視線を合わせてきた。その瞳には先程散々突き刺さっていた北の眼光と似たものを感じた。マネージャーからも説教を受けるのかもしれないと思うとげんなりした。長時間正座をさせられて同じようなことをくどくどと言われた今、早く帰って休みたいというのが正直なところだった。

「……謝ったん?」
「「え?」」
「ふたりとも、お互いに謝らなあかん」

しかしゆきの口から出てきたのは説教とは少し違っていた。
説教を受けて監督と北に対しては「すんませんでした」と謝罪をした。しかしそれは騒ぎを起こしたことに対しての謝罪だ。ゆきが求めてるのは、お互いに対する謝罪。お互いに傷をつけてしまったことに対する謝罪だった。

「何でですか!俺悪ないし!」

表面上謝りはしたものの、腹の虫はまだ治っていない。ふたりとも謝る気はないようだ。

「……謝らんと口きかん」
「!?」

しかしゆきも譲らなかった。口をきかないという名前の脅し文句は侑には効果絶大なようで、悔しそうに口を開いた。

「……悪かった。言い過ぎたし、やりすぎたと思とる」
「……」

正直心からの謝罪ではないものの、一応謝った。一方で治は眉間に皺を寄せたまま何も言わない。

「治も、謝って」
「……嫌です。俺悪ない」

治の方は頑なに謝罪を拒否した。今回の喧嘩の発端は、治の調子が悪くて侑が悪態をついたことだった。自分が謝る筋合いはないと治は譲らなかった。普段温厚そうに見えて、実は治もかなりの負けず嫌いだ。こういう時は侑より聞き分けが悪い。

「侑は謝ったやんか」
「アイツが悪いから当たり前です」
「何やと!?」
「治は悪いことしてへん言うの?」
「はい」
「……」

確かに発端は侑だったかもしれない。けれど治に全く非がないわけではない。現に侑も負傷している。大事に至らなかったからいいものの、ふたりとも春高を控えた主力メンバーなのだ。こんなことで怪我でもされたら全国制覇の目標も元も子もない。

「治のわからずや」
「!」

意地を張る治をゆきが睨んだ。マネージャーの怒った顔を見たのはこの時が初めてだった。


***(治視点)


「……!」
「……」

侑と喧嘩をして、侑に謝らんと口きかんと言った紺野さんはほんまに口をきいてくれなくなった。口をきかないどころかあからさまに避けられている。
別に俺は侑ほど紺野さんに絆されとるわけやないし。別に話さなくても平気やし。そう思っていたけど、実際こうも避けられたら普通にショックだしイライラも溜まってきた。バレーもいまいち調子出んし、最悪や。

「まーだ意地張っとんの?いつでも謝ってくれてええんやで?え?」
「うっさいわボケ」

侑とはもう普通や。そりゃ家帰ってもずっと顔合わしとるからな。あのくらいの喧嘩、別に珍しくもない。男兄弟なんてそんなもんやろ。俺は悪ない。侑に謝る筋合いなんてない。俺もだけど、紺野さんも大概頑固もんや。


***


「紺野も頑固やな。まだ治と口聞いてへんのか」
「……だって、治はわかってへん」

休憩時間にトイレに向かったら紺野さんと北さんとアランくんが話してるのが聴こえて、咄嗟に見えないところで立ち止まった。後からついてきた侑に見つからないように静かにしろとジェスチャーした。

「喧嘩するのは別にええけど、手ェ出したらあかん。怪我でもしたらどうするん」
「まあ……ふたりともそこらへんは弁えてると思うで?」
「でも、血ィ出てた」
「あー……」

喧嘩したこと自体じゃなくて、殴り合いになったことを怒っていたのか。アランくんの言う通りそこらへんは弁えとるつもりだけど……女子の紺野さんからしたら殴り合いの喧嘩なんてカルチャーショックだったのかもしれない。怖い思いをさせてまったやろか。

「ふたりが怪我でバレーできなくなるんは嫌や」
「……ま、俺らも困るな」
「せやな」

結局は俺らの心配をしてるだけだった。まあ確かに……こんなくだらん兄弟喧嘩で怪我でもしたらチームに多大な迷惑をかけてしまうってのは事実や。

「……すまんかった」
「……おう、お互い様や」

今回は紺野さんに免じて謝ってやることにした。侑も謝ったしな。

「ゆきさーん!治が謝ってきました!額を地面に擦り付けて!」
「土下座なんかしとらんわ」
「!」

俺が謝ったことを大声で報告する侑に軽く殺意が沸いた。話盛っとるし。謝った矢先にもう殴りたい。

「そっか」

けど、微笑む紺野さんを見たらどうでもよくなった。

「……すんません」
「私に謝る必要はないよ」
「いえ、変な意地張って悪態ついてまった」
「それは……私もごめん」

紺野さんへは心から謝罪をした。お互いに謝ったら思いのほかすっきりして、紺野さんと少しだけ距離を縮められたような気がした。

「けど、侑も治も……みんなを代表してユニフォーム貰てんのやから、もっと自分を大事にしてほしい」
「!」

大人の説教は「周りに迷惑がかかるから」とか「常識外れやから」とか体裁を気にしてのことばっかやって昔から思っていた。でも紺野さんも北さんも監督も、俺らのことを想ってこその言葉だった。今更ながらにそれを理解した。俺はアホや。

「それに治は侑より体格良くて力もあるんやから、考えんとあかん」
「なっ……」
「はい」
「はいやないやろがッ!!」

悪気はないであろう紺野さんのその言葉はめちゃくちゃ侑に刺さったのがわかった。アランくんと北さんまでもが小さく噴き出した。ざまーみろ。
よく双子として一緒に考えられることが多いけど、紺野さんはちゃんと別個に考えてくれてるんやな。俺が侑より身長4ミリ高いことも、パワーあることもわかってくれとんのや。

「……ごめん、偉そうに説教するつもりはなかってん」
「いや、ええんです。今みたいの、もっと言ってええですから」

紺野さんともっと仲良うなりたい。笑てほしい。悲しませたくない。

「ゆきさんの言葉なら全部、大事にします」
「!」

この人を大事にしたいと、心から思った。なんだかんだ言っといて、俺も侑と変わらんみたいや。

「……治かわええなぁ」
「……」
「はあああ!?」

かわええと言われて悪い気はしない。頭を差し出したらゆきさんは優しく撫でてくれた。悪いな侑、今んとこ俺の方が一歩リードやで。



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